世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)“Classroom Resourceswebサイト公開!―シドニー日本文化センターから現地の子どもたちへ―

国際交流基金シドニー日本文化センター
大知 春華

20年分の教材をまとめたWebサイト公開)

国際交流基金シドニー日本文化センター(以下、当センター)は、1991年に設立され、オーストラリアにおける日本語教育の支援を行ってきた。

そして今年、当センターが設立当初から作り続けてきた教材を整理し、一つのWebサイトにまとめた“Classroom Resources”が完成した。オーストラリアの初中等教育の文脈に合わせて作られた教材を、学年レベル(Primary, Junior, Senior)、キーワード、タグの3つの方法で検索することができ、タブレット端末、スマートフォンでの閲覧にも対応している。これまで教材作成に携わってきた当センターの講師たちの思いがギュッと詰まった教材を、より使いやすい形で現場教師にお届けする。


“Classroom Resources”トップページの写真
Classroom Resources”トップページ

オーストラリアにおける日本語教育の今

ここオーストラリアの日本語教育の歴史は長く、教育の質も非常に成熟している。オーストラリアにとって、日本が経済的に重要なパートナーであり続けていることが、姉妹都市・姉妹校との交流を活性化させ、日本語や日本文化に関する興味を養い、日本語を学ぶことを価値づけているのだろう。必修科目として日本語を勉強した世代が親世代となり、2世代で日本語を学ぶケースもある他、教師になった教え子が恩師と一緒に教師研修に参加することもよくある。

では、今、オーストラリアの初中等教育現場ではどのような授業が行われているのだろうか。次の章で紹介しよう。

初等教育の日本語授業で見たもの

これは、ニューサウスウェルズ州Year5(小学5年生)の授業の一コマである。

炊飯器を抱えて先生が教室に入る。この日はおにぎりを作るらしい。まずは、先生がおにぎりの材料について質問する。「のり」「ごはん」と生徒は挙手をして元気に答える。一人一人の座席に置かれたラップにご飯が盛られ、2枚ずつのりが配られる。握ったご飯に、先生が少しずつふりかけをかけて回る。先生は言う。「のりとふりかけがもっと欲しい人は、日本語で『もう少しください』って言うのよ。」その後、「いただきますの歌」がはじまり、一斉に「いただきます」のかけ声が聞こえる。

生徒たちがおいしそうにおにぎりを頬張る傍ら、握ったご飯を見つめたままなかなか食べようとしない一人の男の子がいた。初めて見た「ふりかけ」に興味を示したようで、「ふる?ふり?ふりかけ?」とことばを確認し、「ふりかけ」がどんな食べ物か、おいしいのか、畳み掛けるようにわたしに質問する。そして、「I want more ふりかけ。What should I say?」と男の子は言う。「ふりかけ、もう少しください。」とわたしの口元を見ながら、男の子は繰り返し練習する。ちょうどそのとき、先生が男の子のそばを通った。男の子は、すかさず大きな声で「先生、ふりかけ、もう少しください。」すると、先生は男の子のおにぎりに2回ふりかけをかけて去って行った。男の子は得意気に振り返り、わたしにウィンクをした。

授業の写真
先生が話す日本語を真剣に聞いている子どもたち

初中等教育で日本語を学ぶ意義

「ふりかけ」という食べ物との初めての出会い。「ふりかけ」に対する興味から湧き出てきた、「もっと欲しい」という自分の望み。その望みを日本語で伝えた、伝わった瞬間に偶然にも立ち会うことができた。一人の男の子の些細なエピソードではあるが、子どもたちが日本語を学ぶ意義はこのような瞬間を積み重ねていくことにあるのではないか。

外国語を学ぶことで、普段の生活圏では目にすることのない異質なものに出会う。文字の形、音声、ことばが指し示すもの。子どもの常識に囚われない柔らかな感性や吸収力をもって、異質なものを受け入れ、それらを楽しみ、自らの世界を広げていく。

男の子の得意気な、少し成長した顔。できるだけ多くの子どもたちがこんな表情になってくれることを願い、わたしたち日本語専門家は業務にあたっている。

未来につながる日本語教育を

州ごとの教師会ネットワークも充実している。日本人ネイティブ教師も多い。IT環境も整っており、教材も豊富にある。そのような文脈を踏まえて、学習者ニーズに合った教材、現場教師にとってすぐに役立つ情報を提供することも大切だが、「そもそも日本語を学習する子どもたちのどんな力を養いたいか」ということを常に念頭に置きながら、オーストラリアの日本語教育を支援し続けていきたい。現場に根ざし、日々子どもたちのことを考えて作った教材を“Classroom Resources”で発信していくことで、オーストラリアの日本語教育の歴史を未来につなげる橋渡しができるのではないかと思う。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Sydney
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
シドニー日本文化センターの日本語教育部門は、全豪及び一部ニュージーランドを対象として、初中等教育を中心とした教師・学習者支援事業を行っている。主な事業は教師研修会の開催、他機関主催研修会への協力、教材開発、日本語講座及び教師用オンライン講座の開講、日本語弁論大会などの学習奨励事業、コンサルティング、情報の提供と収集などである。また、ニューズレターやホームページを通じ、日本語及び日本文化の情報、教材の提供を行っている。
所在地 Level 6, 115 Pitt Street, Sydney NSW 2000 (仮事務所)
国際交流基金からの派遣者数 日本語教育上級専門家:1名(2014年6月末着任予定)
日本語教育専門家:3名
指導助手:1名(パース派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 1991年

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