世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ニュージーランドの日本語教育

ニュージーランド教育省
千馬 智子

ニュージーランドの外国語教育

ニュージーランド (以下NZ) は、日本の国土の約3/4の面積に約400万人の人が暮らしています。多文化・多民族国家として認識されているNZですが、北島と南島では人種の比率もかなり違うと言われています。NZの教育制度では、6歳からが義務教育ですが、5歳の誕生日から学校に行く権利があるため、小学校には5歳児のクラスもあります。

教育省は7年生から10年生に外国語学習の機会を提供することを義務付けています。しかし、どの言語を何時間学習するかはすべて各学校の裁量で決められるので、学期ごとに違う言語を紹介程度に学習するところもあり、外国語学習の質も内容もさまざまです。NZ教育省の統計によると8年生以下の外国語教育の80%は学習時間が年間30時間以下で、外国語の学習というより異文化学習といった意味合いが強いと思います。中等教育での日本語を含む外国語は、学生にとっては選択科目のひとつであり必修科目ではないので、学習者数を維持することはどの言語にとっても大きな課題になっています。

日本語専門家の業務

コンビニすごろく紹介ワークショップの写真
コンビニすごろく紹介ワークショップ

2011年からNZ教育省はオークランド大学傘下のILEPというグループに外国語教育支援業務を委託しています。現在の日本語専門家の所属先もこのILEPで、日本語ナショナルアドバイザーとして活動しています。ここには日本語のほかに、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語のアドバイザーが所属し、それぞれの言語教育の支援を行っています。2013年2月に専門家はウェリントンからオークランドへ移動し、オークランド大学教育学部内のILEPオフィスに勤務しています。NZの首都はウェリントンですが、最大の都市はオークランドで、人口も学校も30%程度がオークランドに集中しています。

専門家の業務は、学校訪問、研修会の実施、教材紹介や日本語教育に関する様々な情報の提供、イベントや他団体が主催する研修会への参加などです。受け入れ先からは7年生から10年生の日本語教育支援、特にIntercultural Communicative Language Teaching の指導が求められています。研修会では「日本人はどんな朝ごはんを食べますか」「焼き鮭に味噌汁」といったステレオタイプを脱し、最新のアンケート調査結果などを紹介して、「半数近い日本人が朝はパン食」であることを先生たちとグラフなどで確認し、それを日本語クラスに活用してもらうようにします。またNZでも食生活の変化があるかなどを自文化の振り返りとして使ってもらいます。

学校訪問 教室風景の写真
学校訪問 教室風景

専門家は学校訪問のためにオフィスにいないこともしょっちゅうです。学校訪問はたいてい自分で車を運転して行きます。GPS代わりの携帯電話をたよりに初めての学校を訪問するのはかなり神経を使いますが、1時間程度でも一緒にクラスに参加すると、授業が終わるときには学生たちはにっこりして「さよなら」とあいさつしてくれます。地方の学校訪問にはかなりの費用がかかりますが、それでも顔を合わせて一人ひとりの先生方と話をしたり授業を見学したり、デモ授業をしたりすることで連携がとりやすくなることは事実です。

日本語は現在のところ、中等教育ではフランス語に次いで学習者が多い言語ですが、90年代に隆盛を極めたNZの日本語教育は、その後学習者の減少が続いています。現在地区ごとの教師の連携、またレベルを超えた教師の連帯が一層必要になっています。専門家が実施する研修会などが連携を深める機会を提供することになります。

オークランドに移動してからオークランド地区内での小規模な研修会が開きやすくなりました。以前から依頼していたInteractive White BoardIWB)をILEPが最近購入したので、さっそくシドニー日本文化センターが開発したIWB用日本語教材「コンビニすごろく」を紹介するワークショップを開催しました。IWB用教材の紹介はアドバイザーの中でも日本語が最初でした。また国際交流基金関西国際センターに受託研修をお願いして、2012年には日本語教師を対象にした新しい海外研修を実施しました。参加した教師たちは、専門家が主催する研修会で発表したり、自分が作成した教材を他の教師と共有したりするなど関西研修後、さらに積極的に活躍しています。

ニュージーランド日本語教育の今後

2012年末には大学レベルの日本語シンポジウムが開催され、参加者の間で大学講師間の連絡会の早期実現の必要性を確認しました。現在設立へ向けての努力が続いています。現在任期3年目となり、高校レベルの先生方とは比較的連絡が取りやすくなってきましたが、小学校、中学校で日本語を教えている先生たちとはなかなかスムーズに連絡が取れません。これは日本語以外も同じで、他のアドバイザーたちも同様の問題を抱えています。このグループの先生方を積極的に支援していくことも専門家の役割のひとつです。

NZでは日本語学習者数が減少を続けているというやや残念な状況にありますが、そのような中で、初等・中等教育、また大学と異なるレベルで日本語教育にかかわっている教師間の橋渡しをし、多様な日本語教育現場にたつ先生方と一層の連携を図り、学校の校長や運営委員会などに対し日本語教育の重要性をアピールしていくことが専門家の重要な役割です。レベルを超えた先生方の連携が実現することが今後のNZでの日本語教育継続にむけて大きな力になると思います。

参考
ILEP: http://www.ilep.ac.nz
NZカリキュラム:http://nzcurriculum.tki.org.nz/Curriculum-documents/The-New-Zealand-Curriculum
派遣先機関の情報
派遣先機関名称
ILEP(International Languages Exchanges and Pathways)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ILEPはオークランド大学傘下のUniservicesという営利組織の一部で、2011年からNZ教育省の委託を受けて、ナショナルアドバイザー(以下NA) の活動サポート、外国語教師の海外研修派遣、language assistant プログラムの運営管理など、ニュージーランドの初等・中等教育での外国語教育支援業務を担当している。契約期間は3年である。現在、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、そして日本語のNAが所属している。ILEPはウェリントンオフィスを2013年1月に閉鎖し、オークランド本部に一本化した。現在スペイン語NA以外はすべてオークランドに駐在している。各NAは学校訪問、教材提供、教師研修会を開催するなどして、初等・中等教育の外国語教育を支援している。
所在地 University of Auckland, Faculty of Education, 74 Epsom Avenue, Auckland 1023, New Zealand
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家,指導助手各1名(指導助手は2012年より派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 1987年

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