世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)現れよ!優秀な広報マン!!

王立プノンペン大学
本橋啓子

日本語学科校舎の写真
日本語学科校舎

2005年10月17日に開講した王立プノンペン大学(以下、大学)外国語学部日本語学科(以下、学科)は、今年の秋、開講10周年を迎えます。

10周年を迎える今年、学科に大きな変化がありました。それは、開講科目の変更と卒業論文の執筆要領の変更です。

つばさ橋の完成

2015年4月、日本の無償資金協力により建設された「つばさ橋」が完成しました。この橋はメコン川で隔たれたカンボジアの両岸を結ぶにとどまらず、インドシナ半島の南部経済回廊の一部となり、ベトナムやタイとも結ばれています。

このように、カンボジアでは日本は「カンボジアを支援してくれる国」として知られていますが、一般の人々の認識はそこで止まっています。これは、日本語を主専攻としている学科の学生についてもあまり変わりません。世界で評判の日本のアニメやマンガも、他の東南アジアの国々と比べるとほとんど知られていません。村上春樹の名前を知っている学生にも会ったことがありません。学生に日本や日本人について聞くと、「カンボジアを支援してくれる国」という以外には「時間を守る人々」という答えしか出てきません。学科の学生たちには、日本とカンボジアの架け橋になってほしいのはもちろんですが、それだけではなく、一般のカンボジア人に、日本や日本人を紹介する広報マンにもなってほしいと思います。

優秀な広報マンの育成

それには、まず学生に日本や日本人について知ってもらわなければなりません。そこで、大学が新学長を迎え、次々に改革を進行させていくのにあわせ、学科も開講科目を見直しました。優秀な広報マンになってもらうためには、まず学生に日本のことを知ってもらう必要があります。そのために、今まで日本語中心だった開講科目を見直し、日本学の要素を取り入れることにしました。今年度から、3年生で「日本史」と「日本文学史」、4年生で「日本社会(政治・経済)」、「時事日本語」を開講しました。そして4年生の「日本文学」は、今までは1学期だけでしたが、2学期も開講することにしました。

第4回日本語学科弁論大会の写真
第4回日本語学科弁論大会

効果はてきめん、今年の学科の弁論大会では、日本国憲法第9条に関する弁論をした4年生や、弁論後の質疑応答で「縄文時代に興味がある」という回答をした3年生が現れました。

グローバル社会と言われる現在ですが、学生は新しい開講科目を通して、日本や日本人の特質を感じ取ってくれているようです。

日本についての情報の発信

学科には4年次に「日本研究」という科目があります。これは、あるテーマについて調べ、卒業論文(以下、論文)を書くというものです。昨年度までは執筆言語が日本語と決まっていましたので、カンボジアに関することを調べ、それを日本語で書くという学生が半数以上でした。

しかし、昨年度までの方法ですと、執筆言語が日本語なので、カンボジア人教師にとっては表現指導が難しく、書いた本人以外の学生にとっては、同級生の論文の日本語が難しくて読めない、などの欠点がありました。また、日本人教師にとっても、テーマがカンボジアについてでしたので書かれている内容が十分理解できないという問題がありました。そこで、今年度から調べるテーマは日本に関すること、執筆言語はクメール語(カンボジア語)と変更しました。

この結果、論文ができあがれば、下級生や一般のカンボジア人も読むことができるようになり、日本について、カンボジア人に広く知ってもらうことができます。今年度のテーマには「山手線」(カンボジアには現在電車がありません!)、「おにぎり」(もちろんカンボジアにはありません!)など、カンボジア人が読んだらおもしろそうなテーマがたくさんあります。よい論文ができたら大学から出版してもらおう、「日本語日本文化普及キャラバン」(事業の詳細は2011年度のレポートをご覧ください)に持って行って高校生にも読んでもらおう、などと夢はふくらむばかりです。

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