世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) オーストラリア・ニュー・サウス・ウェールズ州 教育訓練省 日本語コンサルタントの仕事

オーストラリア・ニュー・サウス・ウェールズ州教育訓練省
江原 有輝子

私の3年間のニュー・サウス・ウェールズ州(以下NSW州)教育訓練省での仕事も終わりに近づきました。現地の日本語教育は、今後国際交流基金シドニー日本文化センターより、支援を受けることになります。そのため、NSW州教育訓練省の国際交流基金派遣の日本語コンサルタント(日本語教育専門家として派遣されていますが、現地ではコンサルタントの呼称で活動)は私が最後になりました。

NSW州教育訓練省の言語教育課(Languages Unit)には、日本語以外に、中・韓・仏・独・伊・現代ギリシア語・インドネシア語・アボリジナル言語のコンサルタントがいます。各言語のコンサルタントは公立の小学校から高校までの言語教育の支援をしています。NSW州では多くの言語が教えられており、12年生(日本の高校3年生に相当)が受験するHSC(Higher School Certificate)という高校卒業資格試験(大学入学試験を兼ねる)は、日本語を含む30言語で受験することができます。

日本語については、HSCには「Beginners」「Continuers」「Background Speakers」の3種類のコースがあります。11年生で初めて日本語を学習する生徒は「Beginners」、それ以外の生徒は「Continuers」のコースを履修します。「Continuers」コースの履修者で優秀な生徒は「Extension」が履修できますが、このコースの指定教材は2008年までは乙武洋匡の『五体不満足』、2009年からは映画『千と千尋の神隠し』が採用予定で、試験内容も高度なものです。

家庭内で日本語を話している生徒や、日本の学校に半年以上通ったことのある生徒は、「Background Speakers」コースを履修しなければなりません。このコースがある学校は少ないので、公立学校の生徒の多くは「土曜学校」に行きます。「土曜学校」は教育訓練省の管理下にあり、通常の学校で履修しにくい、アラビア語・アルメニア語・ベンガル語・マケドニア語・マルタ語・リトアニア語など、24の言語を教えています。日本語の「Background Speakers」コースの授業内容は日本の高校の国語に似ていますが、HSCを受験するために、NSW州のシラバス(日本の学習指導要領に相当)に基づいた勉強をしています。

オーストラリアの日本語学習者の大半は初等中等教育課程の生徒たちです。オーストラリアは各州の独立性が強く、外国語教育のシラバスも州ごとに異なっています。そこで、各州の教育省が教員研修会を開催し、シラバスで指定された内容を学校で教えるための補助教材を作っています。日本語については、こうした仕事を、日本から派遣されたコンサルタント(国際交流基金から派遣された日本語教育専門家)と、オーストラリア人のコンサルタントが協力して行なってきました。

日本語教育専門家は、日本語コンサルタントとして業務を行っており、主な仕事は、教員研修会の開催・教材の作成・ニュースレターの発行・種々の相談への回答・学校訪問などです。2006年から2007年にかけて「日本語Extensionコース」の新しい指定教材選定が行われ、その過程で日本語コンサルタントは資料や情報提供を行って、協力しました。教育訓練省カリキュラム部は2006年半ばから新しいウェブサイトを立ち上げ、日本語関連のウェブサイトは江原が主に構築しました。どうぞ見に来てください。
NSW州教育訓練省カリキュラム部日本語科目ページご参照。

日本語探検センターでコタツを紹介している写真
日本語探検センターでコタツを紹介する
日本語教師研修大会のアクティビティでダンスをしている先生方の写真
日本語教師研修大会のアクティビティでダンスをしている先生方
NSW州立美術館での午後のお茶の写真
NSW州立美術館での午後のお茶

NSW州教育訓練省には、「日本語探検センター」があります。日本企業の寄付を受け、1999年に高校の敷地の一角に日本家屋を模した建物が建てられました。そこで州内およびキャンベラの小学校から高校までの生徒が一日、日本語だけで様々な活動をします。2006年には、在シドニー日本総領事館の教育担当領事がセンターを訪問して生徒たちの活動の様子を視察されました。

日本語コンサルタントは2007年度も、昨年に引き続き、在シドニー日本総領事館・国際交流基金シドニー日本文化センターの支援を得て、二日間の日本語教師研修大会をシドニーで開催しました。「前回とてもよかったので今回もぜひ参加したい」という人が多く、100人以上の教師がシドニーに集まり、ネットワークを広げることができました。

在シドニー日本総領事館の川田総領事が、開会の挨拶をしてくださいました。今回は特別セッションとして、NSW州立美術館で開催中の「手塚治虫」の展覧会観覧・展覧会担当者のトーク・美術館でのアフタヌーンティーを研修会プログラムに組み込みました。すばらしい絵画に囲まれ、美しいシドニー湾を見下ろしながらの歓談は、心が洗われるようでした。

発表は「日本語教室でのパワーポイント使用法」「日本語教育のための歌とラップとダンス」「映画を使った教室活動」「日本旅行の企画と実践方法」「読解スキル指導の方法」などの質の高い実践報告のほかに、西オーストラリア州に国際交流基金から派遣されている日本語教育専門家の藤光専門家が、「日本語の役割語」「友達になろう」の二つの興味深いセッションを担当してくださいました。

参加した先生方は、多くの実践報告を聞き、仲間の教師たちと情報交換をすることによって大いに励まされ、「本当によかった」「また来年も開いてほしい」と言う声が聞かれました。3年の仕事の総まとめとして、このような大きな行事を企画・実施することができ、心から喜んでいます。

さらに大きな喜びは、2007年2月に、オーストラリア人日本語コンサルタントのサリー・シマダさんが、NSW大学の木下トムソン先生とともにオーストラリアでの日本語教育に対する長年の貢献を高く評価されて在シドニー日本総領事館から表彰されたことでした。

これからもNSW州の日本語教育が発展し続けることを心から願っています。

ウェブサイト

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ニュー・サウス・ウエールズ州教育訓練省は、州内の初等・中等教育を管轄する州政府省庁である。外国語教育の支援を担当する外国語課は、省内のカリキュラムK-12部の中に属し、政策的な助言の提供やカリキュラム支援教材の開発、語学教師に対する研修の実施等を行っている。なお、州の高校修了試験および小中高校のシラバス等の作成は、Board of Studies という、別の組織が担当している。国際交流基金からの専門家は1991年から継続して派遣されており、アドバイザー業務としては、日本語教員研修会の開催、ニューズレターの作成、日本語教育教材の開発、学校訪問の実施等を行っている。
ロ.派遣先機関名称
New South Wales Department of Education and Training
ハ.所在地 3A Smalls Rd. Ryde NSW 2112 Australia
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名

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