世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 現地の教育関係者のよき同僚として

西オーストラリア教育省
藤光由子

現地機関で働くからできること

 専門家の派遣は機材や教材の寄贈と違って、生身の人間の話です。その生身の人間だからこそ、人と出会いコミュニケーションを展開し、人間関係を紡ぎながら働くことができます。そして、現地機関の内側にいるからこそ、現地の教育関係者の同僚として或いはサポーターとして、身近なところからポジティブな変化を引き起こすチャンスもあると思います。

海外の教育機関で日本語環境をつくる

 西オーストラリア教育省(以下、教育省と略)に赴任して3年目になります。着任したばかりのころには、外国語科目を管轄するコンサルタントの方や地元の日本語教師会の役員の先生方など現地関係者から、英語で話しかけられることが多かったのですが、3年目の今、いっしょに仕事をしてきた先生方とは日本語で話し合うことができます。これは、わたしが相手にとって安心して日本語を使ってみることができる相手になったということです。

 実は、そのことも、日本語教育支援のプロである派遣専門家が現地機関で人間関係を紡ぎながら働いていることの一つの成果なのです。海外の学校教育を支えている現地の先生方が、それぞれの環境で必ずしも日本語を使う機会を豊かに持っているとはかぎりません。しかし、身近に自分が学んだ外国語が「通じる」相手がいれば、そして、その相手が決して評価をくだすことなく耳を傾けるならどうでしょう。

日本語メールを読む機会をつくる

 メールでのコミュニケーションも同様です。現地機関のコンピュータには、予めアジア言語のフォントがインストールされていないことがふつうです。日本語教育関係者でも、職場で日本語のメールを書いたことがないという人は、めずらしくありませんでした。身近にしばしば日本語でメールのやりとりをする相手ができてはじめて、コンピュータに日本語環境をつくる手続きをする必要が生じるわけです。英語話者である現地の日本語の先生で日本語でメールを書いてくださる方はまだまだ少ないのですが、いただくメールに、ときどきこんなコメントが混じるようになりました。「私は英語のメールを送りますが、どうか返事は今までどおり日本語で書いてくださいね。メールの日本語を読むのを楽しみにしています。」「あなたの日本語を読んでいると、あなたの声がきこえてくるみたい。あなたの日本語は読みやすいから日本語で書いてくれてもかまわないわ。」(原文は英語)

「日本語で」発見し、表現できる研修をつくる

西オーストラリア日本語教師会主催合宿研修の写真
西オーストラリア日本語教師会主催合宿研修(2009年3月) 遠隔地で教える教師も多く参加し中身の濃いネットワーキングの機会となっている

 現地で担当する教師研修も、先生方に自然に日本語を使ってもらう機会ができるだけ多くなるよう、その点にこだわって設計しています。プレゼンターとしての自分がどんな日本語を使うかも、参加してくださる先生方の顔を思い浮かべながら入念に考えて準備します。日本人だから自然に話せばよいということではありません。複雑なことを複雑に言うのは簡単ですが、複雑な話でもわかりやすく伝えるのが日本語のプロとしての日本語教育専門家の仕事です。そのため現地の教師の経験と関連付けた具体的な例から出発することも心がけています。きちんと仕事ができれば、参加者からはこんなコメントがかえってきます。

  • ぜんぶ日本語で聞いたのに、話がよくわかってうれしい。
  • 日本人の日本語はいつもむずかしいと思っていたけど、そうじゃなかった...
  • 今日の活動で日本語をたくさん話せたので、日本語を使うことに自信を持てた。
  • 教室でも、おなじように日本語を使ってみたい。

現地教師の教育に求められるパートナーとして

 日本語教育専門家が、現地の教育現場の文脈をふまえながら、教師にとって「わかる日本語」でワークショップを実施し、教師が「日本語で」活動に参加でき「日本語で」発見や表現ができる研修機会の創出を担ってきたことは、赴任地でも高く評価されています。

 今年度、西オーストラリア州教育省は、外国語教師研修に関して、教授言語に特化した言語文化理解と運用能力、教授能力の向上を重点とするという基本方針を明確にしました。そこには、これまでの国家レベルの外国語教師研修プロジェクトにおいて、「英語で」理論的枠組みについて理解する機会は多くあったものの、教授言語に特化した議論ができなかったことへのフラストレーションと深い反省があるようです。そうした中、日本語教育専門家には、現地教育省が求める質の高い日本語教師研修を実現するためのパートナーとして、ますます熱い期待が寄せられるようになっています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
西オーストラリア州教育省は、州内の公立初等中等教育機関を管轄する政府省庁である。
日本語教育専門家は州の外国語教育支援政策全般を担当するコンサルタント2名とともに、学校教師支援のためのコンサルティング業務全般を担っている。日本語教育専門家は1998年から継続して派遣されており、具体的な業務としては、高校生向けオンライン教材の開発、教育省の日本語教育関連施策への助言、学校訪問による模擬授業、日本語教師研修の実施、教材や各種研修プログラムおよび奨学金等についての情報提供、省内外の日本語教育関係者のネットワーク構築支援を行っている。
ロ.派遣先機関名称 西オーストラリア州教育省
Department of Education and Training of Western Australia
ハ.所在地 151 Royal Street, East Perth, WA 6004 Australia
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名
ホ.アドバイザー派遣開始年 1998年

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