世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) センター発、教室行き!

国際交流基金シドニー日本文化センター
金 孝卿・森 文枝・中川 康弘・松井 玲子

 ここオーストラリアは、1901年の連邦成立以来、ヨーロッパやアジア、太平洋地域からの移民増加、白豪主義の放棄、先住民の権利回復といった歴史的変遷を経て、民族・文化の多様性を尊重する方針を掲げ現在に至っています。その方針は各州の言語教育政策にも反映され、1999年以降、英語以外の言語が学校教育の主要科目として推進されてきました。現在では、これまで州/準州ごとに用いられてきた独自のカリキュラムを全国的に統一すべく、ナショナルカリキュラムの開発が進められています。日本語科目については近い将来出される予定ですが、ナショナルカリキュラムが今後の日本語教育の動向に影響を及ぼすことは間違いありません。このような状況の下、シドニー日本文化センターでは多方面にわたり日本語教育支援を展開しています。今回は現在の活動の柱である「教師研修」「情報収集・ネットワーク形成」「教材開発」「日本語講座」の4つを取り上げ、簡単に説明したいと思います。

教師研修

 当センターが担っている日本語教育支援の大きな柱の一つに、日本語教師研修会への出講があります。各州で行われる研修会では、日本語のブラッシュアップや日本の社会文化を盛り込んだ教室活動のアイディア提供などさまざまなニーズがあります。昨年度(2011年4月~2012年3月)は延べ24機関に出講し、1817人を対象に教師研修を行いました。以下は出講先の一例です。

2011年
5月
ニューサウスウェールズ州教育省主催カンファレンス
6月
南オーストラリア州日本語教師会主催カンファレンス
9月
西オーストラリア州教育省主催ワークショップ
2012年
3月
クイーンズランド州私立・カトリック学校協会共催日本語教師研修
クイーンズランド州公立学校協会日本語教師研修
ビクトリア州日本語教師会主催カンファレンス

オーストラリアの地図

教師研修会の様子の写真
教師研修会の様子

 処変われば…とはよく言ったもので、同じ国でありながらも州や地域それぞれに日本語教育の特徴があります。例を挙げると、ビクトリア州では初等(PrepYear6、5~11歳まで)から中等教育(Year7~12、12~17歳まで)にかけて日本語教育が盛んに行われていますが、当センターがあるニューサウスウェールズ州では、初等教育で日本語を教えているところは少なく、日本語学習者は中等教育が圧倒的に多いです。また、教師の数も州によって大きな差があります。クイーンズランド州やニューサウスウェールズ州では400名を超える日本語教師が初等・中等教育に携わっているのに対し、北部準州では10名程度しかいません(国際交流基金2009年度日本語教育機関調査)。

 こうした環境下で、少しでも多くの先生方の役に立てるよう準備をして当日のセッションに臨んでいます。

情報収集・ネットワーク形成

 教師研修会は現場の先生方が一堂に会する場でもあります。私たちはこのような機会を大いに利用して教師ネットワークの一層の強化に努め、ニーズ把握やICT(Information and Communications Technologies) 事情など、教育現場における最新情報の収集を行っています。

 また各州教育省などのネットワークを通して日本語教育に関する情報提供を行ったり、E-magazine「おむすび」やホームページを通した日本語及び日本文化の情報・教材の提供も行っています。さらに各州の言語教育担当者会議の開催や、電話やメールによる相談への対応など日本語教育におけるアドバイスも行っています。

 今後は日本語科目のナショナルカリキュラムの開発の動向を含め、より一層の情報収集に努めるとともに、当地の教育現場に役立つ日本語教育の情報発信を行い、より実りの多いネットワーク形成に努めていきます。

教材開発

 教材開発とその普及は日本語専門家が担う重要な役割の一つで、これまでも当センターの現地講師との協働によってさまざまな教材を作ってきました(200820092010年度の「世界の日本語教育の現場から」、当センターのウェブサイトのリソース集を参照)。

IWBに映した「コンビニすごろく」の写真
IWBに映した「コンビニすごろく」

 今回は当センター新教材「IWBコンビ二すごろく」をご紹介します。IWBとはInteractive Whiteboardという電子黒板のことで、オーストラリアの多くの学校で使われています。当センターの教材は、コンビニをトピックにした表現やゲームを多く取り入れており、HPから簡単にダウンロードできます。2011年7月に一般公開されてから10ヶ月になる現在、ウェブサイトからのダウンロード件数が600を超えました。文字通り「インタラクティブ」な学習活動が実施できるこの教材を、今後はさらに教師研修会でリソースとして紹介したり、具体的な活動アイディアをウェブ上に公開したりして、普及に努めていきます。

日本語講座

 各州教育現場のハブとして機能すべく、日々尽力している当センターですが、センター内部においても日本語教育を展開しています。その代表的なものに、一般向け「日本語講座」があります。年に4学期、夕方6時から8時まで週1回行われる日本語講座の受講者は、年齢層も職業も学習背景もさまざまです。2012年5月現在、初級、中級、上級レベル、合計9クラスが開講されています。新たにJF日本語教育スタンダード準拠教材『まるごと 日本のことばと文化』を使用したコースの開講が予定されており、講座全体としても一層の拡大が見込まれます。今後は、さらなる発展を目指し、学習者のニーズにあった講座内容の充実に努めていきたいと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Sydney
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
シドニー日本文化センターの日本語教育部門は、全豪及び一部ニュージーランドを対象として、初中等教育を中心とした教師・学習者支援事業を行っている。主な事業は教師研修会の開催、他機関主催研修会への協力、教材開発、日本語講座及び教師用オンライン講座の開講、日本語弁論大会などの学習奨励事業、コンサルティング、情報の提供と収集などである。また、毎月発行のE-magazine「おむすび」やホームページを通じ、日本語及び日本文化の情報・教材の提供を行っている。
所在地 Shop23 Level 1, Chifley Plaza, 2 Chifley Square, Sydney NSW 2000, Australia
国際交流基金からの派遣者数 日本語教育上級専門家:1名
日本語教育専門家:3名
指導助手:1名(パース派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 1991年

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