世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 教師たちの現場に学びながら

西オーストラリア州教育省
藤光由子

教師たちの現場に関わりながら

学校訪問で滞在した西オーストラリア州南西部の農場風景写真
学校訪問で滞在した西オーストラリア州南西部の農場風景、日本語教育に深い愛情を注ぐ教師たちと農場コテージで語り合った

 西オーストラリア州教育省(以下、教育省と略)でアドバイザー(日本語教育専門家として派遣されているが、現地ではアドバイザーの呼称で活動)の主要業務とされる学校訪問は、当地の多様な教育現場に直接触れることができるすばらしい機会です。赴任して3ヶ月。教育省の遠隔地教育センター(School of Isolated and Distance Education)の教師に同行し1泊2日の出張で学校訪問に出ました。朝5時に起きて300キロ以上離れた西オーストラリア州南西部の町に向かいます。遠隔地教育センターの通信システムで日本語を学習する小学生たちが待つ学校までは片道5時間のドライブ。担当の気さくなL先生の準備に付き合って、車に積み込む仕事道具のボリュームに驚きました。パースの食料品店で調達したお好み焼きの材料40人分と調理器具、L先生手作りの浴衣や帯、はっぴがあわせて20着は入った衣装箱、生徒のすもう大会で使う力士の着ぐるみ(これも手作り)2着、撮影用のビデオカメラ、お箸で豆をつまむゲームのクラスセット、無地の扇子にちぎり絵風に色紙を貼ってオリジナルデザインの扇子をつくる工作キット40人分。そして日本の友人の開く英語塾の生徒たちから届いたという、オーストラリアのまセ見ぬ友への手紙の束。簡単な日本語と習いたての英語で日本の小学生たちの自己紹介が書かれているのを、L先生は楽しくて仕方がないという表情で見せてくれました。訪問先の小学校の高学年の生徒にお返事を書いてもらうのが、今学期の学習のまとめの活動とのこと。オーストラリアの動物たちをあしらった便箋セットも忘れずに詰め込まれます。

 一方、L先生のリクエストでわたしが教材として持参したのは、小学生の息子が日本の学校で使っていたランドセルでした。日本の文具一式、返却されたテスト、宿題のプリント、持ち歩いていたお気に入りのマンガや絵本、教科書やノートもある日の時間割をそろえた状態で入れてあります。訪問先での授業では、生徒たちにランドセルを背負ったり手にとったりしてもらいます。生徒たちはランドセルの中身にも、ちょっとした飾りにも興味津々です。かたちも中身もよく観察したあと、生徒たちは習った日本語を使って、発見したこと、わかったことを発表します。ランドセルの持ち主についての質問も大歓迎。こちらは質問にはすぐには答えず、「何に使うと思う?」「名前は何だと思う?」「どうしてだと思う?」などと返して考えてもらうようにします。国語の教科書を手に取りはじめて縦書きの本を見たという生徒もいました。そろばんを習ってみたいという生徒もいました。日本の小学生のランドセルはクールだとほめてくれる生徒もいます。

 L先生のほうは手作りの浴衣の着付けも手馴れたもの、生徒たちは日本のコスチュームで学校内を校長室まで得意そうにパレードし、コミュニティのニュースレターのカメラに微笑みます。2日間を通じ用意したアクティビティーが次々と手際よく展開され、芝生の上のマットのすもう大会では最高の盛り上がりを見せ、最終日のランチタイムのお好み焼きパーティーで締めくくられました。現場に立ち会うわたしは、生徒たちの反応をできるかぎり観察して、気づいたことを担当の教師に伝えます。遠隔地教育センターの先生たちが担当校を訪問するのは1年に1回。生徒たちは「また来年」を楽しみにしていることでしょう。

アドバイザーの仕事の前提

 着任したばかりのアドバイザーとして、いちばん大切にしているのは「現地の人の話をよく聴く」ことです。日本語教育に関係するあらゆることに興味を持ち、積極的に学校訪問の要請に応じ、現場のリアリティを身をもって体験できるような機会を求めて活動しています。また、自分のポジションが、どういう領域で最も効果的に現地コミュニティに貢献できるだろうかと日々模索しています。現地の先生たちとってオープンに話ができる友人となることは、アドバイザーの教師支援の仕事の前提になります。

現地の公的サポートシステムに融合しつつ

現職教師による現職教師のためのサポートチーム、州立学校の日本語教師ネットワーク開発を担う教師たちの写真
現職教師による現職教師のためのサポートチーム、州立学校の日本語教師ネットワーク開発を担う教師たち

 今年度、教育省は、日本語を含む外国語科目担当教師に対する支援の強化を目的とする積極的な施策を打ち出しました。州各地から選抜した14名の州立学校の現職外国語教師をパートタイムのネットワーク・コーディネーターとして任命、これらのコーディネーターが担当言語別のチームで教育省の言語科目コンサルタントとの連携を密にしながら、全ての州立学校の外国語教師のサポートを担当するというシステムです。日本語のチームには、パースの小学校教師が1名、遠隔地教育センターの教師が1名、内陸部の小中一貫校の教師が1名、南部の中学高校一貫校の教師が1名選ばれ、それぞれの担当地域を持ち、地域ネットワーク形成の要となろうとしています。アドバイザーは特に担当地域はありませんが、チーム全体のリソースパーソンとして位置づけられています。教育省の現職教師による現職教師のための画期的なサポートシステムの構築を見守りながら、サポートの内容面の質的な深化に貢献し、ときには教師の意識を揺さぶり、考えさせるための材料を用意することができたらと考えています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
西オーストラリア州教育省は、州内の公立初等中等教育機関を管轄する政府省庁である。日本語教育専門家は州の外国語教育支援政策全般を担当するコンサルタント2名、および州で最も学習者数が多いイタリア語の専門アドバイザー1名とともに、学校教師支援のためのコンサルティング業務全般を担っている。国際交流基金からの日本語教育専門家は1998年から継続して派遣されており、具体的な業務としては、学校訪問による模擬授業、日本語教師研修の実施、教材や各種研修プログラムおよび奨学金等についての情報提供、省内外の日本語教育関係者のネットワーク構築支援を行っている。
ロ.派遣先機関名称 西オーストラリア教育省
Department of Education and Training of Western Australia
ハ.所在地 151 Royal Street, East Perth, WA 6004 Australia
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名

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