世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 今、クイーンズランド州では

クイーンズランド州教育芸術省クイーンズランドLOTEセンター
岸田理恵

 NALSAS (The National Asian Languages and Studies in Australian Schools) プログラム廃止後は勢いが衰えたかに見えるLOTE (Languages Other Than English) 教育も、ここクイーンズランド州では健在です。義務教育の6年生から8年生(日本の小学校5年生から中学1年生に相当)までの生徒は、必修科目の一つとして日本語、韓国語、中国語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、インドネシア語のいずれかの言語を学習しており、中でも日本語は依然として飛びぬけて学習者数の多い言語です。

LOTEセンター外観の写真
LOTE センター外観

 1980年代後半から全豪で始まったLOTE教育推進のため、1990年、クイーンズランド州教育省によって設立されたクイーンズランドLOTEセンターは、こうした学習者向けに言語教育の方法や教材の開発を続けてきたセンターです。現在は全言語の教育に共通して「タスクベース型IcLL (Intercultural Language Learning)」というアプローチを推奨しており、その最も新しい教材は今年32年ぶりにオーストラリアチームが参戦するサッカーの「FIFAワールドカップ」を題材として制作された「ワールドカップ2006」という教材キットの各国語版です。「タスクベース」とは、学習者に、積極的に取り組むことが求められるような現実的な課題を与え、その過程で必要とされる言語と文化的知識を学習させていくという教育方法です。また「IcLL」とは、例えば新しく引っ越して来た隣人との関係の作り方など、ある異文化接触の場面における言語行動について、母国(オーストラリア)の習慣に沿った場合を話し合った後、学習対象言語の国(日本)の習慣に沿った場合を学習し、双方の共通点や相違点を学んだ後、自分だったらどうするか、またそうした場面で自分の意思をどう伝達するか、ということを考える異文化学習の方法です。

LOTEセンター開発のIcLL教材「ワールドカップ2006」の写真
LOTEセンター開発のIcLL 教材「ワールドカップ2006」

 LOTEセンター開発の「タスクベース型IcLL」教材は、例えば「家のつくり」や「昼ごはん」など、学習者の日常に関連のある話題について、自他の言語や文化などの違いを学びながら、学習対象言語の聞く、話す、読む、書くという4技能について習得させることを目的として作成されています。1つの話題(モジュール)について学習するのに教室活動で必要な教材の数々が1つにパッケージされており、これさえ手に入れれば教師はすぐにでも授業が始められるという便利な教材キットです。LOTEセンターに併設されているLOTE図書館には、これまでに作成された各国語版の「タスクベース型IcLL」教材が収められており、LOTEの教師はいつでもこれを借りることができます。1学期間を通じて扱われる1つのモジュールは、いくつかのユニットから構成されており、教師は教師用手引書を参考に授業を進めます。教師の指導に従って各ユニットの課題を着実にこなしていけば、学習者はその話題について必要な言語を徐々に習得することができ、学期末には成果をまとめた作品を発表しあうこともできます。「ワールドカップ2006」(日本語版)もこうした教材の一つで「日本の子どもがオーストラリアに来て一緒にワールドJップを観戦する場合」を想定した課題、例えば「面白そうな試合のスケジュールを調べて順位をつける」とか「日本人の子どもがオーストラリアでワールドカップ観戦のお泊り会に参加するときに知らせることを考える」といったタスクを盛り込み、生徒たちが「日本から来る子どもたちに見せる観戦用ガイドブックを作る」という目的達成のため自主的に教材に取り組みながら、対象言語と文化を同時に学べる仕組みになっています。「ワールドカップ2006」の教材フォルダーには、LOTEセンターのスタッフが作成した教師用手引書、パワーポイントや音声の入った CD、コピーして使える生徒用の練習シートの原本、日本語フラッシュカード、絵カードなどのほか、日本で発行された雑誌、さらには日本の著作者から使用許可を得た写真や絵など、現地で手に入りにくいものも入っています。教材が完成すると、クイーンズランド州全域の日本語教師のもとへ「2学期用にこんな教材が開発されました」という内容のEメールが送信され、LOTE図書館を通じて貸し出しを希望する各地の日本語教師のもとへ発送されます。

 日本からLOTEセンターに派遣されている日本語アドバイザーの業務として期待されることは、こうしたLOTE教材作りへの参加だけではありません。教育芸術省や州内のその他の団体が実施する日本語教師研修への出講、毎日のように寄せられる州内の日本語教師や教師志望者からの多数の問い合わせや相談への対応、州立校の教職志望者に対する日本語能力査定の試験官、日本語弁論大会の審査員、日豪交流を目的とした教師交換、奨学金制度などについての助言等と様々ですが、集約すればクイーンズランド州における日本語教育の方法を学びながら、その発展のためにお手伝いできることを考え、実行していくという事に尽きるでしょう。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
クイーンズランド・LOTEセンターは州政府教育芸術省の付属機関であり、州内の初・中等レベル(基本的に州立校)におけるLOTE(Languages Other Than English)教育の支援をする機関である。1990年に設立され、1995年に現在地に移転。LOTE教育の図書館が同建物内にある。上席LOTE教育担当官3名と日本語アドバイザーが所属し、教材開発、教師研修、教師や関係各機関への助言等を業務としている。国際交流基金からの日本語教育専門家は1988年から現在まで継続して派遣されている。
ロ.派遣先機関名称
Queensland LOTE Centre, Education Queensland, Department of Education and the Arts
ハ.所在地 Corner of Montague and Ferry Roads, West End, Queensland 4101, Australia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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