世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) シドニー日本文化センターの業務

シドニー日本文化センター
佐々木香織

一般向けの中級会話講座で日本語のおしゃべりに花を咲かせる受講生たちの写真
05年度より始まった一般向けの中級会話講座。仕事の後、日本語のおしゃべりに花を咲かせる受講生たち。

 国際交流基金シドニー日本文化センターでは、オーストラリア全体の主に初等中等教育レベルの日本語教育支援を行っている。オーストラリア全体といっても、各州の独立性が高く、学校制度やカリキュラムも州ごとに異なる上、各学校も多様で、生徒の背景(言葉・文化)もバリエーションが豊かである。それらの最大公約数的な支援とともに、各回のセミナーごとのきめ細かな支援も期待される。筆者が関わる主な活動としては、第1に、教材の開発作成、第2に教師研修などの教師支援、第3に情報発信とネットワーク作りである。そして第四に05年度から新たな取り組みとして一般社会人対象の講座開設が加わった。

 当センターは開設以来十余年の歴史があり、現地職員も現地講師もベテランである。現地化という意味では、非常に進んでいる。したがって、これらの業務の多くは、派遣専門家も含めて職員一同の協同作業により行われる。チームワークが何よりも肝要である。赴任して1年8ヶ月、2名の現地講師や多くの現地職員とともに、教材開発や機関紙「おむすび」用の原稿執筆に追われつつ、オーストラリア各地の研修に飛び回っている。着任当初は戸惑うことも多かった教育文化や学習スタイルの違いにも慣れ、最近は「オージー」化してきた自分に驚くことも増えた。

1.教材開発

 当センターではこれまで、様々なレベルを対象に、これまで多くの優れた教材・教具を開発し、各学校に寄贈してきた。(http://activity-resources.jpf-sydney.org/ar/) 現在、年内の完成を目指して、ニューサウスウェールズ州立美術館と共同で日本の美術を素材にした中等教育(中高生)向けの日本語教材を作成中である。

 また「おむすび」という当センター季刊機関誌の「Senseis’ Page」(http://www.jpf.org.au/06_newsletter/s_pages.htm)には、教室ですぐ使える日本語指導のアイディアや、日本語・日本文化に関するコラムなどを、筆者も含め講師3人で分担・執筆し、毎号掲載している。「すぐに使える」教材は、忙しい現地の日本語教師にとって、手軽で便利な補助教材となっている。これらはウェブサイトから自由にダウンロードできるようにもなっている。

 本年はこれまでの蓄積をできるだけ多くの人に利用してもらえるよう、センターの日本語セクションのウェブサイト(http://www.jpf.org.au/03_language/resources.htm)に改良を加え、既存の教材が検索できるようにする予定である。

2.教師研修

シドニー日本文化センターの図書館の写真
シドニーにおける日本語・日本文化の発信窓口の一つとなっている当センターの図書館。一般市民をはじめ、日本語を教える先生たちへの貸し出しも行う。

 当センターの最大の教師研修は、年2回開催される全豪、ニュージーランドの日本語教師を対象にした集中研修である。各地から初中等教育機関に属する日本語教師が当センターに集まる。文字通り「一期一会」である場合も多く、毎回受講生が変わるため、どのようなレベルの参加者が来ても対応できるよう周到な準備が必要である。また、すばやく各参加者のレベルを察知し、臨機応変に内容を微調整する応用力も要求される。

 当センターの教師研修以外にも、センター講師は各州あるいは海外で開催される教師セミナーや学会に呼ばれる。そこでは各州のシラバスやそこに集まる教師のニーズを踏まえた講座内容が求められる。筆者は現地のニーズを踏まえた上で、当センターの現地講師や各州派遣のアドバイザーの意見を参考に、各種の教材や資料を準備し、日本語力と日本語教授法の向上を目指したセッションを担当する。研修後、「授業で実際にやってみたら生徒に喜ばれた。」、「役に立つ情報をありがとう。」などと言われると、非常にうれしい。

 05度に現在当地(及びニュージーランド)の学校の日本語教師を対象としたオンライン講座を開講した。06年度は、受講者から要望の多かった第2段階のオンライン講座を開始する予定である。最終的には第4段階まで講座を設け、第4段階修了時で日本語能力試験4級レベルに達するよう順次講座を作成していく予定である。そのためのコース全体のデザインも講師全員で練り上げていく。

3.情報発信・ネットワーク形成

 前述の機関紙「おむすび」を通じて当センターからオーストラリア各地へ情報を発信するほか、オーストラリアの日本語教育に関する情報を世界へ発信するべく、日本語教育学会を始め海外の学会での発表を積極的に行うという方針のもと、論文等の助言を行っている。

 また各州の日本語教師のメーリングリストに参加して各州の日本語教育に関する新たな動きや行事などの情報収集したり、各州あるいは全豪へ情報を提供したりしている。電話やメールによる個別の日本語教育に関する問い合わせにも随時応じている。

 本年は当センター日本語セクションのウェブサイトの改訂に伴い、オーストラリア各州のシラバス集(http://www.jpf.org.au/03_language/syllabus2006.htm)と各州の教師ネットワークのリンク(http://www.jpf.org.au/03_language/jtnetwork.htm)も掲載された。

 当地では初中等教育機関における外国語科目としての日本語は、現地の教育を担当する各州教育省・シラバス委員会の発表するシラバスやガイドラインによって、その内容が決められている。学校制度も州ごとに異なる。したがって、全豪レベルでのネットワーク以上に、各州内のネットワーク形成がより重要な意味を持つ。国土が広く、実際に顔をあわせる機会を作るのは非常に難しいが、「オンライン」だけでなく、研修などを通じて顔が見えるネットワーク作りも積極的に支援していきたい。

4.一般向け日本語講座

 05年度試験的に開講された一般社会人向け講座は、非常に好評で、06年も継続実施されている。この講座は中級レベルの学習者を対象に、おもに新聞記事などを事前に読み、当日その話題について話し合うという形式である。講師は外部から大学の非常勤講師を招いて委託することもある。また、06年度は7月に初級講座も試験的に開講することになり、今その準備を進めている。当センターにおける一般向け日本語講座の歴史はまだ始まったばかりだが、今後、さらなる発展が期待できる分野であろう。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
シドニー日本文化センターの日本語教育部門は、1991年にシドニー日本語センターとして開設され、2004年に国際交流基金の機構改革に伴い、シドニー日本文化センターに統合された。全豪を視野に入れた日本語教育支援を行っており、主な事業内容は、教師研修会の開催、他機関主催研修会への協力、日本語弁論大会など日本語教育関連行事の支援、教材開発、日本語教育に関する相談業務、情報の提供と収集などである。05年度より一般人対象の日本語講座も開講。また、季刊誌「おむすび」を通じ、当センターの企画の広報や、日本の文化情報・日本語教材などを提供する。
ロ.派遣先機関名称
Tha Japan Foundation, Sydney
ハ.所在地 Shop 23 Level 1, Chifley Plaza, 2 Chifley Square, Sydney NSW 2000, Australia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

ページトップへ戻る