世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ナショナル・アドバイザーの仕事

ニュージーランド教育大学協会(オークランド)
江頭由美

研修会(2005AucklandLangSem)にて講師をつとめる報告者の写真
研修会(2005 Auckland LangSem)にて講師をつとめる報告者

私はニュージーランドの北島に位置するこの国の最大都市オークランド(人口120万)に2002年12月に着任、日本語のナショナル・アドバイザーのひとりとして、Association of Colleges of Education in New Zealand に所属(この機関は教育大学の連合としての役割のほかニュージーランド教育省との契約で、外国から派遣される言語教育アドバイザーの受け入れや教育にかかわる諸外国との交流の窓口になっている)在ウェリントン(首都)の茅本百合子専門家と協力して主に初等中等教育(1-13年生)の日本語教育・学習の支援をしています。

アドバイザーの仕事は多岐にわたります。学校訪問、研修会企画・開催、日本語の先生たちとの他のナショナル・アドバイザー(フランス語・ドイツ語・中国語・スペイン語)たちやニュージーランド政府関係者、外国語教育関係者との会議への参加、教師会への支援、日本大使館やオークランド総領事館や日本関係諸団体と協力しての日本語教育や日本理解への支援などがあります。

アドバイザーの仕事は直接学生を教えるのではなく、研修会の講師をつとめて先生方に効果的な教え方を提案したり、学校訪問をして先生方とよりよい教え方を考えたり、ニュージーランドの外国語あるいは日本語教育という視点から関係者と話し合ったり協力したりすることです。

現在の日本語教育の状況をお話します。
日本語学習者数は初等中等レベル(1-13年生)全体で41,378名で、約47,000名のフランス語に次ぎ外国語科目中第2位ですが、残念ながら近年減少傾向にあります。

ニュージーランドでは初等教育(1-8年生)からの外国語教育が実施され2004年の教育省の統計によれば、20,450名の学生が日本語を学習中ですが、そのうち学習時間が年間30時間以下の学生数は14831名で全体の72.5%です。初等教育教員養成課程に外国語は含まれず、その結果、外国語教育の訓練を受けていない教員が年に数回の研修会出て、試行錯誤しながら教えたり、民間団体から派遣される日本人ボランティアが多くをまかされて教壇に立ったりということがおこなわれています。その人たちは学校から歓迎され生徒からも喜ばれている例も多い一方でニュージーランドのカリキュラム理解、子どもへの接し方のちがい、学校とのコミュニケーション、継続性などの点で、むずかしい側面もあります。

政府は「2008年までには、7-10年生がいるすべての学校で外国語が開講されていなければならない」という目標を掲げ、現在は必修科目ではない外国語の地位を特に7-8年生の段階から一歩前進させるべく教材開発、重点校への助成、各地域における外国語教育アドバイザーを通しての支援等をおこなってきていますが、多くの学校が選ぶのは英語に近いフランス語、スペイン語、ドイツ語などのヨーロッパ言語です。言語的に英語から遠い日本語は、外国語が初等教員養成(1-8年生)に組み込まれていない中での推進という現体制下では、統計上の学習者は多いものの、研修会に参加する初等教員の数はヨーロッパ言語に比べて少なく、今後のこのレベルを支えていく人が十分に育っていないという点で憂慮される状況です。初等教育に対するアドバイザーとしての支援をどのようにおこなっていくかは大きな課題です。

中等教育(9-13年生)に目を向けると2004年の教育省の統計では20,928名の学習者がいます。この段階は専門家の教員が教えていますが、ニュージーランドでは外国語が必修科目でないため、外国語を学校の時間割の中にどう位置づけるかは各学校の裁量にまかされており不利な時間割の中で教えざるを得ないケースも多いです。理科系の学習者が外国語を続けることができない時間割を組んでいる学校も残念ながら多いです。また、12-13年生が複式学級実施の学校が大変多く、中には3学年、4学年合同の例もあります。日本語学習継続希望の学生が減少しクラスが成立しなくなると、そのような学生は勉強を続けるために国立の通信教育学校に送られます。けれども外国語を通信教育で学ぶのは大変な努力を要し困難を伴います。教員についても、日本語だけで専任教諭になるのはむずかしく、多くの日本語の先生が他教科との兼任やパートタイムです。

さらに「日本語はむずかしい」というイメージが定着したり、アジア系(特に中国・韓国系)学習者の割合が移民の増加にともなってオークランドを中心に高まったことで、ほかのバックグラウンドの学習者が日本語を選択しにくい雰囲気ができてしまったり、外国語が必修科目でないため、さらに日本語が「アジア系学習者のもの」という固定観念が強まってきている傾向があるようです。アジア系学習者が日本語を選択することは喜ばしいことですが、中にはクラスのほとんどあるいは全員が中国系か韓国系学習者というところもあり、(特に12-13年生)、日本語が多様な学習者をひきつけられていない現状をとても残念に思います。

そして政府が7-10年生の外国語の充実に力を入れている一方で国家試験(NCEA, 学校ごとに実施される内部試験と全国一律の外部試験の組み合わせ)がある11-13年生は先生学生とともに負担が多く、この段階への支援が引き続き大変重要です。

13年生を終えて国家試験を受ける学生数は1997年は1287名でしたが年々減少、2004年は800名を切ってしまっています。

明るいニュースもあります。
それはここ数年で教員のネットワーク化が、大きくすすんだことです。これに大きく貢献をしたのは2002年末にスタートした全国日本語教師会のウェブサイトです。(http://www.japanese.ac.nz)。オークランドに全国日本語教師会の執行部がおかれていた当時の会長Janis Maidment氏の献身的な力で立ち上げ、運営がおこなわれてきました。このウェブサイトは上述した厳しい状況やニュージーランドのカリキュラムに合った教材不足、新しい国家試験NCEAの導入(2002年)などで困難な状況にあった先生方が互いに情報や自作教材を提供するなどして、助け合う大きな原動力になりました。

ナショナル・アドバイザー会議終了後の乾杯の写真
ナショナル・アドバイザー会議終了後の乾杯

教師会執行部はその後、南島のダニーデンとインバーカーギルの先生方の混成執行部、そして現在のクライストチャーチの執行部にひきつがれ、ウェブサイトは現執行部とオークランドとダニーデンからの先生各一名によって維持されています。

2002年末私はウェブサイトのスタート直後に着任、新任アドバイザーとして、そこにあつまった多くの情報や教材から学ぶとともに、徐々に情報提供、教材提供、プルーフ・リーディングをしたり先生方に参加や教材提供の呼びかけるなど、側面からのサポートをしてともに歩んできました。そして執行部の移行を経て現在に至るそれぞれの過程でいろいろな地域の先生方とこの運営について話し合いを重ねてきました。ウェブサイトは今は複数の先生方の手で維持されています。この経験で私は新たに何かをつくりだすこととそれを維持することの大変さ、そして仕事を多くの人の手で分担することの大切さと楽しさを学びました。このプロセスにアドバイザーとしてかかわれたことをとても幸せにそして誇りに思っています。

国際交流基金のネットワーク助成プログラムもネットワークづくりに多大な貢献をしてきたと思います。隔年で開かれる外国語教師会大会への助成と、その翌年の全国4箇所での研修会開催をくりかえしてきましたが、今年は先生方の教育能力の向上とともに特に各地域での大学と中等教育教員のコミュニケーションを充実させることを大きな目標としています。残念ながら大学と高校の先生方はお互いに多忙で、ほとんど交流がない状態がつづいていました。現在9月にダニーデン、クライストチャーチ、ウェリントン、オークランドの各地で開催する研修会に向けて準備中です。

ニュージーランドは日本より小さい人口400万人ほどの島国ですが、多様性を内包する国です。たとえば民族的にニュージーランドには次のような人たちがいます。入植した白人、この国に古くからいるマオリ系の人たち、そして太平洋諸島出身者、移民、難民としてきた人々。またオークランドのように人口が増加し続けている都市もあれば過疎の地域で学校が廃校になってしまうところもあります。

その上にそれぞれの学校や地理的な条件、先生の個性、環境、学生のバックグラウンド、校風、教え方のスタイルなどのちがいを、知れば知るほど認識させられます。上述したように必ずしも理想的とはいえない状況の中で献身的に努力されている先生や一生懸命に勉強している学生たちの姿を見るとアドバイザーとしてとても励まされます。そして私にとってそんなひとりひとりの先生や学生や学校や関係者から学んだことそれぞれがニュージーランドの多様性理解への目を開かせてくれました。

同時にこの仕事をして痛感するのは制度の持つ意味の大きさです。日本経済の状況や、アジア系移民の増加などの社会的変化、あるいは外国語教育をとりまく諸困難のためによって学習者層の割合がかわったり、減少したりしています。アジア系の学習者を今後もひきつけられるようつとめるとともに、この国を構成するさまざまなバックグラウンドの学生たちに日本語を勉強してほしい、日本語学習を通じ異文化を知る楽しさと大切さを経験してほしいと心から願っています。

そのためには日本語が適切かつ効果的に教えられるような制度的な保障、たとえば外国語の必修化や、適切な国家試験がおこなわれること、カリキュラムを充実させていくこと、などが大切だと思います。前任者たちやアドバイザー受け入れ機関の努力の積み重ねがありニュージーランドの教育省や試験を作成する資格審査局(NZQA)とのコミュニケーションも少しずつすすみ、アドバイザーがニュージーランドの制度下でより効果的に働けるようになってきている変化を実感します。

道のりは長いかもしれませんが、そのような制度的な充実の方向に向けて、日本語アドバイザーがこれからもニュージーランドで支援をしていく意味は大きく、厳しい状況下、私自身も引き続き努力していきたいと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ニュージーランド教育大学協会(ACENZ)はニュージーランド教育省の委託を受け初等中等教育の外国語教育支援サービスを提供している。スペイン、ドイツ、中国、日本の四カ国からの専門家と現地のフランス語専門家がナショナル・アドバイザーとして所属、学校訪問や各言語教員の研修会を実施している。日本語はウェリントン本部と北部事務所のあるオークランドにそれぞれ国際交流基金からの派遣専門家が一名ずつ赴任中。ACENZとは組織を別にするが(2003年から)、各教育大学にはそれぞれの地域での初等中等教育レベルの外国語教育を支援する専門家(ファシリテーター)がおり、連携して仕事をする場合もある。
ロ.派遣先機関名称
Association of Colleges of Education in New ZealandACENZ
ハ.所在地 ACENZ Central :
PO BOX 10298, Level 15 Equinox House, 111 The Terrace, Wellington, New Zealand
ACENZ North :
C/-ACE Private Bag 92-601 Auckland, New Zealand
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:2名

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