世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)カンボジア・日本語スピーチコンテスト

王立プノンペン大学
立花秀正

コンテストの概要

プノンペンは11月ごろから乾季になり、朝晩はエアコンがなくても涼しい日々が続くが、3月ごろからまた暑くなり始める。その頃、コンテストの準備が始まる。2018年の「第21回コンテスト」の場合、原稿の募集は2月5日(月曜日)~3月2日(金曜日)である。原稿審査、電話インタビューを経て、出場者が決定し、コンテストは5月27日(日曜日)に行われる。

共催は「在カンボジア日本国大使館」「カンボジア日本人材開発センター(CJCC)」「王立プノンペン大学」の三者である。特に、中心になって準備に当たっているCJCCの関係者の皆様のご尽力に感謝している。コンテストは第1部と第2部に分かれている。第1部は「応募の時点で日本へ行ったことがない人」、第2部は「日本へ行ったことがある人(※旅行など短期の滞在も含む)」となっている。第1部の優勝者には「訪日研修」が贈られる。

コンテスト会場の写真
会場風景

原稿審査は下記のように厳密に行われる。

  • (1)原稿は氏名、所属機関の部分を切り取って、審査員に渡される。
  • (2)原稿には個人、所属機関等々がわかる記述をしてはいけない。
  • (3)応募者がいる機関の教員は自分の学生の原稿は審査しない。
  • (4)一つの原稿を異なった機関の複数名の審査員が読んで、点数をつける。
  • (5)上記複数名の審査員の合計点数の上位者から並べる。
  • (6)上記の者について、過去の日本への渡航記録、コンテストの入賞記録を確認する。
  • (7)候補となった者へ二次審査として電話インタビューを行う。

このようにスピーチの水準を上げることに加え、公平な審査になるよう工夫している。

上記の手順を経て、出場者第1部10名、第2部5名が決定する。
スピーチの時間は「4分以上5分以内」となっている。コンテストの時も出場者がいる機関の関係者は審査員にならず、公平を保つようにしている。入賞者は第1部3名、第2部2名である。

コンテストの課題

応募者数が低迷しているという現状がある。カンボジアで日本語専攻がある大学は王立プノンペン大学と王立法律経済大学の2校である。したがって、他の日本語教育機関と比べ、この2校の学生の日本語力が僅かながら勝っているのは否めない。その結果、他の日本語教育機関の学生の中に「応募してもどうせ選ばれない」という雰囲気が幾分かあるようである。 

カンボジア・日本語スピーチコンテスト参加者数・機関数の推移

  2014年
(第17回)
2015年
(第18回)
2016年
(第19回)
2017年
(第20回)
2018年
(第21回)
第1部 235 138 93 61 77
第2部 35 38 24 15 20
合計 270 176 117 76 97
参加機関数 9 10 7 12

これを払拭するためにどうしたらいいか検討もした。初級の学習者でも参加できる「朗読部門」の新設も案として出たが、原稿審査に相当する「予備審査」をどうするかが問題となった。応募してきたすべての音声データを聞いて、判断する時間も人員もないことから、2018年での導入は見送られた。しかし、現在よりもよりよいものにするため、今後も、引き続き検討していく予定である。

弁論大会に対する所見

私はこれまで、マレーシアのマラヤ大学日本留学特別コースで6年、ラオス国立大学で3年、弁論大会に関わってきた。これまでの経験から学習者が弁論大会に参加することに大賛成である。弁論大会でいい成績を収めることができれば、勿論それに越したことはないが、それは二の次である。

これまで、弁論大会に出場する多くの学生を指導して、色々なことが分かった。

  • (1)普段の授業中だけでは知りえない学生の新たな一面を発見することができる。授業の時にはほとんど発言をしない学生が、スピーチ原稿を見て練習するときには、これまでなかったほど生き生きとして、話すのを見て驚いた。
  • (2)弁論大会に参加した後、活発に話すようになり、非常に明るくなった学生が多い。
  • (3)スピーチの練習をする時間が長くなるにつれて、学生の色々な面を発見し、その学生のことがもっと理解できるようになる。

スピーチの指導は多くの時間がかかり、根気も必要である。毎日の業務も決して少なくない。その上でのスピーチの指導となると、疲れることもある。しかし、学生の話す力が伸びていくのを目の当たりにできるのは教師冥利に尽きる。これからも力を注いでいくつもりである。

2017年の「第20回コンテスト」では弊学科の出場者は第1部2名、第2部2名、合計4名と少数であったが、第1部で優勝と第2位、第2部で優勝という成績を収めることができた。第1部と第2部の両方で優勝したのは初めてのことである。時間をかけて練習した甲斐があった。

優勝者2名の写真
第1部と第2部の優勝者

間もなく2018年のコンテストが開かれるが、弊学科の学生は勿論、全出場者のスピーチを聞くのを楽しみにしている。

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