世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 多文化社会に生きる子どもたち

クイーンズランド州教育芸術省クイーンズランドLOTEセンター
岸田理恵

 オーストラリア北東部、国土のおよそ4分の1の面積を占めるクイーンズランド州は、温暖な気候と世界有数の自然遺産に恵まれ、年間を通じて世界中から観光客が訪れる土地です。最近は日本から最も近い英語圏として、留学や就労体験を目的として長期滞在する日本人も少なくありません。交通の便が良く、時差が少ないだけでなく、インターネットの普及によって海外との情報交換が簡便になった今、魅力的な土地柄に惹かれ永住を希望する台湾、韓国、そして日本からの移住者も年々増加する傾向にあり、クイーンズランド州の多文化的傾向は年々その色合いを濃くしていると言えるでしょう。

 こうした現象を背景として、クイーンズランド州政府はコミュニティー言語保持のためAfter Hours Ethnic Schooling (初中等教育課程の生徒に正規授業時間外に英語以外の言語を教える学校:以下AHESと略す)プログラムの予算を組んでいます。現在このプログラムにより州教育省の認可を受けて運営されるエスニック・スクールは中国語学校、イタリア語学校、ドイツ語学校、ベトナム語学校など計約60校以上に及び、クイーンズランド州に在住する子どもなら誰でも、どのエスニック・スクールにでも入学を希望することができます。そして、これらエスニック・スクールの監督と指導はクイーンズランド・LOTELanguages Other Than English)センターの担当業務の一つになっています。

日本語エスニック・スクールの集会の写真
日本語エスニック・スクールの集会
日本語エスニック・スクールの書道の時間の写真
日本語エスニック・スクールの書道の時間

 昨年、初の日本語エスニック・スクール、Japanese Language and Culture School of Brisbane(日本名:ブリスベン日本学園)がAHESの認可校に加わりました。毎週土曜日の午後、ブリスベン市内のある州立高校の校舎に、多様な背景を持つ6歳から15歳までの子どもたちが集まってきます。彼らがこの学校に日本の言語や文化を学びに来る理由は、両親のどちらかが日本人である、日本での滞在経験がある、知り合いの日本人の影響で日本語に興味を持つようになった、など様々ですが、全員に共通するのは日本語を第二言語として自信を持って使えるようになりたいという強い学習動機です。学校の運営は生徒の保護者などのボランティアたちに任されており、指導にあたる教師たちは全員クイーンズランド州で初中等教育課程の教員免許を取得した日本語母語話者です。開校からわずか1年ですが、学校独自のカリキュラムが作成され、クイーンズランド州在住の子どもが学ぶのに相応しい日本語の教材を用いて授業が行われています。学期ごとに季節に応じた文化的行事や書道体験の授業も実施され、現地校の学期中、週1回2時間半という短時間ながら充実した教室活動が行われています。

 一方、クイーンズランド州の初中等普通教育過程においては、20年ほど前から州立、私立を問わずLanguages Other Than English(以下LOTEと略す)教育が推進されており、日本語はクイーンズランド州教育省の推奨7言語(日本語、中国語、韓国語、インドネシア語、フランス語、イタリア語、ドイツ語)中、最も学習者数の多い言語です。LOTE教育の選択言語は学校の方針によって決められることになっており、2007年5月現在、州立学校においては小学校のYear 6(日本の小学校5年生:11歳)から高校の Year8(日本の中学1年生:13歳)までの生徒は必修科目として学校指定の言語を学習しなければなりません。また、州全域の初中等教育課程における教育内容と評価方法を統一するため、クイーンズランド州教育省では2008年を目標にした教育改革、すなわちQueensland Curriculum, Assessment and Reporting(通称QCAR)の実施に向けた準備作業が行われています。これに伴い、クイーンズランド・LOTEセンターではLOTE科目の教育課程を一貫性あるものにし、背景の異なる複数の生徒の指導にも対応できるよう、新しいLOTEカリキュラムの作成に取り組んでいます。

 クイーンズランド州では、子どもを取り巻く環境においてもグローバル化による言語や文化の多様性への対応が強く求められるようになっています。クイーンズランド・LOTEセンターに常駐する国際交流基金派遣の日本語教育専門家のPCには、クイーンズランド州全域だけでなく、日本中から日豪交流の相手校を求めるEメールが毎日のように飛び込んでくるようになりました。日豪両国の学校の子どもたちの間に立って国際交流活動のお手伝いができるのも、派遣専門家の楽しみの一つと言えましょう。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
クイーンズランド・LOTEセンターは州政府教育芸術省の付属機関であり、州内の初・中等レベル(基本的に州立校)におけるLOTE(Languages Other Than English)教育の支援をする機関である。1990年に設立され、1995年に現在地に移転。LOTE教育の図書館が同建物内にある。上席LOTE教育担当官3名と日本語アドバイザーが所属し、教材開発、教師研修、教師や関係各機関への助言等を業務としている。国際交流基金からの日本語教育専門家は1988年から現在まで継続して派遣されている。
ロ.派遣先機関名称
Queensland LOTE Centre, Education Queensland, Department of Education and the Arts
ハ.所在地 Corner of Montague and Ferry Roads, West End, Queensland 4101, Australia
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名

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