世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) オーストラリアNSW州教育省 日本語コンサルタントの仕事(2006)

オーストラリア
ニュー・サウス・ウエールズ州教育省
江原 有輝子

私の派遣先であるNSW州教育訓練省の言語教育課(Languages Unit)には、日本語以外に、中・韓・仏・独・伊・現代ギリシア語・アボリジナル言語のコンサルタントがいます。各言語のコンサルタントは、小学校から高校までの公立学校における言語教育の支援をしています。NSW州では多くの言語が教えられており、12年生(日本の高校3年生に相当)が受験するHSC (Higher School Certificate) という高校卒業資格試験(大学入学試験を兼ねる)は、日本語を含む30言語で受験することができます。

日本語については、HSCには「Beginners」「Continuers」「Background Speakers」の3種類のコースがあります。11年生で初めて日本語を学習する生徒は「Beginners」、それ以外の生徒は「Continuers」のコースを履修します。「Continuers」で特に優秀な生徒は「Extension」を履修しますが、このコースの指定教材は乙武洋匡の『五体不満足』で、試験内容もかなり高度なものです。

家庭内で日本語を話している生徒や、日本の学校に半年以上通ったことのある生徒は、「Background Speakers」コースを履修しなければなりません。「Background Speakers」コースがある学校は非常に少ないので、公立学校の生徒の多くは「土曜学校」に行きます。「土曜学校」は教育訓練省の管理下にあって通常の学校で履修できない言語を教えており、日本語のほかに、アルメニア語・ウクライナ語・クメール語・セルビア語・トルコ語・ラトビア語・ベトナム語など、24の言語を教えています。日本語の「Background Speakers」コースの授業内容は日本の国語によく似ていますが、HSCを受験するために、NSW州のシラバス(日本の学習指導要領に相当)に基づいた勉強をしています。

オーストラリアの日本語学習者の大半は初等中等教育の生徒たちです。オーストラリアは各州の独立性が強く、外国語教育のシラバスも州ごとに異なっています。そこで、各州の教育省が教員研修会を開催し、シラバスで指定された内容を学校で教えるための補助教材を作っています。日本語については、こうした仕事を、日本から派遣されたコンサルタントと、オーストラリア人のコンサルタントが協力して行なっています。

日本語コンサルタントの主な仕事は、教員研修会の開催・教材の作成・ニュースレターの発行・種々の相談への回答・学校訪問などです。2006年には「Beginners」シラバスの改訂が行われ、その過程で、日本語シラバスの日本語例文・漢字選定などに関するアドバイスを行いました。また、教育訓練省カリキュラム部は2006年半ばから新しいウェブサイトを立ち上げることになり、日本語関連のウェブサイトは江原が主に構築しました。どうぞ見に来てください。

生徒になってアクティビティをしている先生方の写真
生徒になってアクティビティをしている先生方
真剣に発表を聞いている先生方の写真
真剣に発表を聞いている先生方

NSW教育訓練省には、「日本語探検センター」があります。1999年に、日本企業の寄付を受け、高校の敷地の一角に日本家屋を模した建物が建てられました。そこで州内およびキャンベラの小学校から高校までの生徒が一日、日本語だけで様々な活動をします。年々人気が上昇し、2006年度も週に4日学生を受け入れていますが、もう予約がいっぱいです。コンサルタントは、「日本語探検センター」の仕事を手伝うこともあります。

2006年度は、日本語コンサルタントは、国際交流基金シドニー日本文化センターの資金援助も得て、2日間の「日本語教師研修大会」をシドニーで開催しました。NSW州と言っても、北端から南端まで千キロ以上、東海岸から州の西端までも千キロ以上あり、教師が一堂に会するのも容易なことではありません。

これまでは教師のメーリングリストで情報を送り、それによって教師のネットワーク形成を援助してきました。今回は、全員ではありませんでしたが、中心的な立場の教師90人がシドニーに集まり、ともに研修会に参加し、顔を合わせたネットワークを行うことができました。

初日は、シドニーの日本総領事館の川田総領事が、オープニングの挨拶をしてくださいました。

2日間で18の発表が行われました。国際交流基金シドニー日本文化センターの講師も招聘しましたが、発表者の大半は現場の先生方でした。「日本語教室でのパワーポイント使用法」「日本人の録音会話を使った実物教材の使用法」「日本のポップカルチャーをテーマにした日本語クラス」「高校上級レベルの文法の教え方」「日本旅行の企画と実践方法」「目的に沿った作文指導の方法」など、質の高い実践報告が続きました。

日本のお寺で10年間禅の修行をしたオーストラリア人教師による座禅のセッションもあり、みんなで静かに座りました。

先生方は、すばらしい実践報告を聞き、仲間の教師たちと情報交換をすることによって大いにはげまされ、「本当によかった」「また来年も開いてほしい」と言う声が聞かれました。大きな行事の企画は大変ですが、できればまた来年も開きたいものです。

ウェブサイト

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ニュー・サウス・ウエールズ州教育訓練省は、州内の初等・中等教育を管轄する州政府省庁である。外国語教育の支援を担当する外国語課は、省内のカリキュラムK-12部の中に属し、政策的な助言の提供やカリキュラム支援教材の開発、語学教師に対する研修の実施等を行っている。なお、州の高校修了試験および小中高校のシラバス等の作成は、Board of Studies という、別の組織が担当している。国際交流基金からの専門家は1991年から継続して派遣されており、アドバイザー業務としては、日本語教員研修会の開催、ニューズレターの作成、日本語教育教材の開発、学校訪問の実施等を行っている。
ロ.派遣先機関名称
New South Wales Department of Education and Training
ハ.所在地 3A Smalls Rd. Ryde NSW 2112 Australia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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