世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) バリの1年

バリ州地域派遣
白頭宏美

 インドネシアのバリ州に青年日本語教師として赴任してから1年がたつ。

 インドネシアの青年日本語教師の業務は多岐に渡っており、一言で表現するのは難しいが、役割は大きく分けると3つになるであろう。

  1. 1.配属校勤務―現地日本語教師の指導
  2. 2.地域日本語教師の支援-勉強会や研修の参加
  3. 3.学校訪問―地域の高校を巡回しながらの教師指導

 赴任当時は、自分に求められているものが何なのかなかなか把握しかねていたが、今は一言、「教師指導」である。ここでする全ての業務は、どのように現地教員の役に立つかということを視点において進められる。そして、青年教師に一任されている業務が多い。その分、迷うこともあるが、やり遂げたときの達成感も大きい。 以下にそれぞれの業務について具体的に述べてみよう。

1. 配属校勤務

 配属校は私の場合2校ある。どちらも週1日ずつの勤務である。実際の日本語授業は週3~4日(9コマ:40分×9)あるので、そのうちの1日だけ私は生徒と顔を合わせることになる。勤務日には、隔週で現地教員と授業を担当する。ということは、私が授業をするのは2週間に1度である。ただ、現地教員が授業する際は、授業の見学を通してその教師に何が足りないか、どのようにサポートを続けるべきか考え適切なアドバイスをしなければならない。また、自分が授業をする際は青年教師の授業を見て現地教員が参考にできるように、常に現地教員のモデルとなるような授業を試みる。毎回現地教員の前で模擬授業をしているようなもので、なかなか緊張感がある。

 バリ州の高校日本語教師のほとんどは、教育大学で他教科を選択し、日本語は高校教師をしながら民間日本語学校で3ヶ月から1年学んだ程度である。日本語の教壇にたつべき知識が不十分な教師も少なくない。日本語力の不足はもちろん、教授法の知識については学ぶ機会がないためである。今年度の配属校教師はこれまでバリ州の普通高校教員研修参加の経験もあったため、教授法についてまったく知識がないということはなかったが、やはり日本語の面でも教授法の面でも指摘すべき点は多かった。この1年間の配属校教師への指導は、1学期、1課ごとの授業計画のたてかたから、教案指導、授業での文型の練習方法、応用練習の方法まで、多岐に及んだ。それにしても現地教員の熱心さには毎回頭のさがる思いであった。日本語の間違いについても授業の内容に対する私からのコメントも非常に快く受け入れてくださり、毎回の授業でそれを生かそうとしている。10程も年下の私のコメントをである。将来私も他者の意見を謙虚に受けとめる姿勢を忘れないようにありたい。

 また、配属校勤務は高校の生徒たちにネイティブ教師の授業を与えるという機会でもある。今年度配属校の生徒たちは大変真面目で素直な生徒たちで、授業はとてもやりやすかった。1クラス35~43人という大人数クラスだったが、コーラスは大声で、ペア練習も積極的、授業中は全員が教師の方をまっすぐに見つめている。教師指導というとどうしても教師との1対1の関係になってしまいがちだが、その間に大勢の元気な生徒たちがいることにいつも気付かされ、そしてそのおかげで私も毎回元気に授業ができた。

2. 高校教師会支援

 バリ州の高校日本語教師会は、日本語教育の盛んな土地柄からか他地域よりも歴史が長く、また会長を中心に活発に活動が行なわれている。月に1度の連絡会兼勉強会があり、私は要請に従って勉強会で講師役を務める。2001・2002年の勉強会では高校の日本語シラバスで扱う文法項目と表現、漢字を中心に進められた。毎回会長に指名された現地教員が文法項目について発表し、私は表現と漢字について教えるときに注意したほうがよさそうなものをときには講義形式で、ときにはワークショップ形式で行なった。1.でも触れたようにバリ州の日本語教師は日本語の学習経験に乏しい。それが理由かどうかはわからないが、日本語をもっと勉強したいという教師は多く、勉強会では毎回活発に質問があがり、日本語力の高い教師がそれに答えるという雰囲気ができあがっている。6月から始まる2002・2003年の勉強会では教授法を中心に進められる。今後も現地教員の期待に応えられるように勉強会のサポートを続けて行きたい。

3. 学校訪問

 バリ州はインドネシアの中でも小さい方の州である。しかし、日本語を教えている高校の数はもっとも多く、2001・2002年の私の調査では92校もの高校があった。この全てが担当範囲となるが、配属校の勤務日以外の曜日を学校訪問にあて、また学校行事などで授業の休みも多いため、この1年で訪問した高校は全部で42校であった。2年かけてようやく全部まわれる計算である。訪問校では、その高校の日本語教師の授業を見学し、さらに青年教師が模擬授業をすることを通して、授業をする上でのアドバイスをする。配属校での業務を1日に凝縮して行なう形だが、どうしても1回の訪問でできることは限られてしまう。学校訪問を少しでも効果のあるものにすることが今後の課題である。

 この他にも2002年7月にはバリ州で高校日本語教員研修(インドネシア教育省と国際交流基金ジャカルタ日本語センター共催)が予定されている。2週間の研修では「日本語演習」の部分で1週間講師として出講したり、他の講義のサポートをする役目がある。2年目初めての大仕事である。緊張もするが、普段から接しているバリの陽気な先生方の研修は楽しみでもある。気を引き締め、今後の2年目の業務につなげていきたい。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
 バリ州における青年日本語教師の派遣開始年は1996年。2001年度の青年教師は、配属校のスマラプラ第1、第2国立普通高校の3年生語学系日本語クラスで、インドネシア人日本語教師への技術移転を主眼に、日本語教育に関する指導を行う。バリ州には教育大学や4年生大学に日本語専門課程がないので、高校日本語教師の多くは、専門が日本語以外であり、独学で勉強した教師が多いため、彼らを対象にした「初級日本語勉強会」を青年日本語教師が開催している。また、勉強会を兼ねた高校日本語教師会(MGMP)の活動に対する支援を行い、教師間のネットワーク構築の支援活動を行う。他には、月に3~10回程度の学校訪問を行う。
ロ.派遣先機関名称 バリ州
ハ.国際交流基金派遣者数 青年教師:1名

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