世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) どこかで生かせる日本語を

カンボジア日本人材開発センター
石田 英明

「わーたーしーはー、 にーほーんごがー、 すーこーしできます。」

昼の中級日本語授業風景の写真
昼の中級日本語授業風景

 12時を過ぎる頃、昼休みの大学生たちが王立プノンペン大学の一角にあるカンボジア日本人材開発センター(以下、CJCC)へと次々に集まってくる。12時10分、各セミナールームでは日本語授業が始まり、そこここから学習者の一斉コーラスが響いてくる。1クラスは15~30人、他大学の学生の姿も見られる。学ぶまなざしは真剣そのものだ。複数の大学に在籍する学生も多く、宿題をやる時間の確保には苦労している様子だが、2年間の初級コースが修了するころには日常会話程度の日本語が話せるようになっていく。プノンペンではしっかりとした民間日本語学校がまだまだ少なく、CJCC日本語コースは高いレベルの日本語教育を提供できる公共施設として知られてきた。授業が終わる1時40分、学生たちはそれぞれの大学校舎に再び散っていき、センターは落ち着いた表情を取り戻す。

センターの取り組み

 CJCCは、カンボジアの市場経済化を促進し市場経済化を担う実務人材あるいは産業育成を担う人材を育成する、また日本とカンボジアの相互理解を深めるという目的で、カンボジア政府と日本政府の協力のもと2004年に設立されました。JICAプロジェクトとしてODA資金が投入されています。その中で、日本語コースはビジネスコースや相互交流コースとともに、カンボジアの若者の育成事業の一環を担っています。日本語学習は、カンボジアと日本との相互理解の手段を提供し、また日本への友好的な土壌を草の根レベルで育む大切な役割を果たしています。

 CJCC日本語コースでは初級から中級レベルまで継続して学習することができ、この3月からは定期コースを夜の時間帯にも開いています。一方、特別コースとして教師養成コースや短期の日本語能力試験対策コースのほか、新たにビジネス日本語コースやワーカーズのための簡単な日本語会話のコースなども始めました。これまで累計で1000名以上がコースで学び、現在約170名の学習者が在籍しています。

 またこれら授業のほか、児童書やみんなの日本語初級ⅠⅡの翻訳、日本語教育セミナーの実施、チャット-ク(日本語学習者と日本人とのセッショントーク)ほかイベント実施など、幅広い事業を行っています。日本語教育専門家は現地人スタッフと協力し、さまざまな学習者ニーズに応えるコース作りとその運営、改善とともに、日本語普及につながるイベントの実施に取り組んでいます。

カンボジア日本語教育の「いま」

 カンボジア全体では5000人を超える日本語学習者がいますが、当国にはまだ日本の漫画やアニメの文化が入ってきておらず、文化面の興味関心は日本語学習動機の中心ではありません。世界の有名ブランドとしての「日本」の言葉を勉強してみたい、将来きっとプラスになるだろう、というのが主な学習動機だと感じられます。つまり仕事、留学に集約されます。しかし日本企業・団体の進出はまだまだで、日本語学習が直接就職につながるわけではありません。プノンペンからバスで6時間のところにあるシェムリアップ地方には世界遺産「アンコールワット遺跡群」があり、訪れる日本人も多く「観光ガイド」の仕事があります。が、首都プノンペンの日本語学習者を引き込むほどの需要ではないようです。日本留学にしても、公費留学の枠は狭く、一方私費留学できるような豊かな学生はほとんどいません。夢を抱く日本語学習者には、つらい状況が横たわっています。

夜の初級日本語授業風景(S先生)の写真
夜の初級日本語授業風景(S先生)

 しかし、CJCCの教師陣は一人でも多くの学習者の夢を叶えるべく努力しています。中でも去年非常勤講師として働き始めたS先生は、CJCCでベーシックコースから勉強し教師養成コースを卒業して教師となった生粋のCJCC日本語教師です。昼のコース、夜のコースで活躍しています。

 夜7時すぎ、うす暗いセンターロビーとは対照的に、それぞれのセミナールームは授業の熱気に包まれている。中でも大人びたビジネス日本語コースの学習者たちは、中級以上まで学習した日本語をブラッシュアップするため、そして日本人ビジネスマンの考え方を学ぶために参加している。大学での勉強後、あるいは仕事の後の授業であるにもかかわらず、疲れを見せず明るい表情でタスクに挑む。カンボジアの発展を担う彼らが、日本との友好関係の要としても活躍できる日がいつかきっと来るだろう。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Cambodia-Japan Cooperation Center (CJCC)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
カンボジア日本人材開発センター(CJCC)は王立プノンペン大学の一機関。カンボジアの市場経済化促進のための人材育成を目的とし、JICAはその支援を2004年から実施している。センター事業の中心はHuman Resource Development (ビジネス)、日本語、相互交流の3コース。ここでの日本語教育専門家の業務は、1)コースの企画・運営・改善、2)各種イベント、3)その他の事業(翻訳・出版など)を現地職員主導で行えるよう支援することであり、それはカンボジア人日本語教師の育成・援助・ネットワーク形成支援にも繋がる。
所在地 Blvd. Confederation of Russia, Khan Tuol Kork, Phnom Penh, Cambodia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2004年

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