世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ジャカルタ日本語センターから(2003)

ジャカルタ日本語センターから

国際交流基金ジャカルタ日本語センター
藤長かおる、亀田美保、山下美紀、渡辺由美

日本語一般講座の修了式の写真
日本語一般講座の修了式

 インドネシアの日本語学習者人口は約5万4000人(1998年国際交流基金日本語国際センター「日本語教育機関調査」)、世界で6番目に日本語を学ぶ人の多い国である。このインドネシアの日本語教育支援のためにできたのが、ジャカルタ日本語センター(1991年開所)で、現在4人の日本語教育専門家が勤務している(注1)。業務は、全インドネシアの中等教育支援とジャカルタを中心とする首都圏地区(ジャボタベック地区)支援に大別されるが、内容は日本語講座の運営、研修・セミナーの実施、カリキュラム・教材開発、学会等ネットワーク支援、ニュースレターの発行等、多岐にわたっている。

注1) 2003年7月より、専門家は3名体制となる。

中等教育支援担当アドバイザーとして

 インドネシアの日本語学習者の3分の2は高校生。これは日本語が高校の第二外国語のひとつになっているためだ。中等教育レベルの日本語教育アドバイザー業務について紹介する。

アドバイザーってなんだろう

 「日本語教育アドバイザー」という仕事に私が出会ったのは10年以上前のことになる。他の国で仕事をしていたときのことだが、着任すると凄腕の上司からスケジュールがわたされ、その週末には「高校教師対象1日セミナー」と書かれていて目が点になったのを覚えている。「教師研修」「日本語コース」「通信教育」「教材開発」「学校訪問」等、「アドバイザーだから何でもできなくてはいけない」と思うことは時としてつらかったが、そのとき、'just to be better''work together with teachers'と上司がアドバイスしてくれた。その言葉を私は「今は最善でなくても、改善を重ねること」「自分ひとりでやろうとはせず、先生方といっしょに仕事をすること」と理解した。この言葉はアドバイザーの出発点だと思っている。

みんなで仕事をすることの意味

 インドネシアでの仕事内容は、高校の日本語カリキュラム開発、シラバス作成、教材開発、教師研修等であるが、どんな仕事でも1人だけでやることはない。たとえば、高校日本語教師研修(期間2週間、年に3~4回)には、教育省教員研修所の指導講師、大学の日本語講師、研修実施地域のインストラクター(インドネシア人高校日本語教師のリーダー)、地域の高校に配属し高校教師といっしょに仕事をしている国際交流基金派遣の青年日本語教師が出講する。大学の教師はインドネシア語で外国語教授法について講義をし、青年日本語教師は日本語の授業を担当し、アドバイザーである基金の専門家は日本語教授法演習を担当する。その中で、高校の教師でもあるインストラクターは青年日本語教師と組んで教材分析や授業計画、モデル授業を担当する。また、研修の最後に研修参加者が行う模擬授業では、アドバイスを担当する。

 'work together with teachers'というが、何人かが協力してひとつのプログラムをつくるというのは大変なことである。メールにしろファックスにしろ簡単に使えないインドネシアでは、連絡をとることも至難の業、「1人で全部やれればこんなに時間がかからないのに」とイライラすることもある。でもやはり「3人寄れば文殊の知恵」。異なる立場にいる者がそれぞれの得意分野で力を発揮できたとき、本当によい仕事ができる。そういう意味で、アドバイザーはよいコーディネーターでありたい。

現地化、自立化という目標

 最近の教師研修では、私が何も言わなくてもいいぐらい模擬授業でのインストラクターの先生方のアドバイスが光ってきた。また、教授法の授業で私が話すようなことは「それはもうインストラクターの先生からききました。」と言われることがある。そのうち、「もう先生はジャカルタから来なくても大丈夫ですよ。」といってくれるのではないかと楽しみだ。研修に出講することや教材開発を通して、教師が成長する。その方法を学び、やがて彼らでその企画・実施がでるようになること、それがアドバイザー業務のいちばん大きな目標である。

計画、実施、評価

 'just to be better'であるためには、情報収集、計画、実施、評価、改善を繰り返すことが必要だろう。アドバイザーの仕事の基本は「仕事についてコースデザイン」ができることである。任期は2、3年と決して長くない。自分が担当する仕事に対して十分な準備をして着任すること、これもアドバイザー業務のひとつであろう。また、計画―実行―評価の過程は自分ひとりで終わるのではない。前任、後任の専門家と上手に引き継いでいきたい。

ネイティブ・ティーチャーである意味

 ネイティブ日本語教師であるアドバイザーの発言は影響が大きい。それだけに、自分や日本のやり方を押し付けていないか、自分の発言が相手を傷つけることはないか、相手への気配りを忘れないでいたいと。また、逆にインドネシア語やインドネシアの事情がよく理解できないために間違いに陥る危険もある。幸い、ジャカルタ日本語センターにはエフィさんという頼りになるインドネシア人の専任講師がいて、いろいろな局面で助け合える。ノン・ネイティブの先生方と協力していく楽しさを感じられるのがアドバイザーの仕事の醍醐味だと思う。海外の日本語教育支援には、ネイティブ、ノンネイティブ両方の力が必要である。ここインドネシアの高校の日本語教育に携わる多くの方々と連携し、点をつなげて線とし、そしてやがて面にしていきたい。
(藤長)

地域支援業務

 ジャカルタ日本語センターでは、2001年より首都圏地域の日本語教育(中等教育を除く)を重点的に支援する「地域支援業務」を開始した。ジャボタベック地域とは、ジャカルタとその郊外のボゴール、タンゲラン、ブカシを含む首都圏地域である。ここでの地域支援業務には、教師研修やセミナーの開催、大学定期訪問(地域内11大学)によるコンサルティング、地域の学会・教師会への活動協力などがある。また学習者に対する直接支援として日本語講座(後述)が常設されている。教師に対する支援としての研修やセミナーと、機関支援である大学訪問、そして学習者への日本語講座は互いに連携し、密接に結びついている。

 特に大学定期訪問は、センター内に留まっていては聞けない先生方の生の声が聞ける貴重な機会である。現在は首都圏の主要大学を月1回程度訪問する。コンサルティングの内容はカリキュラムや教材の変更について、具体的な教え方の相談、教科書分析や勉強会のサポートなど多岐にわたる。一人一人の先生達の、今現場で抱えている問題を共に考え、現実的で実践的な答を一緒に模索していくことは「現地」とのつながりを強くし、信頼関係を築いていくのに欠かせない業務である。「顔見知り」が何人かいると、教師研修やセミナーの場も和みやすく初対面のメンバーともお互いにリラックスできその後の活動に有効である。今後も一人一人とのつながりを大切にし、現地のニーズに支えられた支援活動を行っていきたいと思う。
(渡辺)

日本語学習者に対する直接支援

 ジャボタベック地域には多くの民間日本語学校や大学等の日本語コースがあり、また日系企業も多いことから、インドネシアの他地域に比べ日本語を勉強する環境に恵まれている。しかし、中級以上の日本語を学べる機関は限られている。ジャカルタ日本語センターでは、中・上級者を対象に一般日本語講座を開講している。クラスは中級、上級とも2クラスずつで学生数は約100名、一回90分の授業が週2日ある。学習者は大学生、会社員、主婦、高校や民間日本語学校の日本語教師などである。各クラスの授業では受身的な勉強のしかたではなく、これまでに学んだことを積極的に使う場として授業に参加するように指導している。そのため講座では「理解・発信・交流」をモットーに、グループ発表やクラスでの意見交換などを取り入れている。どのクラスも雰囲気がよく、学生は皆仲良く熱心に勉強しており、グループ作業のときも日本語で話し、冗談が飛び交うような場面も見られるほどだ。上のクラスへの進級希望者も多い。ジャボタベック地域が日本語学習の機会、環境に比較的恵まれているとはいえ、一歩外に出れば日本語を使う機会はほとんどないというのが実情だと思われる。せっかく学んだことを忘れないように、講座修了後も勉強を続けていってほしいと思う。
(山下)

首都ジャカルタ周辺地域の高校日本語教育事情と青年日本語教師(SNK)の活動

国際交流基金ジャカルタ日本語センター
篠山 美智子

当地の高校生と日本語

高校での授業の様子の写真
高校での授業の様子

 最近の高校生が日本語を学ぶ方法は、一昔前とは変わってきているようである。特に、教室の外で日本語に触れる機会が増えている。
例えば、CDショップで売られている日本のCD、カセットが増えていることから、高校生が日本の新しい歌を耳にする機会も多くなった。日本の歌が好きになったのがきっかけで日本語を勉強するようになったという高校生もいる。

 日本のドラマの影響も大きい。トレンディー・ドラマも数多く放映されているし、「クレヨンしんちゃん」などのアニメも多い。また、当地ではVideo CDが一般的で、日本のドラマのものも売られている。

 既に「ドラえもん」をはじめとするマンガが数多く入ってきていたが、マンガは全てインドネシア語に訳されているため、そのまま日本語の勉強に使うことはできない。しかし、メディアを通じていろいろな形で日本の文化が入ってきており、メディアから入ってくる日本語や日本文化が、彼らにとっての日本や日本人のイメージを作るといっても言い過ぎではないほどである。

ジャカルタ周辺地域のSNKの活動

1.配属高校での活動

 同地域では、2002/2003年度の配属校は専門高校(SMK)で、観光サービス業務専攻(UJP)で日本語が行われている日に週2回出勤した。配属校では、日本語担当教諭に対するアドバイスが主な仕事である。また、先生の参考になるようにとの考えからSNK自身も授業を行う。とはいえ、教諭や生徒から学ぶこともまた多い。また、お互いの授業は必ず見学することにしている。この方針は、インドネシア全体でSNKが活動を始めた当初から続いている。

 今年『99年カリキュラム準拠教科書・試用版』が完成する予定である。配属校の日本語担当教諭もこの教材作成に携わっており、今年度の授業は教材を作りながらそれを現場で使ってみるということを主に行った。

 インドネシアの高校は設備が整っているとは言えないし、熱帯で、エアコンのない学校で授業をしたり見学するのはかなり暑い。それでも、楽しそうに日本語を勉強している高校生を見ると、元気が出てくるから不思議である。

2.高校日本語教師会支援

高校生日本語大会習字作品の写真
高校生日本語大会習字作品

 地域全体の日本語教師を支援するために、配属校以外にも、普通高校及び宗教高校日本語教師会(MGMP)、及び専門高校日本語教師会(PGBJ)に参加し、情報交換やアドバイスなどを行っている。

 教師会では教育省に提出する授業計画などを作成したり、教師のリクエストによりSNKが発音の指導、習字の指導などを行ったりしている。教師らは熱心に参加しており、SNKも出来るだけその熱意に答えるべく支援を行っていきたいと思いながら活動を行っている。

 定期的なミーティングの他、同地域では年に1回高校生日本語大会を開いており、習字の部、クイズの部などに分かれて日頃の学習成果を披露している。また、基金主催の高校生日本語弁論大会では、地方大会の実行委員会を高校教師会が担当している。同大会には毎年普通高校、専門高校、宗教高校から多数の生徒が参加しており、日本語学習の成果を披露する機会ともなっている。

3.教師研修・教材作成等プロジェクトへの参加

 SNKは、教育省との共催等で行われる高校日本語教師研修や教材作成にも一部出講している。

 教師研修は、派遣専門家、インドネシア人高校日本語教師、大学講師などが協力して行っているが、SNKが担当するのは、日本語運用能力を伸ばすための日本語演習や、モデル授業等の部分など、主に現場での活動経験を活かせる部分である。

 教材作成については、カリキュラムに沿った教材開発が専門家、インドネシア人高校日本語教師等の協力のもとに行われている。近々完成予定の『専門高校99年カリキュラム準拠教科書』作成では、グループ作業による原稿の作成、年に数回教材作成委員が集まって行われる教材作成会議等に参加した。

 教師研修や教材作成は、立場の違う教師が複数で作業をし、何度もチェックと訂正を重ねて作り上げていくものであるため、かなり手間のかかる仕事である。しかしながら、いろいろな人たちと話し合いながら共通の目標に向かって作業をするのは非常に勉強になり、やりがいのあることである。また、ネイティブでありながら現場に入っているSNKならではの意見が採用された時の喜びも大きい。

4.まとめ

 同地域のSNKの業務は、かなり多岐に渡っている。そのため、何十校もある高校全部に学校訪問をしたくても、1つの業務にかけられる時間を限らざるを得ない。しかし、その分いろいろな業務に携わることが出来るので、勉強になる。

 いろいろなことが、スムーズにはいかない同国なので、イライラしたり途方に暮れる事は日常茶飯事であるが、やる気のある先生や、熱心に日本語を勉強している生徒を見ると、本当に元気づけられる。それが何よりのやりがいとなっている。

 これからも、地域の高校日本語教師のよき相談相手となれることを目標に、同地域の日本語教育支援に貢献していきたい。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 国際交流基金ジャカルタ日本語センターは、インドネシア各地に派遣されている専門家、青年日本語教師、及びインドネシアの各機関と連携をとりながら、インドネシアの日本語教育支援をおこなっている。中等教育においては、国家教育省と協力し、カリキュラム・シラバスの開発、教材開発、教師研修会を実施している。高等教育、民間の日本語教育に対しては、教師研修やセミナーを実施する他、定期的に主要大学を訪問し、カリキュラム変更や教材分析のサポートの他、コンサルティングを行っている。また、中・上級者向け一般日本語講座を運営している。四半期に一度、ニューズレター『EGAO』を発行している。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation Jakarta Language Center
ハ.所在地 Lantai 2-3, Summitmas I, Jl.Jend.Sudirman Kav. 61-62, Jakarta 12190, Indonesia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家4名(2003年7月より3名)

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