世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語教育アドバイザーの毎日

タスマニア州教育省
原田 明子

 13,000km。これは、去年一年間の走行距離である。毎日、オフィスのあるRosny Collegeを往復し、週に2、3回、教育省へ出向き、週に1、2回ホバート近郊の学校訪問を行い、月に1、2回泊りがけで地方へ学校訪問や会議に出掛けた結果である。特に10月と11月は、高校卒業認定試験(TCE: Tasmanian Certificate Examination)の口頭練習のため、タスマニア中の全高校を巡り(公立7校、私立7校)試験を受ける全生徒と会話練習を行う。タスマニアならではの仕事と言えようか。現在、日本語は、フランス語に次ぎ二番目に学習者が多い第二言語であるが、(以下、インドネシア語、ドイツ語、イタリア語、中国語)初等中等教育で教える日本人ネイティブの教師は5人にも満たなく、タスマニア在住の日本人も300人程度であるため、日本人と日本語を話す機会はほとんどない。口答試験の際に、緊張して泣き出してしまう生徒もいるほどである。そこで、数年前から日本語教育アドバイザーがTCE作成とともに、会話練習も行うことになった。大変な作業であるが、地方の日本語教師の相談にものれるし、クラスを持たないアドバイザーが直に生徒と話せるよい機会にもなっている。

 タスマニアでのアドバイザーの仕事は、大きく二つに分かれる。一つは教育省の一員としての仕事で、現在は外国語教育全体のカリキュラムの見直し作業がメインとなっている。1学期末までにドラフトを仕上げ、2学期に各教師からフィードバックをもらい、3学期に最終ドラフトを完成させる予定である。もう一つは、各日本語教師のサポート、教材開発、リソース提供、セミナー開催、そして上述した学校訪問など、アドバイザーとしての仕事である。

真剣にタスクを行う教師たち:Bridportでの日本語セミナーの写真
真剣にタスクを行う教師たち:
Bridportでの日本語セミナー

見事な出来栄え:好評だった紙人形制作セッションの写真
見事な出来栄え:
好評だった紙人形制作セッション

 4月末にBridportというロンセストンに程近い北部地域で、1泊2日の日本語セミナーを行った。セッションは、小学校・中学・高校向けに全部で14セッション、日本の美術品を用いた教材の紹介から、紙人形制作や浴衣の着方、茶道などの日本の伝統文化セッションを含むバラエティに富んだもので、タスマニア中から44名の参加者があった。どのセッションも、和気藹々としたムードの中、真剣に聞き入る参加者の姿が見られた。アニメを日本語クラスでどう使うか、ゲームやクイズ形式のタスク活動、国際交流基金がNHKと共同開発した最新のTV日本語番組「エリンが挑戦」の紹介、などのセッションでは、発表者と参加者の間で活発な意見交換がなされた。ディナーの際には、浴衣でドレスアップした人も多く、中には力士姿の勇女?もおり、リラックスした雰囲気の中、一生懸命に日本語を使って歓談する姿も多く見られた。年に1回のこうしたセミナーは、授業へのヒントを得るだけではなく、自身の日本語スキルアップや教師間の意見交換やネットワーク作りの大変いい機会にもなっている。

 オーストラリアの南に浮かぶ小さな島、タスマニア。風光明媚な自然に恵まれ、木材、観光、農業、漁業を主産業とするこの島では、時間はゆったりと流れ、人々はフレンドリーで暮らしやすい。しかし、若者向けの仕事は少なく、教育レベルや進学比率も他州に比べると低いと言わざるを得ず、州教育省はその改善のために、いろいろな方針を打ち出し始めた。カリキュラム改編もその一つである。しかし、外国語は、主要科目とは見なされておらず、現段階では、英語、数学、そして科学、歴史、社会、ICTInformation Communication Technology)がそれに続く重要科目とされている。日本語教育を含む外国語教育は、こうした州、或いは国の言語政策によって、変化を余儀なくされる部分も多いが、日本語教育の更なる発展と普及のために、今日も車を運転して、学校訪問に行く予定である。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
タスマニア州教育省は、州内の公立学校(初等・中等教育)を管轄する政府省庁であり、カリキュラム作成および政策的助言、教材開発、教師研修の実施、各教科に対する支援などについて計画実施する機関である。国際交流基金からの専門家派遣は1998年に始まり、日本語アドバイザーとしてセミナー・ワークショップ開催による学習機会の提供、教材や教え方に対する助言、学校訪問、ニューズレター発行、教師のネットワーク作り、高校卒業試験(Tasmanian Certificate of Education) 作成などの活動を行っている。
ロ.派遣先機関名称 オーストラリア・タスマニア州教育省
Department of Education, Tasmania
ハ.所在地 Letitia House, Olinda Brove, Mt.Nelson,Tasmania
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名

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