世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) オーストラリア -学校教育としての日本語教育先進国

国際交流基金シドニー日本文化センター
松本剛次

教室の様子の写真
教室の様子

 皆さんこんにちは。2007年4月に国際交流基金シドニー日本文化センターに赴任した松本剛次、と申します。まだ、赴任して日が浅いのですが、今回は「学校教育」としての日本語教育、という観点からこちらでの日本語教育についてお話したいと思います。

 ご存知のようにオーストラリアは世界の中でも日本語教育が盛んな国の一つですが、その日本語教育のほとんどは初等、中等教育、つまり学校教育の中での一科目として行われています。そしてその学校教育の枠組みやその中で進行しているプロジェクトには日本も含め、他の国の参考になるようなシステムや試みが多く見られます。

 例えば、アメリカやヨーロッパでも作成され、日本でもその動きが見られる日本語教育、外国語教育の「枠組み」(ガイドラインやフレームワークと呼ばれています)の作成は、オーストラリアでは1988年から既に行われています。これはAustralian Language Level Guideline(以下ALL guideline)というものでオーストラリア全土の初等教育から高校段階までの学校における外国語教育の指針、枠組みを示したものです。ここでは言語教育を「相互に関連した5要素の組み合わせ」と捉えています。その5要素とは「communication(コミュニケーション)」を中心に「sociocultural(社会文化)」「Language and cultural awareness(言語や文化への気付き)」「Learning-how-to-learn(学習の仕方を学ぶ)」「General Knowledge(一般知識)」の5つです。言語によるコミュニケーションを目的としながらも、その学習を通して、言語学習を手段として、社会や文化、学習方略、その他の知識を学ぶ、という点で、学校教育の中に言語学習がしっかりと位置づけられています。

教師会セミナーの写真
教師会セミナー

 そして、さらに最近では、Intercultural Language Teaching and Learning(以下ILTL)という考え方も提唱されています。このILTLというのは、具体的な教授法というよりはむしろスタンス(立場、態度)といったもので、ここでは「言語と文化は密接に結びついたものである。文化が言語構造と言語使用を作り上げている」という認識に立ち、文化学習、言語学習、言語学的学習とを一つに統合して教えることが唱えられています。ここでは詳しくは説明できませんが、このようなスタンスに基づいた授業を行う際には、教師には、授業を活発なものにし(Active construction)、社会的なやり取りを授業の中に出来るだけ取り込み(Social Interaction)、学生にその授業で学んだことを既に持っている知識や他教科で学んだことと関連付けるようにさせ(Making connection)、学んだことを振り返らせ(Reflection)、自身の学習に対して責任を持たせる(Responsibility)ようにすることが求められています。

 このように書くと皆さん「オーストラリアの日本語教育は進んでいるなあ」と思われるでしょう。しかし、これらはすべて方針というか理念的な部分での話で、現実はまだまだ課題が多いのも事実です。残念ながら前述のILTLの考え方も十分に理解されているとは言えず、文化を紹介すればILTLと思われている向きもあります。そして、このような学校教育で日本語を学習した学生たちが、本当に日本語でコミュニケートできるようにまでなっているのか、と言うと、正直疑問なのが現状でもあります。学生たちは「学校教育」の一環として、言語学習を手段として、社会や文化、学習方略、その他の知識を学んでいます。そして、やはり「言語教育」である以上、言語能力、日本語能力、特にコミュニケーション能力の向上を目指しています。そのために我々にはどのような支援ができるのか? 微力ではありますし、果たして自分に何ができるのだろうか、という思いもありますが、現地の日本語の先生がた、日本語学習者の皆さん、そして日本語教育全体の発展のために、これからがんばっていきたいと思います。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
シドニー日本文化センターの日本語教育部門は、1991年にシドニー日本語センターとして開設され、2004年に国際交流基金の機構改革に伴い、シドニー日本文化センターに統合された。全豪を視野に入れた日本語教育支援を行っており、主な事業内容は、教師研修会の開催、他機関主催研修会への協力、日本語弁論大会など日本語教育関連行事の支援、教材開発、日本語教育に関する相談業務、情報の提供と収集などである。05年度より一般人対象の日本語講座も開講。また、季刊誌「おむすび」を通じ、当センターの企画の広報や、日本の文化情報・日本語教材などを提供する。
ロ.派遣先機関名称
Tha Japan Foundation, Sydney
ハ.所在地 Shop 23 Level 1, Chifley Plaza, 2 Chifley Square, Sydney NSW 2000, Australia
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名

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