世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語学科の現在(2012年)

王立プノンペン大学
杉山 純子

1.日本語を学ぶ学生達

研究室大掃除の写真
研究室大掃除

 王立プノンペン大学(以下、RUPP)日本語学科では様々な学生が日本語を学んでいます。日本語学科は午前、午後、夜の3部制で、働きながら学ぶ社会人や、他の大学でIT、経営学、会計学などを学びながら日本語も勉強するというダブル・スクールの学生もいます。

 素直で心やさしい学生が多く、いろいろなことに協力してくれます。たとえば、通常は大学で学生が掃除をするということはないのですが、日本語学科の学生は研究室(図書室)の大掃除や教室の拭き掃除を積極的に手伝ってくれます。

2.多彩な開講科目 

 1年生から3年生までは日本語科目が主ですが、4年生になると、学生達は教育専攻とビジネス専攻に分かれ、それぞれの専門分野を学びます。例えば、教育専攻には応用言語学、教授法、教材研究、教材作成、日本学研究、教育実習などの科目があり、ビジネス専攻には観光日本語、実務翻訳、日本経済、企業研修などの科目があります。また、両専攻の共通科目として、アカデミック・ジャパニーズ、日本文学が必修科目となっています。

 昨年に引き続き、日本学研究の授業では外部からお招きした講師(日本人およびカンボジア人)による日本語での特別講義を実施しています。様々な分野で活躍されている専門家の話を生の日本語で聞き、ディスカッションを行うという貴重な時間となっています。

3.卒業論文

 4年生が最も力を注がなければならないのが日本語で書く卒業論文です。教育専攻の学生は日本語や日本語教育に関連したテーマを選びます。ビジネス専攻の学生はカンボジアの文化、社会、経済をテーマに卒論を書いています。学生達は、論文の形式、調査の方法などを基礎から学び、クラスメートとアイデアを交換しながら、卒論を書き進め、ときどき進捗状況を報告し合っています。進捗状況報告会でのクラスメートからのコメントやアドバイスは論文を進める上で、貴重なものとなっています。学生達は論文を書くことの難しさを実感しつつ、卒論完成が近づくにつれ、苦しみの後の喜びも味わっているようです。

4.自律学習

新聞プロジェクトの写真
新聞プロジェクト

 学科内では二つの自律学習支援活動を行っています。一つ目は、2年生と3年生の希望者を対象にした読解コンテスト「読解ラン」です。主として、最新の新聞記事やエッセイなどの生教材から読解問題を作成しました。学生達には精読ではなく速読を促していますが、「日本語能力試験の役に立つ」「内容が面白い」と概ね好評です。

 二つ目は「自分の話す力を知りたい」「日本人と話したい」という学生のために始めた「日本語学科ミニOPI」です。これも授業外の活動で、希望者だけを対象にしています。

 また、通常の授業内に新聞プロジェクトやラジオドラマ作成など、多技能統合型のグループ活動も取り入れています。このような活動も自律学習促進の一助になっています。

5.渡日および就職状況

 在学中に日研生や交換留学生として渡日する学生は毎年4~5名です。その他に、国際交流基金関西国際センターの研修プログラム、JALインターンシップ・プログラム、ジャパン・スタディー・ツアー、堺市国際交流プログラム、佐賀大学国際交流プログラムなど、様々な短期研修プログラムにより日本を訪問する学生の数が増えました。研修参加者の話を聞いた他の学生達も渡日を夢ではなく現実のものとして受け止めるようになりました。

 日本語学科は今年第4期目の卒業生を送り出す予定です。このところ日系企業が続々とカンボジアに進出するようになり、求人も飛躍的に増えています。卒業生の就職率はきわめて高く、日本語学習者にとってはありがたい状況であると言えるでしょう。

6.拠点としての役割

 RUPPはカンボジアの日本語教育の拠点として様々な活動を行っています。まず、カンボジア日本語教師会セミナーを年に4回開催し、会報も発行しています。また、カンボジア日本人材開発センター(CJCC)との共催により、カンボジア日本語スピーチ・コンテストを実施しています。

 さらに、2011年には「さくら日本語・日本文化普及キャラバン」を実施しました。キャラバンは、他機関の教師や在留邦人や学生の協力を得て、各地の高校を訪問し、日本語や日本文化を紹介するという活動です。今年も地方巡回を行い、13校の高校を訪問する予定です。

7.専門家の役割

 専門家の役割は日本語学科の学生指導だけではありません。日本語学科教師勉強会、日本語学科弁論大会、カンボジア日本語教師会セミナー、国際日本語教育セミナー、さくら日本語・日本文化普及キャラバンなどの企画・実施のための支援を行い、また、アンコールワット日本語教師会セミナーの講師、アンコールワット日本語コンクール審査員なども引き受けています。このように専門家の仕事範囲は日本学科内だけではなく、日本語学科外にも及びますが、体力と気力の保持に努めつつ、現地の先生方の協力を得て、ひとつひとつ仕事をこなしていくことが大切だと思っています。

What We Do事業内容を知る