世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語に将来の夢を描く学生たち ―ジョグジャカルタ特別州・中部ジャワ州の高等教育における日本語教育の現状―

ガジャマダ大学/中部ジャワ州地域派遣
津留紀子

1. 日本に対する熱い関心

訪問先の大学の先生たちと研究室(講師室)での写真
訪問先の大学の先生たちと
研究室(講師室)で

 経済危機、政治不安が続くイスラムの国。日本人からは世界が違うと思われがちなインドネシアであるが、インドネシアの人々の日本に対する関心は意外なほどに大きい。今やインドネシア人の日常生活には、アニメ、テレビドラマ、歌、日本食、若者文化など、日本の情報がそこここに浸透している。日本の経済は斜陽でも、彼らにとって日本は相変わらず憧れの国のひとつであるようだ。そして何より同じアジアの国としてたいへん親近感を持っている。今回のサッカーのワールド・カップでの人々の日本チームへの肩入れの仕方、中田選手などに対する熱いひいきぶりなどは、ほほえましくそれを語っている。

2. 熱心に勉強する学生たち

 大学をはじめ、高校、語学学校などで日本語は最も人気の高い外国語の一つである。日本語が就職やビジネスに直結することがそれほど多いとは思われないが、学生たちは皆意欲満々で、楽しそうに日本語を勉強している。

 日本語を専攻する大学生たちは、普段日本語を使う機会がない環境にありながら、日本語・日本研究ができるような高い日本語能力を身につけることをめざして、熱心に取り組んでいる。作文の授業などで、日本語を通して時おり学生たちが見せる才能のきらめきは、日本語の能力はもちろん、外国語学習を通して、彼らが言語能力以上の可能性を培っていることを教えてくれる。

3. ジョグジャカルタ・中部ジャワの13大学で日本語が教えられている

 西のジャカルタ、東のスラバヤという大都市にはさまれたジョグジャカルタ特別州・中部ジャワ州であるが、現在13もの高等教育機関で日本語が教えられている。昨年日本語コースを開講した大学が一つ、また、今年9月からさらに一つの大学が新しく開講することになっており、この地域での日本語学習熱は今も高いと言える。

4. ガジャマダ大学文学部日本語日本文学科

 ガジャマダ大学は、芸術と歴史の町として名高いジョグジャカルタにある。一方で、この町は学生の人口が土地の人の人口より多いと言われるほど大学の数が多い「教育の町」でもある。

 国立ガジャマダ大学は、1949年に創立されたインドネシアで最も古い大学で、理系・文系合わせて18学部を有する総合大学である。学生数約4万人、講師数約2千人と言われ、大学院、各種研究施設を持ち、中部ジャワ地域の高等教育の中心的役割を担っている。

 ガジャマダ大学文学部日本語日本文学プログラムは、1989年に開講した、中部ジャワにおける唯一の日本語日本文学専攻のS1(4年制)コースで、後発の周辺大学の日本語学科のモデルとして指導的な立場にある。

5. 派遣専門家のたずさわる仕事

 派遣専門家は1989年の当学科の開講以来、継続して派遣されている。しかし、ガジャマダ大学の専任講師としての派遣形態が変更になり、2001年からはジョグジャカルタ特別州・中部ジャワ州の地域派遣専門家として活動を行っている。

 業務の内容は、おもに次のようなものである。

  1. 1.ガジャマダ大学で授業を担当する
  2. 2.地域内大学教師に対して教授法等の指導をする
  3. 3.地域内大学の日本語科目の教授内容(カリキュラム・デザイン)についてアドバイスする
  4. 4.地域内大学の教師対象の研修を担当する
  5. 5.地域内大学のネットワーク作りを支援する
  6. 6.地域内の日本語教育機関、日本語教育事情を調査する

 実際の活動は、週3日はガジャマダ大学で学生たちを教え、先生方と一緒に授業に入って指導・アドバイスをし、あとの3日は他大学の訪問、コンサルティング、教師研修会の実施、業務報告の作成などを行っている。

 学生の教育と教師への指導・サポートの両方を行うので、地域派遣の専門家は多忙をきわめるが、日本語教師としての大きな仕事であるこの二つをともに経験できるのは、自分自身にとってもチャレンジであり、やりがいがある。

6. 中部ジャワの日本語教育の悩み

 中部ジャワにおける日本語教育の歴史はまだ浅い。現在の問題は、学習者の需要の高まりに応じて、まず、カリキュラムの質を改善し、教師の教授能力・技術を向上させることである。このことは、即、学生の到達能力につながる。2002年からインドネシアの大学は順次独立法人化することになっているが、その点からも、今後各大学の教育の質の向上は最も重要な課題となるであろう。

 もう一つの大きな課題は、学科の自立化、カリキュラムの改善や教師研修において自主的に行動する意識が育つことである。ガジャマダ大学の場合、国際交流基金の援助が入って今年で14年目であるが、講師の派遣、教材・機材の贈与、日本語教師研修の実施、日本語弁論大会地方予選の開催など援助がなされることが普通の状態になってしまい、自立することへの意識が薄れているようだ。資金的にはある程度援助を受けるとしても、学科のカリキュラム内容の改善や教師の研鑚など運営面おいては、自主的に行動を起こせる時期に来ていると考える。

7. 教師のネットワーク作りの新しい動き

 1999年5月に全国規模の「インドネシア教育学会」が発足したが、今年3月からインドネシア教育学会ジョグジャカルタ・中部ジャワ支部の独自の活動として、教師のための「日本語教育研究会」を始めた。まずは派遣専門家が中心になって企画し、インドネシア人講師の発表を交えながら、これまでに5回の小セミナーを行った。今後学会支部メンバーの企画による自主的な活動が盛んになることが期待される。

8. 学生たちの将来と教育の質の向上

 学生たちはなぜこんなにも熱心に日本語を勉強するのか。それは、なおも厳しい社会情勢の中で、日本語に、より意味ある人生を作るという将来の夢をかけているからではないだろうか。

 インドネシアの教育の質は、先進諸国にはまだ遠く及ばないことはインドネシア人たちも認識している。将来に向けてこの国をより豊かにしていくために、人材の育成、そのための教育の質の向上は彼らにとっても優先すべき課題である。

 私たち日本語教育専門家の仕事は、日本語教育の質の向上に対する意識を高め、改善しようと行動を始めた人たちに対してその支援、後押しをすることであると考えている。私たちが関わることができるのはほんの一面でしかないが、この活動が学生たちの、また先生方の、より意味のある将来の人生の実現にわずかばかりでもつながっていってくれればと願いつつ、日々がんばっている。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 ガジャマダ大学は、中部ジャワ地域においてS1(4年制)の日本語専攻プログラムを持つ唯一の大学として、当地域の日本語教育の中心的な役割を担っている。インドネシア日本語教育学会中部ジャワ支部の事務局も同学科におかれて、専門家が中心となって研究会を開催する。専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地若手講師の育成の他、地域派遣専門家として周辺大学、各地域の勉強会の開催、コンサルティング業務を行う。
ロ.派遣先機関名称 国立ガジャマダ大学
Gadjah Mada University
ハ.所在地 Bulaksumur Yogyakarta, Indonesia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
文学部 日本語日本文学プログラム
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1987年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1989年
(ロ)コース種別
専攻―S1(4年制)コース、D3(3年制)コース
(ハ)現地教授スタッフ
常勤6名(うち邦人0名。1名留学中)
非常勤7名(うち邦人2名。1名留学中)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   各学年約25名程度
(2) 学習の主な動機 留学、日系企業就職、日本文化への興味、日本語教育機関への就職、日本研究
(3) 卒業後の主な進路 日本語に関連のある企業、一般の企業、日本語教師など
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級程度、
1級に合格する者2、3名
(5) 日本への留学人数 長期、短期各2、3名

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