世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ニュージーランドの日本語アドバイザーの仕事(ウェリントン/2003)

ニュージーランド教育省<ウェリントン>
江原有輝子

外国語アドバイサーの仕事は多様ですが、ウェリントンのアドバイザーについては、学校訪問が大きな部分を占めてきました。これは、ニュージーランドにある小・中・高校で日本語を教えている学校を訪問し、日本語担当教員に会い、授業を見学するものです。あらかじめ教師からの要請があれば授業の一部を担当したり、学習者と話したりします。校長や教頭・外国語科主任等に会って、その学校の語学教育の方針について話したり、今後の語学教育への支援を要請したりすることもあります。

ニュージーランドでは外国語教育は必修ではなく、高校で何らかの外国語を履修している学生は全体の4分の1に過ぎません。主要科目の英語や数学には通常複数の教員がいますが、大部分の学校では日本語の教員は一人だけです。外国語科目の教員全部で2,3人というのが普通で、「小さな科目」は予算編成や時間割作成上、不利な立場に置かれることがしばしばです。そこで、中央から「National Adviser」が訪問してその学校での日本語教育の存在を認知し、日本語科の地位を支援するわけです。

ニュージーランドの地図

現在ニュージーランドには日本語を教えている小・中・高校が全部で600校程度あり、ウェリントンの江原とオークランドの江頭で各300校づつ担当しています。オークランドは人口100万のニュージーランド最大の都市で、多くの学校がこの地区に集中しています。ですから、学校数で分けると、江原の担当地区が物理的には非常に大きくなります。江原の担当地区は、北島中央のタウポ湖から南(ギズボーンを含む)と南島全部です。(地図をご参照ください)<ニュージーランド地図>

学校訪問と同程度に重要な仕事は、教師対象の研修会を開催することで、各地で初等教育と中等教育の教師研修会を実施します。ニュージーランドでは、生徒だけを教室に残して自習させることは法的に禁じられており、教師が週日に講習会に行くときは代替教員を確保しなければなりません。教師が研修会に参加すると代替教員を丸一日雇わなければならず、学校の予算の関係で、一人の教師は1年に一度くらいしか講習会に参加できません。学校の休暇中は「休暇は休暇」と考えるのがこの国の一般的な傾向なので原則として研修会は開催しませんが、2002年7月の休暇中に開催された「ニュージーランド外国語教師会全国大会」の日本語部門には、ニュージーランドの日本語教師の半数に相当する100人以上の教師が参加しました。

この他、年に2回、日本語教師対象のニュースレターを発行し、日本語を教えている学校600校全部に送付します。このニュースレターは日英両言語で、研修会・教材・ニュージーランドの日本語教育に関する新情報、大使館・総領事館からのお知らせなどが載っています。

専門家として達成した成果

ウェリントンでのNCEA試験問題作成研修会の様子の写真
ウェリントンでのNCEA試験問題作成研修会の様子

2002年度に日本語アドバイザーは、ニュージーランドの日本語教育のもう少し深いところにかかわることできました。

これまで、ニュージーランドでは、11年生(日本の高校1年生に相当)と13年生(高校3年生に相当)の2回、全国一律の国家試験が行われてきました。日本語科目では、その国家試験の日本語の問題文に誤りが多数あり、試験終了後、日本語教師会や個人の先生方がNZQA(ニュージーランド資格審査局:ニュージーランドでは、国家試験作成は、教育省とは別組織のNZQAが行っています)に訂正申し入れの手紙を書く、というのが半ば習慣化していました。特に2001年度末の13年生の国家試験の問題には誤りが30以上あり、その問題がニュージーランドの新聞と一般教師対象の雑誌の記事になりました。これらの記事には、「今後このような問題は繰り返さないよう最善を尽くす」という教育大臣のコメントも載りました。

NZQAはこの事態を重く見て、2002年度の試験問題作成過程の「外部チェッカー」を公募しました。それまで、試験作成関係者は公募されたことがありませんでした。江原はこれに応募して採用され、2002年度の11年生と13年生の国家試験の「外部チェッカー」を勤めました。送付されてきた原稿についての詳細な正誤表と問題文全文の書き直し文を作成して提出し、その多くの部分が採用されました。けれども、全部の訂正が採用されたわけではなく、また、江原の誤用指摘個所について試験作成者が独自に書き直した部分もあり、試験問題にはまだいくつかの誤りが残りました。それでも、国際交流基金派遣のアドバイザーが国家試験作成過程に関わることができたのは、画期的なことでした。

さらに2003年度には、前年度の成果に基づき、NZQAが日本語科目について特別に「日本語母語話者の試験問題作成協力者」というポジションを設け、江原に依頼しました。「外部チェッカー」の仕事が、作成された原稿のチェックだけであるのに対し、「協力者」は試験問題作成過程により深く関わり、ニュージーランド人の試験問題作成者に助言や協力をして、試験問題を作成していきます。NZQAの試験実施担当者から直接電話でこの仕事を依頼された時、これまで3年間の苦労や努力が全部酬われたように感じました。ニュージーランドの日本語アドバイザーとしての3年間の契約の最後に、このような意味のある仕事に関われたことを、非常に嬉しく思っています。

活動を行う上で直面した困難、解決すべき日本語教育上の問題点

上述のように、次第に改善されてきましたが、英語母語話者にとっての日本語という言語の特殊性や、日本語教育の専門性への理解が不足しているため、これまで色々な問題が起こってきました。また、日本語だけではなく、外国語教育全体に関する認識にも遅れがあります。ACENZには、各国から派遣された5言語7人の外国語アドバイザーが所属していますが、私たちは協力して、ニュージーランドの外国語教育の質的向上のために働いています。

専門家としての今後の課題、これから目指すべき目標

日本語教育および外国語教育の専門性についての認識不足は、まだいろいろなところに存在します。その中で、私たちの仕事の専門性に関する理解を深め、現地の教員との協力関係を構築しながらこの国の日本語教育の質的向上に貢献することが、これまでもこれからも私たちの課題であり続けることでしょう。

参考文献

日本語文献:

赤羽三千江ほか(1998)
Japanese in the New Zealand Curriculum日本語翻訳』
江原有輝子・藤光由子(2003)
「ニュージーランドの日本語カリキュラム」『世界の日本語教育、報告編』(印刷中)
縫部義憲・奥野由紀子(1999)
「ニュージーランドにおける日本語教育―新カリキュラムの特徴と課題―」『広島大学日本語教育学科紀要』第9号
縫部義憲(2000)
「国内外の学校教育における日本語教育に関する一考察」
『広島大学日本語教育学科紀要』第10号
川上郁雄・宇田川洋子(1997)
「ニュージーランドの中等教育における日本語教育」
『宮城教育大学紀要』第31巻
久保敦(2000)
「ニュージーランド中等教育における『日本語カリキュラム』の研究―日本語能力試験との比較対照を中心に」拓殖大学修士論文
Barrowman, L.P (1995)
「ニュージーランドの中等教育における日本語」
『世界の日本語教育<日本語教育事情報告編>』第3号
Crew, D. (1995)
「ニュージーランド・アオテアロアにおける多文化性と外国語教育」『世界の日本語教育<日本語教育事情報告編>』3、国際交流基金日本語国際センター
Knight, P. (1994)
「ニュージーランドにおける日本語教育―1992-93年」『世界の日本語教育<日本語教育事情報告編>』1、国際交流基金日本語国際センター

英語文献:

Haugh, M. (1997)
The teaching of Japanese in New Zealand, a national profile, Institute of Languages Teaching and Learning Occasional Papers, NO. 8, University of Auckland
Ministry of Education (1993)
The New Zealand Curriculum Framework, Learning Media
Ministry of Education (1993)
Japanese Draft Syllabus for Schools, Learning Media
Ministry of Education (1994)
Education for the 21st Century, Learning Media
Ministry of Education (1998)
Japanese in the New Zealand Curriculum, Learning Media
Ministry of Education (1999)
School in New Zealand, Learning Media
Ministry of Education (2002)
Learning Languages, A Guide for New Zealand Schools, Learning Media
Nuibe,Y. (1993)
The Reform of Education Administration in New Zealand and its Impact on Foreign Language Curriculum, 『日本教科教育学会誌 16巻1号』広島大学

ウェブサイト:


派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 ニュージーランド教育省教員養成校協議会(ACENZ)はニュージーランド教育省の委託を受け初等中等教育の外国語教育支援サービスを提供している。スペイン、ドイツ、中国、日本の四カ国からの専門家と現地のフランス語専門家がナショナル・アドバイザーとして所属、学校訪問や各言語教員の研修会を実施している。日本語はウェリントン本部と北部事務所のあるオークランドにそれぞれ国際交流基金からの派遣専門家が一名ずつ赴任中。ACENZとは組織を別にするが(2003年から)、各教育大学にはそれぞれの地域での初等中等教育レベルの外国語教育を支援する専門家(ファシリテーター)がおり、連携して仕事をする場合もある。
ロ.派遣先機関名称 ニュージーランド教育省教員養成校協議会
Association of Colleges of Education in New Zealand(ACENZ)
ハ.所在地 ACENZ Central :
PO BOX 10-298, Level 15 Equinox House, 111 The Terrace, Wellington, New Zealand
ACENZ North :
C/-ACE Private Bag 92-601 Auckland, New Zealand
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:2名

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