世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ジャカルタ日本語センターから(2002)

ジャカルタ日本語センターから

国際交流基金ジャカルタ日本語センター
藤長かおる、小林佳代子、亀田美保、松尾慎

観光専門高校スキットコンテストの写真
観光専門高校スキットコンテスト

 インドネシアの日本語学習者人口は約5万4000人(1998年国際交流基金日本語国際センター「日本語教育機関調査」)、世界で6番目に日本語を学ぶ人の多い国である。このインドネシアの日本語教育支援のためにできたのがジャカルタ日本語センター(1991年開所)で、現在4人の日本語教育専門家が勤務している。業務は、全インドネシアの中等教育支援とジャカルタを中心とする首都圏地区(ジャボタベック地区)支援に大別されるが、内容は日本語講座の運営、研修・セミナーの実施、カリキュラム・教材開発、学会等ネットワーク支援、ニュースレターの発行等、多岐にわたっている。

高校の先生方とともに

 インドネシアの日本語学習者の3分の2は高校生だ。これは高校で日本語が第二外国語のひとつになっているためだが、彼らに日本語を教えるのはインドネシア人日本語教師の仕事、そして300人以上もいる先生方を支援するのがセンターの大切な役割のひとつである。「日本語の教え方を習ったことがない」「教材の使い方がわからない」「日本語が上手に話せない」と教師の悩みはさまざまだ。ジャカルタ日本語センターが国家教育省(日本の文部科学省に当たる)と共催で実施している教師研修は年に3~4回、研修では朝7時半から夕方5時半まで暑い教室での授業が泊まりがけで2週間続く。教える方も教わる方も汗だくだ。スマトラ、バリ、マラン、マナド等々、研修地に向かって、ハンドアウトと教材で一杯のスーツケースを持って飛行機に乗る。先生方の声に耳を傾け、明日の授業への布石となる研修をこれからも行っていきたい。(藤長)

専門高校の教材開発

 専門高校(職業高校)では、1999年にカリキュラムが改訂され、現在当センターと国家教育省との共同プロジェクトとして、カリキュラム準拠教材の開発が行われている。対象は選択必修科目として日本語が履修されている観光サービス業務専攻日本語クラスである。今年から、開発中の教材を使用した「スキットコンテスト」が始まった。生徒たちは旅行社の窓口業務員や観光客に扮し、ロールプレイを行う。観光客役は今風の若者に扮する者あり、なぜかゆかた姿の者ありと生徒たちの日本人の印象をかいま見るようであった。このコンテストを見て、作った教材が現場で生かされている様子を知ることができ非常にうれしく思うと同時に、よい教材を作っていきたいと気持ちを新たにした。来年もまた再来年も学習の成果を披露できるこのコンテストが続いていくことを願ってやまない。(小林)

地域支援業務

 ジャカルタ日本語センターでは、センターの業務の一環として2001年より首都圏地域の日本語教育(中等教育を除く)を重点的に支援する「地域支援業務」を開始した。この地域はジャカルタとその郊外のボゴール、タンゲラン、ブカシをまとめて、ジャボタベックと呼ばれる。主な業務内容はセンター内での日本語講座(一般向け、日本語教師向け)の常設、教師研修やセミナーの開催、定期訪問(主に地域内11大学)によるコンサルティング、地域の学会・教師会への活動協力などがある。

 このような支援活動を通して、我々も多くの情報を得、現地の教育事情について学ぶことができる。中でも、定期訪問(各校月1回程度)は、センター内に留まっていては聞けない先生方の生の声が聞ける貴重な機会である。様々な人やグループとのつながりの上に、センターがセンターとして機能する環境が整えられる。つながりを大切にし、現地のニーズに支えられた支援活動を行っていきたいと思う。(亀田)

日本語学習者に対する直接支援

 一般日本語講座の入試申し込みには、毎年、受付時間前から長い列ができる。さらに、厳しい入学試験に合格した学習者のみが入学できる講座、それがジャカルタ日本文化センターの日本語講座である。学習者は、会社員、学生、日本語教師、主婦と様々で、ディスカッションではそれぞれの個性を活かした意見が飛び交う。講座修了式に修了生代表が涙を流しながら「残業で遅刻しても、疲れていても最後まで続けて勉強できたのは、ここで学べることを誇りに思っていたからです」とスピーチした姿が忘れられない。彼らの誇りに応える授業をするべく、頭を悩ましながらもやりがいを感じる毎日である。(松尾)


首都ジャカルタの高校で日本語を教える

国際交流基金ジャカルタ日本語センター
篠山 美智子

1.ジャカルタ周辺地域の高校での日本語教育

1-1.専門高校(SMK)での日本語教育

ジャカルタ周辺地区高校日本語大会の写真
ジャカルタ周辺地区高校日本語大会

 首都ジャカルタ周辺地域の中等教育レベルの日本語教育の特徴としては、専門高校での日本語教育が、他の地域と比べて特に盛んなことが挙げられる。これは、ジャカルタが首都であり、日本人観光客や駐在員などが多いという事情によるものであろう。

 99年の専門高校観光部門観光サービス業務専攻(UJP)のカリキュラムでは、第2外国語の選択必修科目として2年生,3年生で日本語を履修することが出来る。また課外授業として1年生から日本語を履修できる学校もある。

 観光サービス業務における日本語教育の特徴は、「観光業務で使える日本語」に目的が絞られていることである。ひらがな、カタカナについては、単語レベルで認識できるレベルで3年次に学習することになっているが、普段はローマ字表記で教えられている。また日本語自体も旅行会社の社員やガイドとお客さんの会話に焦点がおかれ、実際に仕事で使える日本語の習得を目標としている。

 2002年3月には、初めて国家教育省主催の「専門高校スキット・プレイ・コンテスト」が行われ、今後も学習者のよい動機付けとなることが期待される。

1-2.普通高校(SMU)での日本語教育

 普通高校での日本語教育も熱心に行われている。2002/2003年度から新カリキュラムが試行される予定であるが、現行の94年カリキュラムでは、第2外国語の選択必修科目として、3年次に語学系で履修が可能となっている。その他課外授業としても多くの学校で日本語が教えられている。

 2001年からは高校生向けの日本語弁論大会が行われており、日本語学習の1つの動機付けとなっている。また同地域の普通高校教師会の主催により、2001年から日本語大会が行われている。同日本語大会は習字の部、朗読の部、クイズの部に分かれており、多数の高校が参加している。

2.ジャカルタ周辺地域での青年日本語教師(SNK)の活動

2-1.現場での指導

専門高校で日本語を教えるインドネシアの先生の写真
専門高校で日本語を教えるインドネシアの先生

 青年日本語教師の活動の要となっているのは、配属校での活動である。同地域では、青年日本語教師派遣開始当初は普通高校へ青年日本語教師が配属されていたが、2000/2001年度から専門高校へも配属されている。

 配属校では、日本語担当教諭に対する助言が主な仕事である。青年日本語教師自身も授業を行うが、先生の参考になるようにとの考えからである。とはいえ、青年日本語教師が教諭や生徒から学ぶこともまた多い。また、お互いの授業は必ず見学することにしており、青年日本語教師が教諭の休みに代わりに授業をするというようなことはない。

 配属校の生徒は皆熱心で、暗記が得意なようである。長い会話もきちんと覚えて会話が出来る。ただ、日本人と直接会って話す、日本人の習慣を見る、日本文化について学ぶ、といった機会がほとんどないのが残念である。

 また、配属校以外の学校には、学校訪問という形で訪問し、情報収集や教師への助言を行っている。

2-2.教師研修等

 青年日本語教師は、教育省との共催等で行われる教師研修にも一部出講している。私自身の1年目の活動を例にあげると、2002年1月に各地域のインストラクター(教育省語学教員研修所では、指導者養成を目指した研修の機会を教師に与え、最終的にインストラクターの資格を与える)育成のための「インストラクター研修」が行われ、モデル授業などを担当した。また、同年3月には普通高校日本語教師研修にて日本語演習を担当した。

 また、教材開発にも携わっている。現在行われているのは専門高校の教科書作成である。これは、派遣専門家、インドネシア人専任講師、インドネシア人高校日本語教諭等がグループ作業などにより共同で作成しているものである。教科書は2005年の出版を目標としている。

3.まとめ

 同地域の青年日本語教師の業務は、上記の業務以外にも、センターで行われる行事の手伝いなどもあり、かなり多岐に渡っている。業務に追われて余裕がないのが悩みの種であるが、一方いろいろな仕事に携われるというのは非常に勉強になり、やりがいともなっている。

 いろいろなことが、システム的にスムーズにはいかないインドネシアだが、やる気のある現場の先生や、いつも熱心に日本語を勉強している生徒を見ると、本当に元気づけられる。それがこの国で日本語を教える上で一番のやりがい、また動機付けとなっている気がする。

 今後は、青年日本語教師の醍醐味でもある「現場」での教師支援に益々力を入れて、同地域の日本語教育支援に貢献していきたいと考えている。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 国際交流基金ジャカルタ日本語センターは、インドネシア各地に派遣されている専門家、青年日本語教師、及びインドネシアの各機関と連携をとりながら、インドネシアの日本語教育に対する支援をしている。中等教育レベルでは、国家教育省と協力し、教師研修会の実施、教科書・教材開発、カリキュラム・シラバスの開発、配属校でのティームティーチング等を行っている。高等教育レベル、民間レベルの日本語教育に対しては、教師研修やセミナーを実施している。また、中・上級者向け一般日本語講座、教師向け日本語講座を運営している。ニューズレター:『EGAO』発行。
ロ.派遣先機関名称 国際交流基金ジャカルタ日本語センター
The Japan Foundation Jakarta Language Center
ハ.所在地 Lantai 2-3, Summitmas I, Jl.Jend.Sudirman Kav. 61-62, Jakarta 12190, Indonesia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家4名、青年教師1名

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