世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) カンボジア日本人材開発センターから

カンボジア日本人材開発センター
衣笠 秀子

 「カンボジア」という国にみなさんは、どんなイメージを持っていますか。「アンコールワット」「長い内戦」「地雷」・・・。暗い印象もあるかもしれません。しかし、21世紀のカンボジアは経済成長率がここ5年、平均で10%を超え、豊かになりつつあります。中国、韓国からの投資が入り、首都プノンペンはビルの建築ラッシュで、町には活気があります。スーパーにはタイ、ベトナムから入ってくる食品、生活物資があふれ、市場にも新鮮な野菜、果物が並び、人々の生活も大きく変わっています。

 カンボジアで本格的に日本語教育が始まったのは1990年代中盤で、その歴史はまだ浅く、学習者の多くは初級レベルに留まっています。これからは徐々に、中級学習者層が厚くなり、仕事で通用するレベルの日本語力を持った人材が増えていくことが望まれます。

CJCCの日本語学習者

カンボジア人講師の初級授業風景の写真
カンボジア人講師の初級授業風景

 カンボジア日本人材開発センター(以下、CJCC)日本語コースは年間10種ほどのコースを開講し、二百数十人が日本語を学んでいます。カンボジアには日本のサブカルチャーがまだ入ってきておらず、ほとんどの学生は宮崎駿のアニメもドラえもんも知りません。1990年代にカンボジア復興を支援した日本に対していいイメージがあり、日本語の勉強を始める学生も多いようです。主な学習動機は「留学したい」「就職に有利になる」「日本語教師になりたい」などです。将来に明るい希望を見出すべく、熱心に日本語を学んでいます。

派遣専門家の活動

 CJCCにおける日本語教育専門家の活動は、現地講師とともに日本語コース運営に当たるほか、教師育成・支援から、センター内で行われるイベント実施まで様々です。その主なものを紹介します。

カンボジア人教師の育成・支援

1) 日本語コースでは昨年、カンボジア人常勤教師の専門性を高めるため、教授法勉強会を開きました。その過程で、今まで使ってきたカリキュラム、シラバス、テストを見直そうという意識が生まれ、その後講師全員で初級コースのカリキュラム改定、宿題などの教材整備を続けています。CJCCは数年後には、カンボジア人がコース運営全般を担っていく予定で、このコース改善という取り組みは講師にとって有益な体験となっています。また、カンボジア人教師が中級を教えられることが現地化に向けて必須であることから、教案指導、授業見学を通して、中級要員育成も行っています。

2) プノンペンには民間日本語学校など十数校でコースが開かれています。そこで教える教師を対象として、今年度、教師養成コースを開講します。授業の組み立て方、効果的な練習方法など広く教授法を伝え、教授力のある教師を育てることがその目的です。

3) 昨年度はベトナムから同じ国際交流基金の日本語教育専門家を迎え、日本語セミナー「e-learningで学ぶ」を実施し、日本語教師、学生ともに大好評でした。今年度は2回、「日本語教育セミナー」の開催を計画しています。カンボジアでは教師が日本語教育について学べる機会が十分でなく、こうしたセミナー企画も大切な業務の一つです。

翻訳・出版事業

 翻訳コースの受講生が訳した『ふたりのイーダ』が2007年に出版され、一部はカンボジア国内の小中学校、孤児院に無料配布されました。児童書の少ないカンボジアに良書を紹介したいという目的での翻訳・出版でしたが、日本語コースの成果物がカンボジアの子どもたちに還元されたことはとても意義深いことです。前任者の業務を引き継ぎ、今年度もう一冊、児童書の出版を計画しています。

 日本語コースの常勤講師が中心となって翻訳した『みんなの日本語Ⅰ』文法解説版クメール語訳の出版もありました。続いて『みんなの日本語Ⅱ』の翻訳・出版も早期に実現させたい課題です。もうひとつ、日本留学をめざす学生に、すぐに役立つ具体的な情報を提供する「日本留学情報」というニュースレターの季刊発行もしています。このような出版事業のコーディネートも専門家業務というわけです。

その他の業務

学校対抗「クイズ大会」の様子の写真
学校対抗「クイズ大会」の様子

 日本語教育に関わること以外にも、いろいろな活動があります。昨年はスタディツアーで日本から来た学生と日本語コース受講生の交流会を3回実施しました。この会は受講生にとっては日本人と実際に話ができる貴重な機会ですが、日本人学生にも「カンボジアの若者と直に話し、現場見学だけでは得られない生の声が聞ける」と好評で、日カ文化交流の場としてうまく機能しています。

 また、年1回開かれるCJCCフェスティバルでは、日本語コースを持つ4機関の代表が日本や日本語に関する知識を競う「クイズ大会」を催します。この他、JENESYS ProgrammeJICA研修生の渡日前日本語レッスンも要請に応じて行うなど、各種イベント、特別授業実施のコーディネーター役も担います。

これから・・・

 奨学金を得て日本留学の夢を果たす学習者の数は少しずつ増えています。しかしながら、日本企業のカンボジア市場への進出はいまだ低調で、「日本語力を生かせる職場」は少なく、懸命に日本語を学んでも実利的なものに結びつかないのが現状です。カンボジアの日本語学習者が学習成果を活かし、就職の機会を得られるのは、いつのことでしょうか。「市場経済化促進のための人材開発」をめざすCJCC日本語コースとしては、早くその日が来ることを願うばかりです。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
カンボジア日本人材開発センター(CJCC)はカンボジアの市場経済化促進のため、必要とされる人材を育てることをめざし、ビジネス、日本語、相互交流の3コースがさまざまな事業を行う。日本語コース担当の日本語教育専門家は 1)日本語コースの企画・運営、カリキュラム・教材整備、2)教師の養成・支援、3)日本語に関わる翻訳・出版、4)その他イベント実施等を主な業務とする。
カンボジアでは2006年12月から日本語能力試験が実施された。受験者数は初回630人、2007年は721人と増えている。日本語学習者にとって、能力試験は学習動機を高める、よき目標になっている。
ロ.派遣先機関名称
Cambodia-Japan Cooperation Center
ハ.所在地 Blvd.Russia, Khan Tuol Kork, Phnom Penh, Cambodia
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名、指導助手:1名(~2008.7.)
ホ.アドバイザー派遣開始年 2004年

ページトップへ戻る