世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) スラウェシ島の拠点校、マナド国立大学

マナド大学
新田洋子

北スラウェシの州都マナド

マナド国立大学言語芸術学部校舎の写真
マナド国立大学言語芸術学部校舎

 インドネシアのほぼ中央にある島、スラウェシ島は五つの州に分れています。一番北にあるのが北スラウェシ州で、その州都がマナドです。北スラウェシの産物として有名なのは香辛料の丁子です。年に一度の収穫時期には、摘み取った丁子をあちらこちらで天日干しする風景が見られ、町全体に丁子独特の香が漂います。

 国民の大多数がイスラム教徒というインドネシアの中で、マナドはキリスト教徒が多数派を占めています。そのためいたるところに教会が建てられ、他のインドネシアの町とは異なった雰囲気があります。

東インドネシアの中心的機関

 マナド国立大学はインドネシアで日本語教育を始めた一番古い大学の一つです。日本語プログラムができたのは1962年のことだと言われ、既に40年の歴史があります。

 北スラウェシ州で、日本語教育が行われている高等教育機関はマナド国立大学のほかにマナド外国語大学があります。そして科目の一つとして日本語が教えられている機関も数校あります。

 南スラウェシ州では、ハサヌディン大学に日本語プログラムがあります。北スラウェシ州のマナド国立大学とマナド外国語大学をあわせ、スラウェシ島内で日本語が専攻科目として学べる大学は三大学です。その中で四年制の大学で日本語の学士号(インドネシアではS1と呼ばれる)が取得できるのはマナド国立大学だけです。他の大学はいずれも三年制のディプロマ過程(D3)と呼ばれるコースで、学士の資格は取れません。

 スラウェシ島内だけではなく、東インドネシア地域で、マナド国立大学の日本語プログラムは唯一日本語教育の学士号を取得できる大学です。そのため、パプア州、マルク諸島などの近隣の島々からも、学生が日本語を学びに来ています。

 また、北スラウェシ州は日本語教育を行っている高校の数が多い地域ですが、その中等教育機関で日本語教育に従事しているのは、すべてマナド国立大学の卒業生です。マナド国立大学は東インドネシア地域の日本語教育の中心的機関となっています。

教員の状況

 マナド国立大学日本語プログラムで教えているのは15名の常勤インドネシア人講師に加えて、基金派遣の筆者で、他に日本人の講師はいません。

 近年インドネシアでは大学教員に、より高度の資格が求められるようになり、教員の修士号取得が奨励されていますが、当プログラムでは、現在7名の教員が修士号を持ち、7名が大学院に在籍中です。日本の大学で修士号をとった教員も2名います。インドネシア内の他の大学の日本語教員と比べても、高い学歴をもつ教員が多いと思います。

学生について

 北スラウェシ州は日本語の学習熱が大変高い地域で、マナド国立大学の学生数も年々増加しつづけています。2000年度には新入生が100名を越えるようになり、現在は400名以上の学生が日本語を学んでいます。

 学生たちの日本語学習の動機で一番多いのは、日本語の教師になりたいというものです。その他、日本企業で働きたい、翻訳や通訳をしたいという希望を持っている学生もいます。しかし現実の状況としては、高校で教えたくても空きポストがなく、大学卒として就職できる企業も少ないため、学生の就職先確保は非常に困難です。卒業時に就職が決まっている学生は、ほとんどいません。

 卒業時の学生のレベルは優秀な学生でも日本語能力試験の3級に合格できるか、どうかといったところです。海外という環境で、しかもジャカルタやバリなどとは違い、この地域に住む日本人も少ないため、教室以外で日本語を話したり、聞いたりする機会はほとんどありません。それが学生たちの日本語習得が遅い、定着が悪いなどの原因の一つになっています。

インドネシア日本語教育学会スラウェシ支部

 2000年にスラウェシにもインドネシア日本語教育学会の支部が発足しました。現在のところ学会支部の主な活動は月一回の勉強会の開催です。勉強会にはマナド国立大学の教員だけでなく、マナド外国語大学など地域の高等教育機関の教員が参加しています。勉強会では支部会員の要望にそった内容で、筆者が講師を務めています。

 今年の1月にはジャカルタ日本文化センターの支援を得て、「口頭練習を中心とした初級日本語の教え方」というテーマで二日間の研修会が開かれました。いつもの勉強会と違い、外部から講師を招いての研修会は、参加者の意気込みも日頃とは違い、大きな成果のある研修となりました。参加者から毎年このような研修会を開いてほしいという強い希望も出されました。

後任の派遣

 マナド国立大学日本語プログラムへの基金派遣が始まったのは1982年からです。途中、派遣が中断した期間もありますが、かなり長い期間にわたるといえます。筆者の任期はもうすぐ終了で、8月には帰国します。ですが、そのあと後任は派遣されないことになりました。マナド国立大学の日本人講師はいなくなります。しかし既に、マナド国立大学の教員は高学歴化も進み、日本での講師研修にもすべての教員が参加済みです。日本人講師がいないことをマイナスとせず、日本語教育の拠点校としての自覚と責任を持って、学生の教育ができる、日本語プログラムであってほしいと思います。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
マナド国立大学は、スラウェシ島内のみでなく、東インドネシア地域で唯一日本語の学士号が取れる大学である。当大学における日本語教育の歴史は長く、卒業生が母校や地域内の高校で日本語教育にあたっており、東インドネシア地域の日本語教育の中心的機関である。専門家は日本語講座で授業をするほか、派遣機関の講師に日本語教授法、カリキュラム・教材作成に対する助言を行う。また、域内の日本語教育のレベルの底上げや、教師に対する支援をしたり、日本語講座の開設を計画する学校にアドバイスをする。専門家の自宅では、インドネシア日本語教育学会スラウェシ支部勉強会を月に一回開き、域内教師の日本語のレベルアップを目指す。
ロ.派遣先機関名称 マナド国立大学
Manado State University
ハ.所在地 Kampus UNIMA, Tonsaru Tondano, Sulawesi Utara, Indonesia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
言語芸術学部 外国語学科 日本語プログラム
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1962年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1982年
(ロ)コース種別
日本語教育専攻、日本文学専攻、日本語学専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤 15名(邦人はいない)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年:約100、2年:約150、3年:約80、4年以上約80
(2) 学習の主な動機 「日本語教師」「翻訳者や通訳」「日系企業」
(3) 卒業後の主な進路 母校UNIMAの教員、地域内の高校教師、日系企業就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
できる学生で能力試験の3級に合格するかしないか
(5) 日本への留学人数

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