世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 王立プノンペン大学 日本語学科 開講!

王立プノンペン大学外国語学部
片桐 準二

日本語学科の立ち上げ

日本語学科第1期奨学生の写真
日本語学科第1期奨学生

 2005年10月17日、カンボジア日本語教育史上画期的かつ重大な日だと、先走る胸の鼓動を抑えて努めて冷静な顔を装って出勤したが、当国初の4年制日本語主専攻の日本語学科の開講日であるその日は、垂れ幕も式典も新聞社の車もテレビ局も何もない全く普通の月曜日だった。日本語学科唯一のクメール人教員である学科長と派遣専門家が二人で智恵を絞ったカリキュラムに従って時間割を作り、その日の1コマ目は『日本語入門』の時間となっていたが、授業はせずに学科長による日本語学科オリエンテーションとした。その後、学科が所属する外国語学部(以下、IFL)で日本語を教えるJOCV隊員(後述する日本語コースを運営)から学科長に深紅のバラの花束が贈られて、第1期生と共に記念撮影をすることができ、それが唯一この日を特別な日だと演出できた瞬間だった。

 派遣専門家はこの5ヶ月前に赴任し、学科長となるその人と開講準備を始めていた。当初は大学の中でも日本語学科ができたことを知る者が少なかったが、学長や副学長のところへ何度か相談に行くうちに、教育省から2003年5月8日付で出された学科開設認可を伝える書類の確認ができ、また教育省発行の2005-2006年度(9月中旬新学期)の国立/王立大学学生募集要項に日本語学科の学生募集が記載されていることも分かったため不安は払拭された。その後の開講準備作業は、教員室の準備・カリキュラムの作成・学科規則の作成・教材/教具の準備・年間スケジュール作成・教員採用計画・授業時間割作成・入学試験準備など多岐に渡った。

 学科長が大学の会議に出席するようになってからは、学内での日本語学科の認知度も上がった。派遣専門家は学科長と繰り返し準備事項について相談し、それを提案としてまとめる役目、その提案を学科長が大学や学部に伝えて承認を得てくる。こうして少しずつ学科のシステムができてきた。この作業は開講後の今も続いていて、次年度の教員採用・入学試験問題の内容・学生の成績管理法・授業評価表の処理などなど、学科運営の様々な細かな事項ついての助言・提案が随時必要とされている。

学科の入学生

 日本語学科に入学する学生には、教育省へ願書を出して受験する教育省統括の奨学生とIFLに願書を出して受験する教育省認可の一般学生とがある。奨学生になるには高校卒業年かその翌年に大学に合格しなければならない。一般学生にはそのような規定はないが、奨学生の5倍以上の授業料を支払わなければならない。日本語学科第1期生は81名(うち6名はすでに進路変更などの事情で退学した)で、それを奨学生クラス、一般学生午前(7時~11時)クラス、一般学生午後(1時~5時)クラスの3つに分けている。一般学生の中には仕事に就いていたり、他の大学にも在籍していたりする者もいる。2つ以上の大学を掛け持ちする学生がプノンペンには多く、そのため大学の方でも午前・午後・夜間の3コースを用意しているところがある。日本語学科もその体制にならい、午前・午後のクラスの学生はそれぞれ毎日その時間帯のみ4年間通うことで卒業できるように時間割を組んでいる。

 こうした学生たちの約半数が日本語教師志望で、あとはNGOスタッフや通訳、観光業への就職を希望している。これは語学ブームのプノンペンで民間の語学学校が英語とともに日本語・韓国語などの他の言語も開講していて、そうした学校への就職を考えてのことのようで、日系企業の進出の少ないカンボジアの厳しい就職事情を反映している。

学科開設までの経緯と日本語コース

日本語学科のある外国語学部(IFL)の写真
日本語学科のある外国語学部(IFL)

 王立プノンペン大学での日本語教育は1993-1994年度に青年海外協力隊によって開設された日本語コースに始まる。プノンペン大学の在学生を対象としたnon-creditのこのコースは1994年4月IFL内に44名の学生を迎えて初めて開講された。日本語学習を希望する学生の増加によりコースは徐々に発展し、1998年以降は毎年100名を越える学生が学び、1999年には4年間のコースとなった。こうした協力隊員の活動が契機となって、大学は正式な日本語学科開設を教育省に申請し、その開設が認可されることとなったのである。そしてnon-creditの日本語コースは2003-2004年度入学生が卒業する2007年で閉鎖され、以後IFL内での日本語教育は日本語学科だけが担う。日本語学科生以外で日本語学習を希望する学生のためのコースは、同大学内にあるカンボジア日本人材開発センター(以下、CJCC)の日本語講座が引き継いでいる。

カンボジア日本語教師会の発足

 学科長に熱意があって、日本語学科内にカンボジア日本語教師会の事務局を開設した。昨年の11月に教師会の会員募集案内を載せた会報第1号を発行したところ、本年6月現在までに80名を越える会員が集まった。プノンペン在住・男性・20代といった属性にやや偏ったカンボジア人の集まりとなっているが、これまでに2回のセミナー・ワークショップを開催。またセミナー・ワークショップ情報や文法の考え方・教授法関連の記事を載せた会報もすでに3号まで発行、今後もほぼ3ヶ月に一回の定期的発行を予定している。現在のところこの教師会は、日本語学科長、派遣専門家、日本語コースの協力隊員、そしてCJCC日本語講座スタッフによって運営されている。CJCCの協力を仰ぎつつ、この教師会活動を通して日本語学科は日本語教育情報の発信拠点となることも目指している。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
王立プノンペン大学はカンボジアに7つある国立大学の中の唯一の総合大学であり、日本語学科の所属する外国語学部は、カンボジアで唯一の外国語を専門に研究する大学所属機関である。日本語学科は2003年にカンボジア教育省の承認を得て設置され、2005年10月に開講したが、カンボジアで唯一の日本語を主専攻とする4年制の学士課程で、カンボジア全国から学生を募集している。また、2005年11月にカンボジア日本語教師会の事務局が当日本語学科に設置され、会報の発行、セミナー・ワークショップ等の主催、他機関の教師への情報提供や教師間の交流促進にも努めている。
ロ.派遣先機関名称 王立プノンペン大学
Royal University of Phnom Penh
ハ.所在地 Department of Japanese Language, Institute of Foreign Languages, Royal University of Phnom Penh,
Russian Federation Boulevard, Phnom Penh, P.O.Box416, Cambodia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
外国語学部日本語学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   専攻:2005年から
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2005年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤1名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   第1学年:75名
(2) 学習の主な動機 日本語教師希望、留学、仕事上必要
(3) 卒業後の主な進路 まだ分からない
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
まだ分からないが、カリキュラム上は2級程度
(5) 日本への留学人数 なし

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