世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) がんばれニュージーランドの日本語教育

ニュージーランド教育省
原田明子

マオリ語と英語

ニュージーランドが英語圏だというのはよく知られていると思うが、実はこの国の公用語は、マオリ語と英語の二つだ。だから、この国で外国語教育といった場合マオリ語は含まれない。セミナーや学校での集会が始まる時は、まずマオリ語による挨拶があることが多く、マオリ文化を保護していこうという姿勢が随所に見られる。また、サモア、トンガ、クック諸島などパシフィカと呼ばれる南太平洋諸島の人々が一番多く暮らしているのはニュージーランド、特に北島のオークランドだそうだ。実際、アジア系移民や各国からの留学生、パシフィカが溢れるオークランドの街は、50メートル歩く間に幾つもの言語に接することも稀ではない。

日本語アドバイザーの仕事

各国のアドバイザーの写真
一緒に働く各国のアドバイザー

ニュージーランドは「小さな政府」を標榜しており、政府は多くの仕事を民間に委託している。教育も例外ではない。国際交流基金日本語上級専門家(以下、上級専門家)としての私の赴任先はニュージーランド教育省だが、実際には、オークランド大学傘下にあるILEP(International Languages Exchanges and Pathways)という機関に属して日本語教師支援を行っている。日本語の他にもフランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語のアドバイザーがいる(http://ilep.ac.nz/national-advisers)。日本の国土の約3/4の広さを持つニュージーランドをたった一人のアドバイザーがカバーしているので、仕事は多岐に亘り、地方への出張も多い。セミナー/ワークショップの企画・開催と学校訪問が第一の仕事だが、それらの合間を縫ってスピーチコンテストの審査員、教師研修旅行の引率、教師間ネットワーク作りなども行う。また、メールでの各種情報提供も大切な日々の業務である。

現在、7月に行われる全国言語大会に合わせて、教師の日本語力アップのための「日本語イマーションセミナー」を考えている。読む・聞く・書く・話すの4技能に加え、風呂敷のデモンストレーションや日本映画の上映を盛り込んだ楽しいものにしようと企画中である。

準備や調整が大変だが、学校訪問は好きな仕事の一つである。飛行機を降り、初めての土地を地図を頼りにレンタカーで走り、訪問先の学校を見つけたときは「あった!」といつも叫んでしまう。どんな学生や先生が待っているのか、用意した模擬授業はうまくできるか、いつも不安と期待でいっぱいだ。「面白かった」「日本語をもっと学びたくなった」「今度いつ来てくれる?」と話しかけてくる学生は本当に可愛い。日本語教師になって数十年が経つが、学生の輝く笑顔はいつも次の仕事への活力の源となっている。

ニュージーランドの日本語教育

1990年代以降、日本経済力の高まりと共に、日本語の学習者数は爆発的に増えたが、ここ10年程は学習者数も日本語教師数も減少の一途をたどっている。1年生~8年生までの初等教育レベルは年ごとの変動が激しく定かではないが、高校レベルでは、2008年以降約6000人も減って現在学習者数は約12,000人、大学レベルの減少率は更に大きいという。かろうじて、フランス語に次いで2番目の地位を占めているものの、3番目のスペイン語との差は年々僅差となってきている。

なぜ日本語はこれほど減少してしまったのだろうか。理由は一つではなく、いくつかの要素が絡み合っているようだ。一つには、英語圏の学生にとって比較的学習が易しく、太平洋を挟んで地理的にも近い南アメリカで話されているスペイン語熱が高くなっていることが挙げられる。また、オーストラリアに次ぐ貿易相手国となった中国語の台頭も見逃せない。ただ、漫画やアニメ、ゲーム、ファッション、和食などの日本のサブカルチャーは根強い人気があり、今後の盛り返しが期待される。

危機的状況打開のために、大学間でのネットワーク作りも始まっている。今年3月、ニュージーランドにある8つの大学がJSANZ (Japanese Studies Aotearoa New Zealand) という組織を立ち上げ、Websiteを公開した。日本語学習の維持、発展に力を注ぐこうした試みをしっかり支えていくこともアドバイザーの使命だと考えている。

ある高校での授業風景

2012年度からニュージーランドには、上級専門家以外に基金から指導助手が1名派遣され、オークランドにある高校で日本語教育に携わっている。その様子を以下に述べ、学校での実際の授業の様子をお知らせしたい。

「教え始めてまず気がついたことは、学生が授業中よく手を挙げるということです。また、褒められると満面の笑顔で喜んだり、ガッツポーズをしたり、隣の友達と目を合わせてはにかんだりします。クラスによって雰囲気が異なるので、授業プランは各クラスに合わせた内容や指導方法を考えます。一緒に働いている先生は長年の経験からアイディアをたくさん持っている上、学生が好みそうな活動を考えることがとても上手です。今まで大人に教えることが多かった私は、毎回多くのことを学んでいます。


料理学習の写真
おいしくできたかな? 料理学習の様子

そして、人気があるのはやはり料理学習です。料理を作る段になると男女関係なく皆興奮気味になります。先日は巻き寿司や蕎麦を作りました。寿司はオークランドのどこでも手に入るのでそれ自体に目新しさはないのですが、自分で作るのはやはり楽しいようです。注文の仕方を学習した後、実際に蕎麦を注文して食べてみるという活動では、音を立てて蕎麦をすすり、食べた後に蕎麦湯を飲むという体験がとてもエキサイティングだったようです。」

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 ニュージーランド教育省 ILEP (アイレップ)
Ministry of Education, New Zealand
: ILEP (International Languages Exchanges and Pathways)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ILEPはオークランド大学傘下のUniserviceという営利組織の一部で、2011年からNZ教育相の委託を受けてナショナルアドバイザーの活動サポート、外国語教師の海外研修派遣、言語アシスタントプログラムの運営管理などのNZ初中等教育での外国語教育支援業務を担当。日本語の他フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語を擁する。事務所はオークランド大学内にあり、各言語のアドバイザーは、セミナーやワークショップの企画運営、学校訪問、教材提供、研修旅行引率など様々な外国語教育支援を行っている。
所在地 University of Auckland, Facluty of Education,74 Epsom Avenue, Epsom,Auckland 1023 ,New Zealand
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家1名、指導助手1名
国際交流基金からの派遣開始年 1987年

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