世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ジャカルタ日本文化センターの日本語教育支援(2004)

ジャカルタ日本文化センターの日本語教育支援

国際交流基金ジャカルタ日本文化センター
藤長かおる、山下美紀、渡辺由美

ジャカルタ日本文化センターでの日本語教育関連の写真1

 ジャカルタ日本文化センターには、3人の日本語教育専門家と2人のインドネシア人専任任講師が勤務し、インドネシアの日本語教育支援業務に携わっている。センターの主要業務は、インドネシアの中等教育支援とジャカルタを中心とする首都圏地区(ジャボタベック地区)支援に大別される。

センターの中等教育支援

 インドネシアの日本語学習者の3分の2は高校生。これは日本語が高校の第二外国語のひとつになっているためだが、中等教育支援では、インドネシアの公教育の枠組みの中でどのような支援を行っていけば効果的かを考えることが重要になる。また、中等教育は規模が大きいだけに、関係機関、関係者の連携がプログラム成功の鍵になる。中等教育支援の柱となる4つの業務を紹介する

カリキュラム開発への協力

 小学校から高校までの学習内容は、日本の学習指導要領にあたるカリキュラムによって定められる。日本語も例外ではない。カリキュラムの改訂は10年に1回程度、普通高校(宗教高校)でも、専門高校でも、2004年から新カリキュラムが導入される。それに伴い、センターは、国家教育省の依頼を受け、日本語カリキュラム改訂作業に協力している。学習目的、学習内容、学習方法を決める重要な作業である。

シラバス・教材開発プロジェクトの実施

 授業の実施には、カリキュラムやシラバスにあった教材が必要になるが、インドネシアでは、日本で出版された教材は入手しにくく、現地で開発された高校生向けの教材はほとんどない。センターでは、国家教育省との協同プロジェクトとして、専門高校、普通高校用の日本語教材の開発を行っいる。専門高校の日本語教材「インドネシアへようこそ」は現在試用中、普通高校の教材は2004年度から本格的な作成に入る。プロジェクト期間は5年、教育省関係者、センターの専門家と専任講師、インドネシアの各地域にいる青年日本語教師、そして現場の高校教師の協働作業である。

教授法研修としての教師研修

 カリキュラム、シラバス、そして教材ができた次は、教授法の問題である。教員養成プログラムを持つ大学であっても、外国語の教授法や日本語の教授法についてはほとんど教えられていない。また、年輩の日本語教師には文法訳読式で日本語を習った者が多く、そういう教師が、コミュニケーションを目標とした授業の流れを知り、授業計画を立て、実践できるようになることが教師研修(基礎研修)の目的である。通常、教師研修は1回2週間、年に3回程度実施される。研修も教育省との共催プログラムで、研修には、センターの専門家以外に、教育省の指導講師、インドネシア人インストラクター、国際交流基金の青年日本語教師などが出講する。

日本語力向上のための通信教育

 高校教師のバックグラウンドは、大学の日本語専攻出身だけではない。技術研修生として日本へ行ったことがある、少し日本語を勉強したことがあるという理由で日本語を教えている教師も少なくない。高校の日本語教師として、日本語能力試験3級程度の日本語力がほしいが、大多数の教師は4級から3級の間、それ以下の教師もいる。日本語力の向上には継続的な学習が必要だが、首都圏は別として、高校教師が受講できる日本語コースはほとんどない。センターでは、通信による日本語コースを2002年度から試行をはじめたが。今年度はそれが教育省 (通信教育センター)の正式の教師研修プログラムとしてスタートを切った。新しいプログラムだけに問題も多く、プログラムが軌道にのるにはまだしばらく時間がかかる。(藤長)

地域支援業務

 ジャカルタ日本文化センターでは、2001年より首都圏地域の日本語教育(中等教育を除く)を重点的に支援する「地域支援業務」を開始した。ジャボタベック地域とは、ジャカルタとその郊外のボゴール、タンゲラン、ブカシを含む首都圏地域である。ここでの地域支援業務には、教師研修やセミナーの開催、大学定期訪問(地域内11大学)によるコンサルティング、地域の学会・教師会への活動協力などがある。また学習者に対する直接支援として日本語講座(後述)が常設されている。教師に対する支援としての研修やセミナーと、機関支援である大学訪問、そして学習者への日本語講座は互いに連携し、密接に結びついている。

 特に大学定期訪問は、センター内に留まっていては聞けない先生方の生の声が聞ける貴重な機会である。現在は首都圏の主要大学を月1回程度訪問する。コンサルティングの内容はカリキュラムや教材の変更について、具体的な教え方の相談、教科書分析や勉強会のサポートなど多岐にわたる。一人一人の先生達の、今現場で抱えている問題を共に考え、現実的で実践的な答を一緒に模索していくことは「現地」とのつながりを強くし、信頼関係を築いていくのに欠かせない業務である。「顔見知り」が何人かいると、教師研修やセミナーの場も和みやすく初対面のメンバーともお互いにリラックスできその後の活動に有効である。今後も一人一人とのつながりを大

日本語学習者に対する直接支援

ジャカルタ日本文化センターでの日本語教育関連の写真2

 ジャボタベック地域には多くの民間日本語学校や大学等の日本語コースがあり、また日系企業も多いことから、インドネシアの他地域に比べ日本語を勉強する環境に恵まれている。しかし、中級以上の日本語を学べる機関は限られている。ジャカルタ日本語センターでは、中・上級者を対象に一般日本語講座を開講している。クラスは中級、上級とも2クラスずつで学生数は約100名、一回90分の授業が週2日ある。学習者は大学生、会社員、主婦、高校や民間日本語学校の日本語教師などである。各クラスの授業では受身的な勉強のしかたではなく、これまでに学んだことを積極的に使う場として授業に参加するように指導している。そのため講座では「理解・発信・交流」をモットーに、グループ発表やクラスでの意見交換などを取り入れている。どのクラスも雰囲気がよく、学生は皆仲良く熱心に勉強しており、グループ作業のときも日本語で話し、冗談が飛び交うような場面も見られるほどだ。上のクラスへの進級希望者も多い。ジャボタベック地域が日本語学習の機会、環境に比較的恵まれているとはいえ、一歩外に出れば日本語を使う機会はほとんどないというのが実情だと思われる。せっかく学んだことを忘れないように、講座修了後も勉強を続けていってほしいと思う。(山下)

ジャカルタの高校生と高校日本語教師

ジャカルタ周辺地域(JABOTABEK
派遣青年日本語教師(SNK)
篠山 美智子

配属高校でやっていること

 インドネシアの青年日本語教師(以下SNK)は,高校日本語教師への指導のために高校に配属されます。ジャボタベックでは,配属されるのは,普通高校(SMU)と専門高校(SMK)です。2004年7月からは,宗教高校(MAN)へも配属されることになりました。

 2003/2004年度の配属校は普通高校(SMU)と専門高校(SMK)で,観光サービス業務専攻(UJP)で,それぞれ日本語が行われている日に週1回出勤しました。インドネシアのSNKは,アドバイザーとして業務を行っており,マンパワーとして授業を担当するということはしないのが特徴です。SNK自身も授業を行いますが,先生の参考になるようにとの考えからです。とはいえ,SNKが教諭や生徒から学ぶことも多いです。また,お互いの授業は必ず見学することにしています。これは,ジャカルタだけでなく,インドネシア全地域に共通です。

 インドネシアの高校は,学校よって様々です。設備のよい高校もあれば,あまりよくない高校も多いです。熱帯のインドネシアで,エアコンのない学校で授業をしたり見学するのはかなり暑いです。それでも,同じ暑い教室の中で楽しそうに日本語を勉強している高校生を見ると,元気が出てくるから不思議です。

高校日本語教師会の支援

専門高校ロールプレイ大会の写真
専門高校ロールプレイ大会

 地域全体の日本語教師を支援するために,青年日本語教師は普通高校及び宗教高校日本語教師会(MGMP),及び専門高校日本語教師会(PGBJ)に参加し,情報交換やアドバイスなどを行っています。

 ジャボタベック地域は地図で見るとそれほど広く見えませんが,教師会のために集まるには結構な距離です。遠いところだと高速を使っても2時間以上かかるし,ジャカルタ市内からであっても渋滞のため予想以上に時間がかかります。そのため,定期的に教師が集まると言うのはかなりの労力を要します。

 普通高校教師会(MGMP)では,毎回テーマを選んで教師が順番に模擬授業をし,コメントをしあっています。1年間で積極的な意見交換ができるようになりました。リクエストに応じてSNKが発音などの指導をしたり,日本文化の紹介をすることもあります。しかし,なるべく先生方の自主性を尊重するようにしています。今年度は同教師会主催の「高校生日本文化祭」が行われ,弁論大会,書道大会,カラオケ大会が行われました。

 専門高校教師会(PGBJ)では,今年初めて教師会主催による「高校生日本語ロールプレイ大会」を行いました。旅行社のスタッフと日本人観光客という役割で会話をするものです。衣装や旅行社のセッティングにも工夫が見られ,楽しい大会となりました。

教師研修・教材作成等プロジェクト

 普通高校では2004年度から新カリキュラムが施行されます。そのため,教材作成プロジェクトが始まりました。このプロジェクトには,多くの高校日本語教師が関わっているのが特徴です。また,毎年各地でカリキュラムに沿った教え方の研修が行われており,SNKも講師として参加しています。

 専門高校は,昨年『99年カリキュラム準拠教科書・試用版』が完成しました。2003度の授業はこの教材を1年間かけて試用し,改訂しました。2004年度には,完成版が出版される予定です。専門高校の研修は,ジャボタベック地域の研修の他に全国研修も行われています。

 教師研修や教材作成は,立場の違う教師が複数で作業をし,何度もチェックと訂正を重ねて作り上げていくものであるため,かなり手間のかかる仕事です。しかしながら,いろいろな人たちと話し合いながら共通の目標に向かって作業をするのは非常に勉強になり,やりがいのあることです。

センターでの仕事

教師会模擬授業の写真
教師会模擬授業

 ジャボタベックSNKの業務は,上記の業務以外にも,高校生日本語弁論大会への司会や審査員としての出講,ニューズレター「EGAO」編集委員など,センターでの業務があります。そのため,他地域のSNKと比べて地域の学校を回って指導する時間は少なくなってしまいがちです。しかし,地方に比べて恵まれた設備のあるセンターでは,ここでしか出来ない行事も多く,そのためにやってくる高校生,先生のためにお手伝いをすることは,非常にやりがいのあることです。

 いろいろなことが,システム的にスムーズにはいかないインドネシアなので,イライラしたり途方に暮れる事は日常茶飯事です。しかし,やる気のある現場の先生や,いつも熱心に日本語を勉強している生徒を見ると,本当に元気づけられます。それがあるから,楽しく仕事が出来るのだと思います。これからも,地域の日本語教師のよき相談相手となれることを目標に,同地域の日本語教育支援に貢献していきたいと考えています。

高校の先生に新しい日本の歌を!

 ジャカルタでも最近は日本のCD,VCD,カセットが多く売られるようになり,それによって高校生が日本の新しい歌を耳にする機会も多くなりました。歌を聞いて日本語を勉強している高校生も多いようです。また,日本の歌が好きになったのがきっかけで日本語を勉強するようになったという高校生もいます。メディアが与える影響は大きく,日本語教育も例外ではありません。歌を使って楽しく日本語を勉強できるなら,これを利用しない手はありません。

 一方,高校の先生はどうでしょう。「日本の歌が好き」という先生は多いのですが,知っている歌は「心の友(五輪真弓)」だけだったり…。これでは生徒についていけません。ということで,高校の先生に日本の新しい歌を紹介しようと考えました。今では,宇多田ヒカルもSMAPOKです!正式な業務ではありませんが,本にかじりついて真面目に勉強するだけでなく,先生が「楽しく」日本語を勉強したり教えたりするためのお手伝いができれば,と考えています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
国際交流基金ジャカルタ日本文化センターは、インドネシア各地に派遣されている専門家、青年日本語教師、及びインドネシアの各機関と連携をとりながら、インドネシアの日本語教育支援をおこなっている。中等教育においては、国家教育省と協力し、カリキュラム・シラバスの開発、教材開発、教師研修会を実施している。高等教育、民間の日本語教育に対しては、教師研修やセミナーを実施する他、定期的に主要大学を訪問し、カリキュラム変更や教材分析のサポート他、コンサルティングを行っている。また、中・上級者向け一般日本語講座を運営している。 四半期に一度、ニューズレター『EGAO』を発行している。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation Jakarta Language Center
ハ.所在地 Lantai 2-3, Summitmas I, Jl.Jend.Sudirman Kav. 61-62, Jakarta 12190, Indonesia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家3名

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