世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)大自然の中で育まれる人と学び

シドニー日本文化センター
三矢真由美・蜂須賀真希子

シドニー日本文化センター(以下、センター)の日本語事業の中から教師研修と、日本語講座についてご紹介します。

ACがやってきた!

現在オーストラリアの外国語教育で注目を集めているものと言えばAC。これ、何の略かわかりますか。Australian Curriculum、全豪カリキュラムの略です。オーストラリアの初中等教育ではすべての教科において州ごとに独自のカリキュラムが設けられています。しかしこれだと州によって学力に差が出るなど不都合なことも多いため全国統一のカリキュラムが作られることになったのです。日本語のカリキュラムも2015年に発表され、以来ACを授業に取り入れるための研修会が各地で開かれています。当センターでも教師研修でACを積極的に取り入れるようにしており、先日もタスマニアで教師研修を行ってきました。

タスマニアはオーストラリア大陸の南に位置する島です。雄大な自然に囲まれ、地元の人たちもどこかのんびりとしています。そんなところで土曜日に研修会を開いて人が集まるのか…?そんな心配をよそに当日は熱心な先生方が休日返上で集まってくださいました。実は全豪カリキュラムと言いながら、その導入は各州に任されており、取り組みの度合も州によって差があります。タスマニアでは近い将来ACが導入されることが決まっているため、現地の先生方もかなり熱を入れて勉強しています。ACは教えるべき文法項目や語彙を具体的に示すものではなく、学習者がそれぞれの学習段階でできるようになるべき事柄を示すものです。先生方が悩んでいるのはそれをどのように解釈し、教室活動に結び付けるのかということ。そこで私達は既存の教室活動をまず先生方に体験してもらい、その後それをACと照らし合わせるという作業をしました。するとこれまでやってきた教室活動はACの記述の多くをすでにカバーしていることがわかります。私達がこの研修で最も伝えたかったメッセージ「AC? No worries! 今までの授業実践と矛盾しない!」はうまく伝わったようです。「今までで一番わかりやすい研修でした」という評価をいただくことができました。

オーストラリア連邦政府は、全てのオーストラリア人年少者に、現代を生き抜き、社会と個人の幸福に資するために必要とされるスキル、知識、能力を身に付けさせるという目標をACの中で掲げています。この目標に向かって日々奮闘している先生方をこれからも支援していけたらと思います。

研修後の笑顔の集合写真
研修が終わってみんないい笑顔

『まるごと』楽しい!

講座の様子の画像
ペアで話しましょう!うまくできるかな?

当センターの日本語講座では、講座担当の専門家が派遣されるようになった2012年より、入門レベルから徐々にJFスタンダード準拠教材『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)の使用を開始しています。2016年6月現在、入門から上級まで7レベル14クラスを開講し、このうち、入門(A1)から中級1(B1)までのクラスで『まるごと』を使用しています。中上級および上級クラスは市販の教科書を使ったり、担当講師のプリント等で授業を進めていますが、Can-doで学習目標を設定したり、パフォーマンス評価で学習の成果を評価したりすることなどで、JFスタンダードを取り入れています。

現在、全レベル合わせて約200名の学習者が、4学期制(1学期10コマ)週1回2時間のクラスで受講中です。夕方のクラスは幅広い年齢層ながら社会人が中心ですが、2016年1月から開講している平日午前のクラスでは、退職後の趣味としてやってくる方や近隣の大学生の姿が増えます。さらに、夕方、午前どちらのクラスもオーストラリア以外の文化背景を持った学習者が多く、シドニーの教室は年齢層も国際色も豊かです。また、日本は人気の旅行先のひとつです。日本旅行から帰国し、「日本語で少しでもコミュニケーションが出来るようになりたい」と入門クラスで学習を始める人も少なくありません。

そんな彼らのニーズに「日本語で何ができるか」という課題遂行能力を重視し、Can-doという具体的な目標に向けて日本語を学んでいくという『まるごと』のコンセプトは、自然豊かなシドニーでゆったりと学習するスタイルの彼らにとても合っているようです。シドニーのクラスを気に入って、数年続けてくれている人も多いですし、社会人が中心で、皆忙しいながらも毎週楽しく通ってくれています。クラスは毎回笑顔にあふれ、担当する講師からも「授業が楽しい。」という感想がよく聞かれます。

このように、当センターの日本語講座は『まるごと』のモデルクラスとして良い方向に展開できていると感じています。今後、『まるごと』の刊行に合わせ、順次取り入れる予定ですが、どのレベルのクラスでも受講生が楽しく学べるよう全力投球していきます!

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Sydney
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
シドニー日本文化センターは、オーストラリア及びオセアニア地域の日本文化、日本語普及の拠点として様々な事業を行っている。日本語教育分野では、全豪の初等・中等教育課程における日本語教育支援として、教師研修会の開催、教師会主催研修会への出講、教材開発、日本語弁論大会などの学習者奨励イベントの運営を行っている。センター内では1991年にシドニー日本語センターとして開設されて以来、一般成人を対象とした日本語講座を運営しており、2012年からはJFスタンダード準拠講座として、『まるごと』の導入を進めている。また、ニューズレターやホームページを通じ、情報発信、収集も行っている。
所在地 Level 4, Central Park, 28 Broadway, Chippendale NSW 2008, Australia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
専門家:3名
指導助手:1名(タスマニア/ホバート市)
国際交流基金からの派遣開始年 1991年
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