世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) スマトラ島で日本語を学ぶ若者たち

北スマトラ大学/北スマトラ州地域派遣
後藤多恵

日本に憧れる若者たち

日本語教育1日セミナーの写真
日本語教育1日セミナー

 スマトラ島の日本語学習者に特徴的なのは、学習の動機が「日本への興味」に尽きることです。北スマトラ大学日本文学科の学生に入学の動機を尋ねると、返ってくる答えは「いつか日本へ行ってみたいから」「日本のマンガが好きだから」「ひらがなや漢字を読んでみたいと思ったから」など、ほとんどが漠然とした日本への憧れに拠るものです。アジアでは専門知識や技術の習得を目的とした日本語学習者が大半を占めると言われていますが、インドネシアではずいぶん事情が異なります。学習者の多くが日本語の学習そのものを目的にして、日本に触れることに喜びを感じているようです。茶の湯でも、歌舞伎でも、サムライでも、ドラえもんでも、宇多田ヒカルでも、日本に関することなら何でも知りたいという日本好きの若者がスマトラには大勢います。

日本文化祭に集う若者たち

 教室以外で日本語に触れる機会の少ないスマトラ島で、日本語の学習を地道に続けていくことは決して容易なことではありません。インドネシア人日本語教師のコンサルティングをしていると、どうすれば生徒たちに学習意欲を保たせることができるのかといった相談が多く寄せられます。そんな日本語教師の悩みに応えてくれることになったのが、メダンやパダンなどスマトラ各地で恒例になった日本文化祭です。メダンでは昨年、日本の総領事館が複数の機関と共催する形で「日本文化週間」が開催されました。一週間にわたって日本映画祭、日本人形展、日本語クイズ大会、まんがワークショップ、浴衣の試着などの催し物が開かれ、延べ1万人が会場に足を運びました。この日本文化週間の会場は日本語学習者の交流の場ともなり、高校生や大学生にとって大変よい刺激になったようです。

ブンハッタ大学日本文化祭の写真
ブンハッタ大学日本文化祭

 さて、パダンでは日本語教育の中心となっているブンハッタ大学が3年前から毎年、日本文化祭を開催しています。当初は学内行事として始められた日本文化祭ですが、教師間のネットワークが広がるとともに、高校や日本語学校の生徒も参加するようになり、今や「地域の行事」になっています。今年4月の文化祭では、弁論大会、朗読大会、歌のコンテスト、日本語クイズ大会などが3日間にわたって催され、参加者がご自慢の日本語を発表しました。中でも、朗読大会と歌のコンテストでは小学生が優勝し、会場の高校生や大学生を驚かせました。この日本文化祭を見た学習者には、来年こそは私も…と思っている人が大勢いるに違いありません。

仲間を作るための日本語

 日本文化祭に集まった若者たちを見ていて、気づいたことが一つあります。彼らはお互いに日本語を知っているということで、気持ちをゆるしすぐに親しくなれるようなのです。初めて会った者同士でも、日本語で言葉を交わすことで仲間になることができます。何を話したかではなく、何語を話したかが重要なのです。おそらく、インドネシア人にとって「仲間になる」ということは、「同じ世界を共有する」ことを意味するのでしょう。そう考えると、日本文化祭はインドネシアの若者が同じ日本語の世界を持つ仲間と出会う場であると言えます。

 インドネシアでは日本語を学ぶ若者が急増しています。若者たちは、日本語を通して仲間を作り、より広い自由な世界とつながることに何らかの夢を託そうとしているのかもしれません。そして、この現象は、国家体制や経済が安定しない中で、若者が自国に希望を持ちにくくなっているという現実と無関係ではないように思います。
日本語を学ぶインドネシアの若者たちが仲間となり、そのネットワークがいつかこの国の大きな力になることを願っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
北スマトラ大学は、日本文学・日本語学科を有するスマトラ島内唯一の国立大学で、同学科は日本語教育学会スマトラ支部の事務局を担当し、日本語能力試験の実施機関に指定されている。専門家は同大学において日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師の育成を行う。また、地域派遣専門家として教師支援を中心とした域内の日本語教育支援を行う。具体的には域内日本語教育ネットワーク形成・強化への支援、勉強会・セミナーでの講師役、セミナー開催の企画・実施への協力、北スマトラ州高校日本語教師会およびメダン日本語学校教師会への支援などの業務がある。
ロ.派遣先機関名称 北スマトラ大学
North Sumatera University
ハ.所在地 Jl. Universitas No.19, Kampus USU Medan 20155, Sumatera Utara
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
文学部日本文学・日本語学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   日本語学科:1980年
日本文学科:2000年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1988年
(ロ)コース種別
日本文学科、 エクステンションコース、日本語学科(3年制)
(ハ)現地教授スタッフ
常勤7名 非常勤4名 その他4名
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   今年度の同学科入学者総数は157名。在籍者数468名。
(2) 学習の主な動機 学士の取得、日本文化・日本語の研究、日系企業に就職、日本への興味・関心
(3) 卒業後の主な進路 日系企業への就職、高校、大学の日本語教師、日本語ガイド
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
学士修了者:中級後半、ディプロマ修了者:中級前半終了程度
(5) 日本への留学人数 5名

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