世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)スラウェシ島の真の拠点校を目指して

マナド大学
新田洋子

地方にも盛んな日本語教育

マナド国立大学言語芸術学部校舎の写真
マナド国立大学言語芸術学部校舎

 広大なインドネシアの中で、日本語教育が盛んな地域は、ジャカルタを中心とする首都圏だけではなく、他のジャワ地域、バリ、スマトラ島などにも広がっています。そして首都圏から、ジャワ海、フローレス海に隔てられたスラウェシ島の、そのまた北の端に位置する北スラウェシ州も、日本語教育が盛んな所です。それはたとえば、北スラウェシ州にある総数約300の高等学校の内、日本語の授業を行っている高校の数が40を越えることにも表れています。そしてその高校で日本語の教鞭をとっている教師のすべてが、ここで御紹介するマナド国立大学(旧マナド教育大学)の出身です。

 マナド国立大学は名前を略して、UNIMA(ウニマ)と呼ばれています。UNIMAは2000年度に、社会の変化に合わせて、総合大学に変わりましたが、それまで教員養成の機関として、卒業生を送り出してきました。スラウェシ地域での日本語の学習者数は、近年特に増加の傾向にありますが、UNIMAで日本語を学んでいる学生の数も現在約400名に達しています。これは外国語では英語に次ぐ学生数の多さです。

UNIMAでの役割

 インドネシアでは「地域派遣専門家制度」が導入され、派遣専門家は特定の大学だけではなく、地域全体のアドバイザーとして、日本語教育に関する支援を行っています。しかしまだスラウェシ地域では、この「地域派遣専門家制度」に移行されていません。UNIMAだけの「機関派遣専門家」として、学生の授業を担当するのが主な役割です。大学の授業科目の中では、「会話」が苦手という現地講師の声に応えて、専ら担当しているのは「会話」の授業です。学生たちは教室内では楽しそうに会話の練習をしていますが、一歩教室の外に出れば、日本語とは無縁の環境のため、学習したことをどう定着させていくのかが、難しいところです。

 スラウェシ地区は日本人が多数居住する首都圏や、観光地のバリとは異なり、この地域に在住する日本人は多くはありません。ブナケン島というダイバーの間では名の知れた美しいさんご礁の海洋公園もありますが、訪れる日本人観光客の数はバリとは比較になりません。日本人と直接、接する機会も、日本についての情報を得る機会も限られています。学生たちにとって派遣専門家は身近に接する唯一の日本人であり、日本人の代表のように受け止められてしまい、責任と緊張を感じます。

スラウェシ地区日本語弁論大会

 大学での大きな行事の一つに日本語弁論大会があります。ジャカルタで行われる全国大会に先駆けて、各地域ごとに地区大会が開かれます。スラウェシ地区大会は、初回から第七回大会まで、UNIMAの学生のみが出場する、事実上学内弁論大会でした。しかし第八回大会には同じ北スラウェシ州内のマナド外国語大学も参加し、また2002年度に行われた第九回大会は、南スラウェシ州のハサヌディン大学の学生も加わり、スラウェシ島内で日本語プログラム乃至学科を開設している三大学の学生が、揃って参加する大会になりました。ハサヌディン大学の日本語プログラムとはスラウェシ島の南の端と北の端という位置関係のためか、今まで全く交流がありませんでした。この弁論大会がスラウェシ島内の日本語教育を行っている大学間の交流のきっかけになればと思います。

真の拠点校を目指して

 UNIMAの日本語プログラムは、卒業生が母校の教員となり後輩を指導し、また地域内の高校で日本語教育にあたるなど、大きな影響力を持っています。スラウェシ島内には四年制で学士号が取得できる日本語教育機関としては、UNIMAの日本語プログラムのほかには存在しません。スラウェシ島内で、日本語専攻がある他の二大学、マナド外国語大学とハサヌディン大学は共に三年制でディプロマという資格しか取得できません。UNIMAは唯一学士号が取れる日本語教育機関としてスラウェシ地域の日本語教育の中心となる責任があります。しかし教育の質という面から見るとまだまだ不充分なのが現状です。名実ともに日本語教育の中心であると言えるように、講師陣の日本語のレベル、教授法のレベルを上げる必要があります。それが学生のレベルアップにも繋がっていきます。この地域ではまだ日本語能力試験など、客観的に日本語の力を測る試験は行われていません。また他の地域で行われている日本語教育についての情報にも遅れがあります。どうしても井の中の蛙になり、現状に満足しがちです。他に大学がないから拠点校というのではなく、これからは内容の伴った真の地域の中心的機関を目指さなければなりません。その実現のために支援していくのも、ここでの派遣専門家の役割だと思います。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 マナド国立大学は、スラウェシ島内のみでなく、東インドネシア地域で唯一日本語の学士号が取れる大学である。当大学における日本語教育の歴史は長く、卒業生が母校や地域内の高校で日本語教育にあたっており、東インドネシア地域の日本語教育の中心的機関である。専門家は日本語講座で授業をするほか、カリキュラム・教材作成に対する助言を行う。また、地域派遣専門家として、域内の日本語教育のレベルの底上げや、教師に対する支援をしたり、日本語講座の開設を計画する学校にアドバイスをする。専門家の自宅では、インドネシア日本語教育学会スラウェシ支部勉強会を月に一回開き、教師自身の日本語のレベルアップを目指す。
ロ.派遣先機関名称 マナド国立大学
Manado State University
ハ.所在地 Kampus UNIMA, Tonsaru Tondano, Sulawesi Utara, Indonesia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
言語芸術学部 外国語学科 日本語プログラム
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1962年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1982年
(ロ)コース種別
日本語教育専攻、日本文学専攻、日本語学専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤 15名(邦人はいない)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年:168、
2年:92、
3・4年:約100、
5年~:36
(2) 学習の主な動機 「日本語教師」「翻訳者や通訳」「日系企業」
(3) 卒業後の主な進路 母校UNIMAの教員、地域内の高校教師、日系企業就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
できる学生で能力試験の3級に合格するかしないか
(5) 日本への留学人数

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