世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 西オーストラリアにおける日本語アドバイザーの仕事

西オーストラリア州教育省
藤光由子

人と人をつなぐ仕事、出会いと理解の深化のための触媒として

 海外における日本語教育派遣専門家の業務の本質について、私自身は、現地の日本語教育コミュニティの成長のために働くことだと考えています。海外日本語教育支援というフィールドのプロフェッショナルとして、持てるネットワークとリソースを最大限活用し、現地コミュニティと更にその枠を超えた個人やコミュニティの相互の出会い、お互いの理解の深化のための触媒として働くことが求められていると思います。

 その活動の指針は、現地の日本語教育関係者(現地教師コミュニティ、教師教育者、教材開発者およびその流通普及にかかわる人々、現地および日本の公的機関や文化交流支援団体など)の声に耳を傾け、自由で曇りのない眼で観察し、積極的に交流することから見出されるものです。

教師による教師のための研修機会の創出をサポート

西オーストラリア日本語教師会主催合宿研修の写真
西オーストラリア日本語教師会主催合宿研修

 アドバイザー(日本語教育専門家は現地でアドバイザーの呼称で活動している)として西オーストラリア州教育省に赴任して2年目になります。ここでは、着任後1年間の活動の具体的成果の一つとして、西オーストラリア日本語教師会主催の宿泊研修会が実現し、参加者の好評を博したことについてご紹介したく思います。

 西オーストラリア日本語教師会(以下「教師会」と略す)は、同州の初中等教育機関で日本語教育に携わる現職教師の自主的な団体で、現在約100名の会員がいます。州都パースの高校教師である会長をはじめ世話役の役員たちはすべてボランティアであり、教師会企画の研修会などの活動は基本的に会員の年会費によって運営されています。

 今回のように教師会が企画運営を担って合宿形式の研修会を主催するのは現地では過去に無いことでしたが、それが成功を収めたことで、手弁当で運営に関わってきた中心メンバーに大きな達成感と自信、希望を抱かせたことは言うまでもありません。

 教師による教師のための研修機会の創出をサポートするアドバイザーの活動は、教師たちとの対話から企画の可能性・意義を確認することにはじまり、教師コミュニティや支援者への広報、運営経費を助成する公的プログラムや、現地教師の学びを促進することができる卓越した教育者や発表者の紹介、それらの重要な人脈と現地運営側との間のきめ細かな橋渡しなど多岐にわたります。

現地教師コミュニティを豊かにするために

真剣に課題に取り組む参加者(教師会主催の合宿研修で)の写真
真剣に課題に取り組む参加者
(教師会主催の合宿研修で)

 このたびの教師会主催の研修会は国際交流基金シドニー日本文化センターの助成を得たほか、現地の教師と日頃さほど交流がなかった方々にも多くご協力をいただきました。

 ニューサウスウェールズ州で活躍されているベテラン現職教師による「日本旅行」をテーマとする講演とワークショップ、日本からご参加いただいた国際文化フォーラムのクリエイターによるウェブサイトを活用した教育プログラムの紹介、地元パース日本人学校の先生方による「日本の小学校文化の体験」セッション、在パース総領事館の方々によるリソース紹介に加え、ヴィクトリア州の語学教材専門店のスタッフによる教材紹介セッションや隣国ニュージーランドの編集・発行者のご厚意でニュージーランドで発行されている人気リソース「日本語教育新聞OUR JAPAN」の配布もありました。

 この合宿研修会参加者の間に育まれた新しい友情が、地域や所属機関を超えたネットワークの深化につながることを期待しています。

アドバイザーの役割とやりがいと

 さて、こうしたアドバイザーとしての活動の過程で気をつけなければならないのは、他の人(現地の人材)ができることを自分がやってしまわない、相手が気付いていなかったり困難と感じている点を見極めてサポートする、将来につなげるために情報や人脈、知見の共有を進める、といったことです。そして何と言っても現地の教師たちの話をよく聴き、相手を信じ、励まし続ける態度が大切だと思います。

 研修の最終日の閉会の場面で、新任の教師会会長の眼には爽やかな涙が光っていました。現地の先生方が、自分自身の中にも、そして自分の周りにも、教育に関わることをめぐる豊かな可能性を発見したり確認したりする、その瞬間に立ち会えること、それは、アドバイザーという仕事を通じて味わうことができる大きな喜びなのです。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
西オーストラリア州教育省は、州内の公立初等中等教育機関を管轄する政府省庁である。
専門家は州の外国語教育支援政策全般を担当するコンサルタント2名、および州で最も学習者数が多いイタリア語の専門アドバイザー1名とともに、学校教師支援のためのコンサルティング業務全般を担っている。国際交流基金からの専門家は1998年から継続して派遣されており、具体的な業務としては、学校訪問による模擬授業、日本語教師研修の実施、教材や各種研修プログラムおよび奨学金等についての情報提供、省内外の日本語教育関係者のネットワーク構築支援を行っている。
ロ.派遣先機関名称 西オーストラリア教育省
Department of Education and Training of Western Australia
ハ.所在地 151 Royal Street, East Perth, WA 6004 Australia
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名
ホ.アドバイザー派遣開始年 1998年

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