世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ITを活用するニュージーランドの教育現場

ニュージーランド教育省
友岡 純子

 ニュージーランドは日本を一回り小さくした程度の国土に、約400万人の人たちが住んでいる。人口密度の低さを実感するのは田舎の学校を訪問する時である。平屋建ての校舎が実に広々とした緑豊かな敷地に広がっている。木造の建物も多く、大きな窓から明るい光が差し込んで開放感とともに何かぬくもりを感じさせる。コンクリートの箱のような標準的な日本の学校の校舎と比べると、ニュージーランドの子供たちはなんとラッキーなのだろうと思わざるを得ない。

 もう一つ、ニュージーランドの教育をうらやましく思うことがある。それは、教育現場におけるITの活用度が日本と比べて高いことである。各教室の天井にはコンピューターの画面をスクリーンに映し出すプロジェクターが設置されていて、インターネットやパワーポイントを駆使した授業が一般的になりつつある。もちろん、地域や学校によって普及度は異なるのだが、プロジェクターはもはや教室の標準設備になりつつある。多くの学校で、スマートボードと呼ばれるインターラクティブ・ボードを見かけるようになっても来た。日本はIT技術が進んだ国だと思われているが、学校現場に限って言えば、ニュージーランドの学校の方が一歩先を歩んでいるように思う。

 ニュージーランドの教師が日本の姉妹校を訪問したとき、新しい校舎に案内された。すばらしいモダンなビルだが、各教室に黒板があるのを見て、びっくりした教師が案内の校長に「新しい教室にどうして昔ながらの黒板をつけたのですか?」と質問した。最新のビルだから最新のスマートボードのようなものを期待していたのだ。すると、校長は「いや、最近のチョークは粉が出ないように開発されているのですよ。」と答えたのだそうだ。ちなみにニュージーランドの教室では黒板は見かけない。すべてマーカーで書く白板である。笑い話のような話だが、実際に日本語の教師から聞いた話である。一学級の生徒数が多い日本の教室では、ホワイトボードやスマートボードでは小さすぎるのかもしれない。また黒板に教師が書いて生徒が写すといったタイプの授業がまだ主流だからかもしれない。教室に黒板・・・ということが当たり前という日本の教育に対する一つのアンチテーゼとしてニュージーランドの教育を捉えると、とても興味深い。

 ITが教室に導入されれば、授業法もそれに対応したものとならざるを得ない。ナショナル・アドバイザーとして活動している日本語教育専門家もパワーポイントを用いた教材づくりやソーシャル・ネットワーキング・サービスを利用した授業の紹介など、ITの活用を求められる。「日本語教育の専門家はITの専門家ではない」などと言っていられない。すべての分野で言える事であろうが、技術革新の時代に対応し、ニュージーランドの文化や社会に対応して活動することができなければ日本語教育専門家は務まらない、とつくづく思う。毎日が勉強・・・の日々でもある。しかし、それだけに充実感も大きい。

 「ひらがな、読めるようになった!簡単でおもしろかった!」と笑顔で言ってくれる子供たち。「先生この間の研修のときのパワーポイント良かったからぜひ送ってください。教室で使いたいです。」とメールしてくれる先生たち。ニュージーランドの日本語教育専門家として働く喜びを感じるのは、自分の活動の成果が具体的に見えるときである。

訪問先の日本語を習い始めて間もない子供たちからのプレゼントの写真
訪問先の日本語を習い始めて間もない子供たちからのプレゼント

教師研修会の発表に聞き入る教師たちの写真
教師研修会の発表に聞き入る教師たち

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
ILANZ (International Languages Aotearoa New Zealand)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ニュージーランド・アオテアロア外国語教育(ILANZ=アイランズ)は、NZ教育省から業務委託を受け、外国との教育関係交換プログラムの運営、初等中等教育機関の外国語教師の支援等を行っている。ここには現在、ナショナルアドバイザーと呼ばれるドイツ語、スペイン語、フランス語、中国語、日本語教育の専門家が各1名所属している。ナショナルアドバイザーは教育省の言語教育アドバイザーや地域ファシリテーターと協働するともに、NZの初等中等教育機関を訪問したり、研修会を開いたりして、教師への支援を続けている。
所在地 Level 5, 150 Cuba Street, PO Box 27 022, Wellington, New Zealand
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1987年

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