世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 南半球の島-タスマニア-の日本語教育

タスマニア教育省
原田 明子

美しい島、タスマニア

 Next stop is South Pole.(次の駅は南極)と言われるオーストラリアの南に浮かぶ美しい島、タスマニア。ここに日本語アドバイザーとして赴任し、5ヶ月を迎える。教育省所属ながらもオフィスは高校の職員室の片隅にあるので、高校の行事やスタッフミーティングにも参加し、タスマニアの教育制度、教師の考え方、生徒への接し方を日々肌で感じながら、仕事をしている。

アドバイザーの仕事

 タスマニアにおける日本語アドバイザーの仕事は多岐にわたる。現地教師のサポート、学校訪問、セミナーやワークショップ開催、ニューズレター発行、教材やリソース紹介、卒業試験問題の作成などの日本語教育だけではなく、日豪交流行事への参加、日本の最新事情発信、文化的な交流活動にも積極的にかかわっていく。

学校訪問

日本語クラスで、鯉のぼりについて説明する先生の写真
日本語クラスで、鯉のぼりについて説明する先生

 学校訪問は、直接生徒たちと触れ合う機会でもあるので楽しい仕事だ。小学校のクラスに入ると、あれ、この人は?日本人?と好奇な視線を向けてくる。黒板に漢字で名前を書くと、おーっとため息。地図を描いて日本を紹介すると、香港はどこ?カナダは?インドは?と矢継ぎ早に質問が来る。先日は、子どもの日だったので、鯉のぼり、刀を持参して説明する。Samurai Swordだ!はらきり! 忍者!と男の子から歓声が上がる。彼らは、刀が大好きだ。タスマニア北西部のロンセストン、デボンポート、バーニーの学校にも泊りがけで行く。日本研修旅行を控えている高校では、日本語へのモチベーションも高く、ケイタイ、デジカメ、コンビニと省略形を紹介すると、必死に覚えようとしている姿がほほえましい。バーニーでのLOTE(Languages Other Than English)ミーティングには、車で1時間半もかけて各地から日本語の先生がやって来た。どんな授業をしているの?何か必要なリソースはない?ニュースレターは届いている?と情報交換もしっかりする。今回はMedia Playerを使用したPhoto Storyのワークショップを兼ねており、主催者側の丁寧な指導で先生方は見事にマスター。次回のニにきっと役立ててくれるだろう。

異文化理解教育としての言語教育

 ELs*を教育の中心理念としている小中学校では、コミュニケーションのためというより、異文化理解としての言語教育が盛んだ。みんな違ってみんないい、という考え方。人との違いを認識して、自己を確立する。親がオーストラリア人ではなくバイリンガル環境にいる子どもたちも多く、異なる言語に対する興味は高い。先生は漫画、ゲーム、あそび、歌をうまく取りまぜながら授業を行う。International Food Fairでは寿司、焼きそば、お好み焼きはいつも人気の的だ。ゴールデンウイーク開けのNHKニュースを教材にして、日本の連休の過ごし方、交通機関のあれこれ、家族のあり方などに触れながら、活発に授業を進めていく。実際の言語的側面だけではなく、言語に付随した文化的側面にも重点を置く授業に対して、どのように効果的にサポートしていくかは、アドバイザーの腕の見せ所。様々なリソースや役立つウェブページの紹介、日本の最新情報の発信、日本語の表現の奥に潜む日本人的な考え方や行動パターンの説明、などをメールやニュースレターを通して随時行っている。

ELs(Essential Learnings)従来の知識詰め込み型教育ではなく、多角的な方法での学習・評価を目指した新しい教育理念。

遠隔授業

スカイプを使った日本の小学生との遠隔交流の写真
スカイプを使った日本の小学生との遠隔交流

 5月末に長野県塩尻市とホバートの小学校の間で、スカイプ(IP電話)を使用した遠隔授業が行われた。お互いの文化・お菓子・動物紹介、○×ゲーム、じゃんけんゲームと続き、きらきら星を双方の生徒が英語と日本語で合唱して終了。土曜日の午後にもかかわらず、たくさんの生徒や保護者が集まり、充実した素晴らしい異文化交流が実現した。北半球と南半球のほぼ同経度に位置する日本とタスマニア、時差は1時間しかないため、こうした試みは今後増えていくと確信する。

教師の日本語力

 他のオーストラリアの州と異なり、タスマニアには日本人が少ない。従って日本語を話す機会もほとんどなく、日本語教師の日本語力はかなり低いのが現状だ。会議はもちろん、メールでのやり取りや日々の打ち合わせもそのほとんどが英語。小学校教師の中には、日本語能力試験4級程度の人も少なくない。日本語がもっとうまくなりたいと願っている教師は多いはずなのに、ELsへの対応や日々の業務に追われて後回しにされている。特に聴解力と会話力のレベルアップが問題だ。隔週で会話クラスを設けているが、土日や平日5時過ぎはプライベートの時間と割り切っているTassie(タスマニア人)に対して、いつどのような形で日本語クラスを提供すべきか。オンラインやメールでの添削では、読み書きはできてもなかなか聞く話す力は養われない。今後の課題である。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
タスマニア州教育省は、州内の公立学校(初等・中等教育)を管轄する政府省庁であり、カリキュラム作成および政策的助言、教材開発、教師研修の実施、各教科に対する支援などについて計画実施する機関である。国際交流基金からの専門家派遣は1998年に始まり、日本語アドバイザーとしてセミナー・ワークショップ開催による学習機会の提供、教材や教え方に対する助言、学校訪問、ニューズレター発行、教師のネットワーク作り、高校卒業試験(Tasmanian Certificate of Education) 作成などの活動を行っている。
ロ.派遣先機関名称 オーストラリア・タスマニア州教育省
Department of Education, Tasmania
ハ.所在地 Letitia House, Olinda Brove, Mt.Nelson,Tasmania
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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