世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ブルネイにおける日本語教育(2003)

ブルネイ教育省
西原潤

生涯教育課が入っている建物の写真
生涯教育課が入っている建物

 ブルネイは世界で3番目に大きい島であるボルネオ島の北西部に位置し、周りをマレーシアのサバ州に囲まれている。1984年にイギリスから独立した。人口は約30万人で、国土は約6千平方キロメートルと非常に小さな国である。しかし、かつてこの国はボルネオ島全体とフィリピンまで支配していた。ブルネイは石油と天然ガスを産出し、日本などにも輸出している。このため、一人当たりの国内総生産がアジアではシンガポールに続いて高いものとなっている。この国にはマレー系の人が多く住んでいるが、中国系の人や外国人も住んでいる。公用語はマレー語であるが、英国植民地であったため、英語も広く使用されている。

 日本語は、独立直後の1986年から教育省の前身である教育保険省で教えはじめられた。翌87年から国際交流基金から日本語教育専門家が派遣されていて、2002年には第6代目が派遣された。

 現在は、教育省技術教育局生涯教育課というところが日本語講座を主催している。
この生涯教育課というのはブルネイ市民の生活水準を上げるために、必要に応じた教育の機会を継続して提供する課であり、一般成人向けの夜間講座を運営している。
 生涯教育課ではいろいろなクラスが開かれている。例えば、数学、会計、地理、マレー語、英語などのAレベル、Oレベルの科目のクラス、建築など都市計画のクラス、タイピング、速記などの商業のクラス、料理、裁縫、刺繍、フラワーアレンジメントなどの家政のクラス、障害教育など福祉のクラス、イスラムのクラス、そして、外国語のクラスなどがある。

 外国語のクラスには、日本語のクラスのほかには中国語、アラビア語、フランス語のクラスがある。
日本語のクラスは3レベル、5クラスある。今年は、約170名が登録し、そのうち約150名が実際に授業に参加した。はじめは人数が多かったが、だんだん減ってくる。開講から4ヶ月少したった現時点で、比較的定期的に出席している受講者の数は約95名である。

 各クラスは週1回2時間授業が行われている。日本語クラスの受講者はいろいろな人たちである。社会人も学生もいる。マレー系も中国系もいる。しかし、圧倒的に女性が多く、また、年齢で見ると、10代、20代の若い人が多い。

日本語講座も授業に使う講堂の写真
日本語講座も授業に使う講堂

 日本語クラスに来ている人たちには、日本語を学習する明確な目的がないことが多い。学習目的を聞いてみたら、「わからない」というのが一番多く、あとは「趣味」とか「外国語を勉強したい」とかいった漠然としたものが多い。

 それには理由がある。それは、第一に、この国では日本語ができても何の役にも立たないからである。日本との関係で言えば、ブルネイが産出する天然ガスは、そのほぼすべてが日本に輸出されているのだが、ブルネイには日本企業はほとんど進出していない。現地に住んでいる日本人もごくわずかである。また、近年ブルネイ政府は観光業に力を入れつつあるようだが、日本からの観光客もほとんどいない。
 第二に、この国には競争というものがなく、あくせくと働いても仕方がないという事情があるからである。この国は比較的裕福で、労働者の半数以上が公務員である。公務員は身分が安定的していて、給与もよく、その他の恩典も大きい。民間部門の従業員の4分の3以上を外国人労働者が占めている。

 そのため、ちょっと興味があって始めたことでも、少し難しいと思うとすぐにやめてしまう。1年次の登録者が100名を超えるのに、2年次の修了者は、去年の場合で言うと、たったの3名となってしまうのである。

 日本語のクラスには、そんなに真剣に語学として日本語を勉強する雰囲気があまりない。どちらかというと、受講者たちは、人生を楽しむために、週に1度講座に通って来ている。そのため、あまりぎしぎしと受講者に押し付けることはできず、進度は非常にゆっくりとしたものになる。4年間でやっと初級の教科書が終わるか終わらないかといった進度になってしまう。

 一番大切なことは、楽しい雰囲気で授業をすることである。受講者たちが日本語の能力を少しずつでも、非常にゆっくりとでもいいから、確実につけていくように手助けすることである。

 これはときには大変つらい作業ではあるが、日本語教育にはこういう現場もあるのだということをこの国に来てから学んだ。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
1986年に教育保険省の社会教育事業の一環として日本語講座が開講される。ブルネイには1987年から国際交流基金により日本語教育専門家が派遣されている。教育省技術教育局生涯教育課の講座は、ブルネイ市民の知識や技術の向上を目的に、必要に応じた教育の機会を継続して提供するもので、一般成人を対象にした夜間講座である。講座には一般社会人 、学生など様々な学習者が在籍している。2002年より国際交流基金派遣日本語教育専門家の所属先が在ブル ネイ日本国大使館からブルネイ教育省技術教育局(生涯教育課)に移管された。
ロ.派遣先機関名称 ブルネイダルサラーム国教育省技術教育局
Department of Technical Education, Ministry of Education, Negara Brunei Darussalam
ハ.所在地 Adult and Continuing Education, Department of Technical Education, Ministry of Education.
Blok J, Simpang 347, Jalan Pasar Baharu Gadong, Negara Brunei Darussalam, BE1310.
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
ブルネイダルサラーム国教育省技術教育局生涯教育課アカデミッククラス外国語日本語
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1986年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1987年
(ロ)コース種別
日本語初級1、日本語初級2、日本語中級/上級
(ハ)現地教授スタッフ
なし
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   初級1;約100名
初級2;約30名
中級/上級;約25名
(2) 学習の主な動機 趣味
(3) 卒業後の主な進路 特になし。
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
第4年次を修了時点で日本語能力試験の3級から4級程度
(5) 日本への留学人数 特になし。

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