世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 外国語教育は、人気がない?

ニュージーランド教育省
原田明子

モノリンガルの社会

最近の新聞に、ショッキングなニュースが載った。それは「外国語を学習している学生が全体の20%を切り、1933年以来最低水準を記録した」というものである。グローバル社会を生き抜くために外国語を必修にする国々が増えている中、何と時代に逆行した流れなのだろうか。

ニュージーランドにはもともとマオリ人が住んでおり、その後白人が移住し英連邦の一つとなったが、英国のEC加盟以後はオーストラリアと共にアジアへと軸足を移してきた。現在、ニュージーランド、特にオークランドにはパシフィカ(トンガ、サモア、クック等南太平洋諸島の人々)やアジア人がたくさん住んでおり、多民族国家を形成している。

それにもかかわらず、外国語学習は人気がない。何故か。それは、大学入学に外国語の履修が義務付けられていない、12、13年生の多くは理系科目を優先して言語が選択できない、国に言語政策が存在しない、英語さえ話せればいいと考える親が多いなどが理由として挙げられる。

言語と文化は密接に繋がっており、異なる文化を持つ人々と上手くやっていくためには、彼らの文化を認め、受け入れ、敬う必要がある。「みんな違って、みんないい」の精神が大切なのだから。

日本語学習

しかし、政府も手をこまねいているわけではない。昨年9月にはアジア言語(日本語、中国語、韓国語)に対して1,000万ドルの補助金プログラムを発表した。また、各言語教師会も、機会を捉えて言語学習を義務付けるよう政府やメディアに働きかけを行っている。

日本語は、現在、外国語全体の中でフランス語、スペイン語に次ぐ学習者数だが、その数は減少している。ただ、アニメ・マンガをはじめ日本文化をクールだと考える学生は、教室での学習だけでなく、自らネットでマンガを読んだり、音楽を聞いたりしている。また、11、12年生で催される日本旅行も日本語学習のモチベーションアップに一役買っているようだ。

「○○先生、おはようございます」というお辞儀を伴う挨拶で始まるのが一般的な授業風景である。そして、教師の多くはよく使うフレーズを黒板に貼ったり、日本に関する絵やポスターで教室内を飾ったりしている。

教室の写真
教室風景

言語の学習には、学習する環境も重要である。

日本語専門家の仕事

現在、小中高を合わせて200校弱の学校で日本語が教えられているが、その教師サポート及び日本語のプロモーションが日本語専門家の主な仕事となる。具体的には、教師向けワークショップ開催、セミナー発表、弁論大会の審査、学校訪問による模擬授業や助言、教師間ネットワーク作り、各種奨学金やリソース情報の提供などである。大使館や領事館の文化広報担当者とも密に連絡を取り合い、日本語、日本文化の普及に力を注いでいる。

先日も領事館職員と共にある学校を訪れ、二日間全6クラスに着付けの実演を行った。男子も女子も、また担任教師も大変喜び、有意義な時間を過ごすことができた。地元のメディアも駆けつけ、翌日の新聞にその記事と写真が掲載された。

クライストチャーチ、ウエリントンで行った13年生向けの高校卒業試験対策のワークショップも盛況であった。年々難しくなるこの試験で生徒にいい点を取らせるにはどうすればいいのか、と教師たちは悩んでいる。質問に単に答えるだけではいい点はもらえない。その中に日本人の考え方や習慣を織り込んでこそ、いい解答になる。この日は旅行日程表をもとに「これはどんな旅行者にアピールするか、それは何故か、多くの日本人はどんな旅行を好むか、それは何故か」といった質問をしながら、進めていった。「とても有意義だった」「また来たい、有難う」という言葉に準備の大変さも吹き飛ぶ。

さて、ニュージーランドと言えばラグビー、オールブラックスだ。こちらの人は老若男女を問わず、皆ラグビーが大好きである。そのラグビーワールドカップが2019年に日本で開催される。その翌年2020年には東京オリンピックも控えている。これは日本語を学んでもらう絶好のチャンスだと考え、「Are you ready for learning Japanese?」と題した 日本語プロモーションのポスター作成を企画中である。日本に興味を持ち、日本語を少しでも学んで、日本を訪れるニュージーランド人が増えていくことを切に願っている。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 ニュージーランド教育省 ILEP (アイレップ)
Ministry of Education, New Zealand
: ILEP (International Languages Exchanges and Pathways)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ILEPはオークランド大学傘下のUniserviceという営利組織の一部で、2011年からNZ教育相の委託を受けてナショナルアドバイザーの活動サポート、外国語教師の海外研修派遣、言語アシスタントプログラムの運営管理などのNZ初中等教育での外国語教育支援業務を担当。日本語の他フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語を擁する。事務所はオークランド大学内にあり、各言語のアドバイザーは、セミナーやワークショップの企画運営、学校訪問、教材提供、研修旅行引率など様々な外国語教育支援を行っている。
所在地 University of Auckland, Facluty of Education,74 Epsom Avenue, Epsom,Auckland 1023 ,New Zealand
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家1名、指導助手1名
国際交流基金からの派遣開始年 1987年
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