世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ビクトリアでの新しい試み -日本語ウェブページコンテスト

オーストラリア
ビクトリア州教育省
室屋 春光

日本語ウェブページコンテストのWebページの画面キャプチャ

2002年7月に日本語アドバイザーとしてビクトリア州教育省に着任して以来約3年になります。この間の私の業務内容については、重複をさけるためこの欄の上にある2003年度、2004年度分の報告をクリックして読んでいただくことにして、このページではこの半年ほどをかけて企画・運営した「日本語ウェブページコンテスト」という新しい試み(言語教育分野での試みとしては世界的にみても前例がないのでは?)について紹介したいと思います。

このコンテストはビクトリア州で日本語を教えている小学校と中高等学校を対象とし、先生と児童・生徒が協力して日本語でウェブサイトを作成し、コンテストのウェブサイトのギャラリー上で各校の作品(ウェブサイト)が競いあうというもので、学年によって以下の三つの部門に分かれ、それぞれの部門にトピックがあります。

小学校上学年部門(4-6年生):
どうぶつ
中高等学校低学年部門(7-8年生):
すきなもの、きらいなもの
中高等学校中学年部門(9-10年生):
私たちのまち

このコンテストを企画・運営するにあたっては、参加者に以下のような目的を達成してもらうことを考えました。

  1. 1.先生と児童・生徒が一緒に楽しみながらウェブサイトを作成する(これについては、いわゆる”reluctant learners - 学習活動がすきではない、また学習活動に参加することを拒んだり妨害したりする学習者” を日本語の授業にとりこんでいくことを意識しました)
  2. 2.先生と児童・生徒にコンピューター上での日本語の使い方を学ぶ機会と動機を提供する
  3. 3.先生と児童・生徒におもしろくかつ適度に難しい活動を通じてICT(=IT)の技能を養ってもらう
  4. 4.コンテスト用のウェブサイトを作成するスキルを学ぶことを通じて、先生がたに自校の日本語コースのウェブサイトを立ち上げることができるようになってもらう
  5. 5.日本語教育以外の技能(コンピューター技能)を学び、雇用を確保する材料とする(日本語の授業時間が削減され、日本語以外の科目も教えることを要求される先生方がかなりの数にのぼるため)

このコンテストを実施する上での技術的な面でのポイントの一つは、コンテスト参加ウェブサイトはマイクロソフトワードを使用して作成することが義務付けられているという点です。ウェブページ作成のためのソフトウエアはいろいろと市販されていますが、そうしたソフトウエアは必ずしも誰もが持っているわけではないので、参加校の間での公平を期すため、また生徒が容易にウェブページの作成に取り組めるようにするために、コンテスト参加ウェブサイトにはマイクロソフトワードの使用を義務付けました。また、コンピューターそのものは相当程度普及し、ほとんどの先生がたは日常的にワードやパワーポイントなどの基本ソフトを使用していますが、ウェブページの作成については経験のない先生がたがほとんどのため、コンテストの実施に先立って、州内各地(13ヶ所)でウェブページ作成の基本知識と技能を学ぶための研修会も実施しました。

コンテストのおおよその流れは以下のようになっています。

1月下旬:
コンテスト要項発表
2月中旬から3月上旬:
ウェブページ作成に関する研修会
3月から5月:
この期間に参加校は各自ウェブサイトを作成する。
4月22日:
参加申し込み締め切り
5月30日:
参加各校ウェブサイトアップロード最終日
6月上旬:
審査員による参加ウェブサイトのスクリーニング
6月6日:
コンテストギャラリーの公開
6月10日:
コンテスト結果の発表

事前のウェブページ作成の研修会には合計約130人の参加者があり、またコンテスト参加申し込み締め切りの段階では45校のエントリーがあったのですが、実際にウェブサイトのアップロードまでこぎつけた学校は残念ながら全部で11校となってしまいました。参加校の数が最終的にはかなり少なくなってしまった理由はいくつか挙げられるかと思いますが、主な理由としては「忙しくて教師・生徒の両者ともにウェブサイトを作成する時間が十分に取れなかった」「研修は受けたけれども、まだ技術的に自信がない」などという話を先生がたから聞いています。後者については、ウェブページ作成研修が諸事情により2時間1回という短時間詰め込み型のものとなってしまったことが関係していると思います。

実際にコンテストウェブサイトのギャラリーから各参加校のウェブサイトに行ってご覧になられるとおわかりいただけると思うのですが、なかなかの力作がそろっています。ウェブサイト作成に関してはほとんど知識も技術もなかった先生がたと児童・生徒の皆さんが協力して自分達のウェブサイトをアップロードするところまでこぎつけた、その努力には大いに敬意を表すべきものがあると思います。またアップロードまでこぎつけることができなかった学校の先生がたからも、おもしろい試みなのでまた機会があれば挑戦してみたいという声を聞いていますので、私自身は6月で日本語アドバイザーの任期は終了するのですが、もう一度このコンテストの開催に挑戦したいと考えています。

最後になりますが、私の任期終了をもってビクトリア州への日本語アドバイザーの派遣は打ち切りとなりますので、このことについて簡単にふれておきます。

オーストラリアの初等中等教育においてはLOTELanguage Other Than English - 英語以外の言語) 教育が1990年代に非常に盛んになり、ビクトリア州でもいろいろな言語が小学校(P-6年生)や中高等学校(7年生-12年生)で学ばれるようになりました。2000年代に入ってからLOTE学習者数はほほ横ばいあるいはわずかながら減少し、またLOTEの授業時間数も特に小学校では減少しつつあるという傾向にありますが、それでも州内のほとんどの小学校および中高等学校ではLOTE教育が行なわれています。残念なことに2003年度ごろから州政府教育省のLOTE教育に対する熱意は急速にさめてきてしまっているのが現状です。2002年までは主要LOTE言語(インドネシア語、イタリア語、日本語、フランス語、ドイツ語、ギリシャ語、中国語など)には各国派遣のアドバイザーと教育省側のオフィサーがいて、ペアで協力してそれぞれの言語の教育を支援する態勢がありました。しかし、2003年末には教育省側の各言語担当オフィサーはすべていなくなり、教育省に常駐する各国派遣のアドバイザーも現在では日本語と中国語のアドバイザーを残すのみとなりました。そして非常に残念なことには日本語アドバイザーも私の任期が終わる2005年6月をもって国際交流基金の派遣は打ち切られることが決まっています。

これについては現場の先生がたから派遣の継続を求める声がつよく、また3年間にわたって日本語教師支援の仕事に携わってきた私自身にとっても残念な措置だったのですが、国際交流基金の予算の問題や州政府のLOTE教育に関する動きなどから決定が覆るまでにはいたりませんでした。さいわいなことには、ビクトリアの日本語教育コミュニティーにはビクトリア日本語教師協会(JLTAV)というボランティア団体があって非常に活発かつ精力的に活動を続けており、また総領事館付属の日本広報文化センター(JICC)やメルボルン日本語教育センター(MCJLE)などの機関も熱心に日本語教師の支援活動をしています。また、私が02年9月に立ち上げた「日本語ビクトリア」という電子メールグループもビクトリア州の日本語教師の大半(会員数約530名)をカバーする強力なネットワークツールに育ちましたので、これからもビクトリア州の日本語教育コミュニティーはよりよい日本語教育に向けて前進していくものと思います。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ビクトリア州教育訓練省は、ビクトリア州の公立学校(初等・中等)における教育政策、カリキュラム作成、州共通高校修了試験(この試験は大学入学試験も兼ねている)、各教科に対する支援、教育人事、などについて計画実施する機関である。国際交流基金からは1995年から2005年6月まで専門家が派遣され、日本語アドバイザーとして日本語教育関係諸機関と協力して、教師研修、日本語教育に関する情報の提供、各地域における日本語教師ネットワークの形成・促進、学校訪問、教材作成、日本語教育に関するコンサルティングなどの活動を行った。
ロ.派遣先機関名称 オーストラリア・ビクトリア州教育訓練省
Department of Education & Training, Victoria
ハ.所在地 Level 3, 33 St. Andrews Place, East Melbourne, VIC 3002, Australia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

ページトップへ戻る