世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ナショナルアドバイザーの仕事とは

ニュージーランド教育省
三上 京子

ニュージーランド派遣の日本語専門家(以下、専門家)は、ニュージーランド教育省から外国語教育推進を委託されたILEP (International Languages Exchanges and Pathways)という組織に所属するナショナルアドバイザーとして業務にあたっています。ILEPは、オークランド大学の中にオフィスがあり、専門家は学校訪問やワークショップなどで出張するとき以外は、オフィスで会議やメール連絡などをしています。ILEPには、日本語のほかに中国語、スペイン語、フランス語、ドイツ語のナショナルアドバイザーと韓国語のメンター(指導者)のほか、教員研修担当のアドバイザーもいて、チームとして協力しながら各言語教育の推進や先生たちの支援をしています。

アドバイザーの業務は多岐にわたりますが、中心となるのは学校訪問とワークショップの開催です。また、先生たちが日本語や日本語教授技術の向上のために受ける研修の企画や案内をしたり、一緒に研修に参加したりすることも仕事の一つです。

<関西イマーション研修>

写真(1)関西イマーション研修で和太鼓体験をしている様子の写真。
写真(1)関西イマーション研修に参加

写真(1)は、2017年10月に国際交流基金関西国際センター(以下、センター)で実施されたイマーション研修で、6名の日本語の先生たちと一緒に和太鼓を体験したときのものです。イマーションというのは、「浸かる」という意味で、その名の通り先生たちは2週間「日本語漬け」で過ごします。センターでは、専門の先生方による日本語教授法の講義のほか、外交官向けの日本語クラスの見学、和太鼓や生け花などの文化体験もします。また近隣の小学校と高校を訪問して生徒たちと交流するなど、非常に盛りだくさんで充実したプログラムです。大阪オリエンテーションでは、街や店の様子を写真に撮ったり、日本的なお土産を教材用に収集したり、日本人にインタビューしてビデオに録画したりもしました。これらはすべて帰ってから日本語の授業に役立てられることになります。

参加した先生たちはみな、本当に素晴らしい体験ができたと感激していました。そして6名それぞれ日本語力や経験年数、教えている環境も違う中で、与えられた課題を達成するためにみんなで協力し、共に学び合う様子が見られたことは、同行した専門家にとっても貴重な体験となりました。

<日本語ワークショップを開催>

写真(2)日本語のワークショップ開催の様子の写真
写真(2)日本語のワークショップ開催

写真(2)は、ニュージーランドの首都ウェリントンで開催した日本語ワークショップの様子です。“Let’s talk about Japanese Language itself !”というタイトルで、日本語の文構造の基本や動詞の学び方について考えてみようという趣旨のワークショップを開催しました。南島のダニーデンという街にあるオタゴ大学から言語学専門の先生を講師に迎え、専門家は日本語文法クイズのところを担当しました。昨年同じワークショップをオークランドと南島のダニーデンでも開催したのですが、この日はニュージーランドの首都であるウェリントンの高校で日本語を教えている先生8人が参加してくれました。日本語母語話者の先生のほか、日本語が堪能なベテランのニュージーランド人の先生からも活発に質問や意見が出され、和気あいあい楽しい雰囲気の中で、大変実りのあるワークショップとなりました。

<日本語の先生たちを応援するために>

ニュージーランドでは、1990年代に日本語学習者が急増するという現象がおきて「ツナミ」と呼ばれました。ところがその後、日本経済に陰りが見えてきたこともあり、日本語学習者の数はどんどん減ってきてしまいました。それでも、先生が毎日の授業を少しでも魅力的、かつ効果的にしようとがんばっている学校では、「昨年より日本語の生徒が増えました」といううれしい報告も聞かれます。

日本語の先生たちは、授業以外にも学校内外の様々な仕事を抱え、本当に忙しい毎日を送っています。先生たちの多くはノンネイティブ、つまり日本語が母語ではないので、日本語をもっと勉強しなければと思っている人も多いようです。また、オークランドのような大都市ではなく、日本人がほとんど住んでいないような小さな地方都市で、たった一人で日本語を教えている先生もいます。そんな先生たちを応援するために、これからも一つでも多くの学校を訪問して、授業見学をしたあとに話を聞いたり、相談にのったりしていきたいと思います。また、ワークショップでは、日本語教育の専門的知識や授業のアイディア、新しい教材の紹介をするなど、少しでも先生たちの役に立つような情報を提供していけたらと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
ILEP (International Languages Exchanges and Pathways)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ILEPはオークランド大学の営利組織であるUniServicesの下部組織で、2011年からNZ教育省の委託を受け、NZの初等・中等教育段階における外国語教育支援業務を担当している。日本語の他にフランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語のナショナルアドバイザー(以下NA)が所属していて、スペイン語とドイツ語のNA以外は全てオークランドのILEP事務所で働いている。各NAは学校訪問、教材提供、ワークショップの企画開催などを通じて、初等・中等教育の外国語教育の推進、普及、支援を行っている。ILEPでは、NAの活動をサポートする以外に、外国語教員の海外研修派遣、アシスタントプログラムの運営管理、日本とニュージーランドの言語・文化交流活動に対する助成金にかかわる業務などを行っている。
所在地 University of Auckland, Faculty of Education, 74 Epsom Avenue, Auckland 1023, New Zealand
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1987年
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