世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) まるごとコース いよいよ開講!

国際交流基金シドニー日本文化センター
松井 玲子

国際交流基金シドニー日本文化センター(以下センター)では、一般成人を対象とした日本語講座を実施しており、2013年6月現在、初級から上級まで合計12クラスで142名が日本語を学んでいます。

日本語講座の受講生の顔ぶれは?

受講生の面々の写真
受講生の面々

オーストラリアでは初中等教育における日本語学習者数が非常に多く、全体の95%以上も占めることが特徴的です。成人学習者の外国語学習においても、日本語は人気の高い言語の一つです。日本語の学習目的も「仕事上で役に立つ」といった直接的なものではなく、「趣味として日本語を学びたい」という動機が多いようです。当センターの受講生の顔ぶれを見ても、いわゆるマンガ・アニメなどのポップカルチャー好きの若者から、配偶者が日本人、ワーキングホリデーや大学の交換留学生として日本に滞在してすっかり日本ファンになってしまった人。中には訪日回数は数十回以上、日本好きが高じて自宅に四季の花を植え立派な日本式庭園を造ってしまった人などいて、実に様々です。最近の傾向としてシニアー世代の学習者が増えてきています。

「まるごと」を主教材としたコース

当センターでも2013年より『まるごと 日本のことばと文化(以下まるごと)(A1)』の活動編と理解編を主教材として学ぶ1年間の通年コースを3クラス新規に開講しました。また、年に2回、日本語を試しに勉強してみたい人向けの短期コース、その名も「10 Week Taster Course」を開講しています。オーストラリアでは、「日本」は人気渡航先の一つです。そのため、このコースでは『まるごと(A1)』の活動編を使用し、日本での旅行中に遭遇するであろう場面で役に立つ会話表現を中心に学んでいます。有難いことに、受講生募集を開始してすぐ、全クラスあっという間に満員御礼となってしまいました。

『まるごと』コースの反応は?

「ことばと文化をまるごと学ぶ」「日本語で何ができるかという課題遂行能力を重視し、具体的な目標を持って日本語を学ぶ」という『まるごと』のコンセプトはシドニーの日本語学習者のニーズや学習スタイルとぴったり合致しているようです。毎回の授業のはじめと終わりには、今日のゴールとして「Can-do」の形で記述された目標を提示していますが、授業の最後にこの目標が達成できたかどうかクラスで問いかけると、学習者が「できた!」と元気に答えてくれるのが、恒例となっています。

多様な文化に容易に触れられる環境にあるシドニーでは、教室外の日本語の文化的体験に対して学習者のモチベーションもとても高いようです。そのためか、まるごとコースで導入している「ポートフォリオ」の活動にも楽しんで参加しています。日本のスーパーで買い求めたお菓子の空き箱、日本映画のチケットの半券、日本人からもらった名刺等をきれいにファイルしたポートフォリオを休み時間などにクラスメート同士で見せ合っています。

週1回の授業がある日は、日本語のTシャツを得意満面で着てくる受講生。授業前には、ペットボトルの日本茶を飲み、のり巻きを食べ、休み時間にはクラスメートと日本のお菓子を交換し、授業後には、みんなで連れ立って日本食レストランで食事。といったように、日本語を学習することもさることながら、日本の雰囲気にひたるのを大いに楽しんでいるようです。

今後も初級レベルから順次『まるごと』を主教材として導入して行く予定ですが、このように受講生に好意的に受け入れられ、大いに手ごたえを感じています。

文化講座も絶賛開講中

すしワークショップの写真
すしワークショップ

これまで、日本茶の淹れ方、お酌の仕方などを習う「日本食マナー講座」、飾り巻き寿司の作り方を学ぶ「すしワークショップ」、日本語のメッセージ入りの挨拶状を作る「切り紙ワークショップ」等を開講してきました。日本文化を知識として学ぶだけではなく、実際に体験することによって、日本文化についての理解を深めることができ、しかも実生活で役立てられるような内容を紹介するように努めてきました。どの文化講座でも参加者は、講師の日本語の説明を一言も聞き漏らさないようにと真剣そのもの!その姿に、改めて日本文化に対しての関心の高さがうかがえました。また、参加者は通常の日本語講座とは違う切り口で、日本語と日本文化について学べるこの講座に大きな魅力を感じてくれているようです。

これからも、このように熱心な受講生の期待に応えていけるように、充実した日本語講座を展開していきたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Tha Japan Foundation, Sydney
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
シドニー日本文化センターの日本語教育部門は、全豪及び一部ニュージーランドを対象として、初中等教育を中心とした教師・学習者支援事業を行っている。主な事業は教師研修会の開催、他機関主催研修会への協力、教材開発、日本語講座及び教師用オンライン講座の開講、日本語弁論大会などの学習奨励事業、コンサルティング、情報の提供と収集などである。また、毎月発行のニューズレターやホームページを通じ、日本語及び日本文化の情報・教材の提供を行っている。
所在地 Shop 23 Level 1, Chifley Plaza, 2 Chifley Square, Sydney NSW 2000, Australia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:3名
国際交流基金からの派遣開始年 1991年
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