世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 正念場を迎える日本語学科

王立プノンペン大学外国語学部日本語学科
片桐準二

 正念場、踏ん張りどころといった言葉が毎日頭をかすめるのは、青雲志す学生たちと奮闘努力する教師たちに囲まれていることの裏返し。ゼロから始まったのだから、何でもしなければならないが、ここではそれが何でもできるという意味である。

学年が進むにつれて減る学生

2007-2008年度新入生(第3期生)奨学生クラスの写真
2007-2008年度新入生(第3期生)奨学生クラス

 2007年10月に3年目を迎えた。新入生86名、うち奨学生30名、一般学生56名。ほぼ過去2年と近い数の学生が集まった。この時点で学生数は3年生64名(うち、日本留学中3名)、2年生71名、1年生86名となったが、それから8か月経った今は、3年生61名、2年生64名、1年生75名になっている。順調にとも言いたくなるような数の減り具合、やはり学生というステータスの吹けば飛ぶような軽さに原因があろう。何の断りもなく消えていく学生もいるが、退学理由を残した者が告げる最も多い理由は「忙しくなったから」である。平行して通っている他の大学の方が忙しくなった、仕事が忙しくなった、始めたビジネスが忙しくなった、家業の手伝いが忙しくなった、結婚して忙しくなった、と忙しくなった理由はそれぞれだ。

期待に応えるための授業方針

 こうした環境で残っている学生たちは、それだけ経済的に余裕があり、かつ志が高いというわけである。そんな中で、3年生になると日本語能力試験2級近いレベルから3級が危うい者まで学生間の差が広がってきている。それでも、次世代リーダー育成が急務のため、授業は成績中間層をフォローしつつ、上位層向けに進められることが多い。このレベルになると、日本語そのものよりも扱う内容の方が難しくなる。思考力トレーニングの本などを併用し、言葉だけではない総合的な知的能力を伸ばすよう努めている。

現地教師育成状況

3年生一般午後クラス授業風景の写真
3年生 一般午後クラス 授業風景

 成績上位層の学生の日本語レベルがいよいよ教師たちのそれと拮抗してきた。まさにおしりに火がついた状態だ。何としても追い抜かれてはならない。教員室で漢字を練習したり、文法解説書に読み入ったりしているカンボジア人教員をしばしば見かけるようになった。ランチタイムに週3回開いている勉強会でも、もともとあまりノートを取る習慣がなかった教員たちが、それぞれ独自のノートに詳細なメモを書くようになった。当地で実施が始まって3回目となる今年12月の日本語能力試験を学生と一緒に受ける彼らは、その日を戦々恐々と迎えよう。しかし、その前の9月から正念場の4年目も始まる。誰が4年生に専門科目を教えるのか。夜明け前は最も暗いと囁きが聞こえる。日本語教育専門家には三面六臂の活躍が求められている。

学科運営システム

 日本語教育の仕事とほぼ同程度の時間を費やしているのが、学科事務の仕事。学部の事務員の守備範囲は限られていて、多くを教員が自らしなければならない。しなければ出席簿なしに新学期を迎え、いつどこで授業をしていいのかも分からなくなるのだから。中でも学期前の時間割作成は一つの大きな仕事。3年生までの日本語関連科目が16科目(1科目週2~5時間)、各学年が3クラスあり、会話や討論などの科目ではさらにクラスが分けられるため、現在1週間に142コマの授業がある。来年度からは20科目となり、クラス編成にもよるが週200コマ近くを開講する。
  この他に今年度、力を入れたのは期末試験運営のマニュアル作り。期末試験時間割作成、試験監督官の割り振り、教室確保に試験問題の印刷と管理、受験者リストの作成、試験監督の世話など、様々な仕事を管理運営しなければならない。試験監督そのものも含めこれらが全て教員の業務。学科をゼロから作り上げていくというのはこうした細かな事務作業のマニュアル化から始まるということでもある。今後必要とするマニュアル化作業には、名簿・成績管理、授業評価などがある。

カンボジア日本語教師会(略称CAJALTA)

 2005年11月から活動を始めたCAJALTAでは、今年の6月に第10回目となるセミナー・ワークショップを開催、会報『日本語教育』も第10号が発行。現在、会員数が約60名(昨年度の年会費納入者数より)。セミナー・ワークショップには非会員も含め毎回20~40名程度の参加がある。これまで扱ったテーマは『と・ば・たら・なら』『インフォメーションギャップのある教室活動』『記述文法の考え方』『読解指導法』『ピア・リーディング』『初級シラバス』『中級会話指導法とその評価』など。会報では「日本文学紹介」「文法解説」「教授法・指導法紹介」「教育機関紹介」その他の日本語・日本事情関連記事やCAJALTA活動報告を扱ってきた。今ではほとんどの業務を学科のカンボジア人教員が中心になって行っている。

卒業生ネットワークへの期待

 多くの懸念材料はあるものの、カンボジアで唯一の日本語教育専門機関から無事に卒業生が輩出されれば、カンボジア各地に卒業生ネットワークが築かれよう。このところ、地方に大学を創設する動きが散見され、そのうちアンコールワット遺跡のあるシュムリアップ州のアンコール大学や、西部のバンテアイミエンチェイ州のミエンチェイ大学で日本語学科やコースが生まれている。プノンペン大学は国際交流基金日本語教育ネットワークのメンバーともなっており、近いうちに国内ネットワークとの連携をも担うべく発展するであろう。まだ見ぬ卒業生だが、その衣鉢を継ぐ活躍を切に願ってやまない。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
王立プノンペン大学はカンボジアの国立高等教育機関の中で最大の総合大学である。日本語学科は2003年にカンボジア教育省の承認を得て設置され、2005年10月に開講した日本語・日本語教育を主専攻とする4年制の学士課程で、カンボジア全国から学生を集めている。2005年11月には、カンボジア日本語教師会の事務局が当日本語学科に設置され、会報の発行、セミナー・ワークショップ等の主催、他機関の教師への情報提供や教師間の交流促進にも努めている。
ロ.派遣先機関名称 王立プノンペン大学
Royal University of Phnom Penh
ハ.所在地 Department of Japanese, Institute of Foreign Languages, Royal University of Phnom Penh,
Russian Federation Boulevard, Phnom Penh, P.O.Box416, Cambodia
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
外国語学部日本語学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   専攻:2005年から
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2005年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤 10名(うち邦人5名)、非常勤 1名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   第1学年:75名、第2学年:64名、第3学年:61名
(2) 学習の主な動機 日本語教師志望、将来の留学・仕事のため
(3) 卒業後の主な進路 まだ卒業生なし
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
まだ分からないが、カリキュラム上は2級程度
(5) 日本への留学人数 長期3名、短期3名

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