世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 明日に向かって

ガジャマダ大学
西浦久子

 2006年5月27日(土)午前5時54分、ジョグジャカルタの南部を震源地とする震度6.3の地震が発生した。多くの人々はまだ家にいてレンガ作りの家の下敷きになった。約6千2百人が亡くなり、約4万6千人が負傷した。ほとんどの人にとってはこのような大地震は初めての経験であった。民家だけでなく学校、ホテルや新しいショッピングセンターなども大きな被害を受けた。ジョグジャカルタの南部は特に被害が大きく村全体がほぼ全滅した所もある。しかし人々はインドネシア政府や日本を含む外国からの援助を受けて再建を始めた。多くの教師や学生たちも被害を受けたが、逞しくまた明日に向かって歩み始めている。

 中部ジャワ州では大学を初め、高校、語学学校などで日本語は最も人気のある外国語の一つである。当地では日本語が就職やビジネスに結びつく機会が多いとはいえないが、学生は意欲的にそれぞれの夢を持って日本語を学習している。また教師も夢を持って日本語の指導に当たっている。専門家としての仕事は、日本語教育の質の向上に対する意識を高め、改善しようとする人々に対して支援することである。仕事場は大きく分けると二つある。一つは派遣されているガジャマダ大学、もう一つはジョグジャカルタ特別州・中部ジャワ州全体である。

1.国立ガジャマダ大学文化研究学部日本語日本文学科

日本人にインタビューする3年生の学生たちの写真
日本人にインタビューする3年生の学生たち

 ガジャマダ大学は中部ジャワにある芸術と歴史の町として名高いジョグジャカルタにある。またこの町は学生の人口が土地の人より多いと言われるほど大学の数が多いため「大学の町」や「教育の町」と呼ばれている。

 ガジャマダ大学は1949年に創立されたインドネシアで最も古い国立大学で、18学部を有する総合大学である。学生数約4万人、教員数約2千人である。大学院、各種研究施設を持ち、中部ジャワ地域の高等教育の中心的役割を担っている。2002年に独立行政法人化され、教育の質の向上は最も重要な課題として取り組まれている。

 ガジャマダ大学文化研究学部日本語日本文学科は、1989年に中部ジャワ地域に初めて開設されたS1(4年制)コースである。また1999年にはD3(3年制)コースも開設された。今なお、その後開設された周辺大学の日本語学科の中心的立場にある。ここには中部ジャワ唯一の学科付属の日本語図書室がある。約6,500冊の書籍、160本のビデオテープやDVD、日本語の新聞などがあり学内のみならず学外の学生にも広く利用されている。NHKテレビも視聴することができる。

 基金の派遣専門家は1989年の当学科開設以来継続して派遣されている。専門家の派遣先での主な業務は以下のようなものである。

  • ガジャマダ大学で授業を担当する。
  • ガジャマダ大学の教師に対して授業計画、教材、教授法、日本語などについて指導・コンサルティング、学内勉強会などを行う。学生に対しては卒業論文(要約文)の日本語指導や留学試験の学内選考、会話の補習などを行う。
  • 教材開発・整備を行う。
  • 日本語能力試験、弁論大会地区予選など教師や学生と共に企画運営する。

2.派遣先大学以外の地域

勉強会に参加した教師たち(スマラン・サラティガ地区)の写真
勉強会に参加した教師たち(スマラン・サラティガ地区)

 専門家はガジャマダ大学の専任講師としての派遣形態が変わり、2001年からはジョグジャカルタ特別州・中部ジャワ州の地域派遣専門家として活動を行っている。首都ジャカルタ、西のバンドン、東のスラバヤという大都市に挟まれた地域で、現在22の高等教育機関で日本語が教えられている。地域での業務は以下の通りである。

  • 日本語教育学会中部ジャワ支部活動を支援する。地域内大学の教師対象の研修会や勉強会などを共に企画運営し、講師を務める。大学間・教師間のネットワーク作りを支援する。
  • 大学の教師に対して教授法の指導、教材の紹介、コンサルティングを行う。
  • 大学の日本語学科の教授内容、コースデザインなどについてアドバイスする。
  • 高等教育機関、日本語教育事情を調査する。

 上記1、2の活動は週3日ガジャマダ大学で教えたり、教師へのコンサルティングやアドバイス、教材開発をしたりする。あとの3日は他大学の訪問、地域の教師へのコンサルティング、教師研修会・勉強会の実施、業務報告などの作成などを行っている。

3.成果と問題点

 中部ジャワにおける日本語教育の歴史はまだ浅く、日本語教育の現地化や自立化はまだまだであるが少しずつ自立の兆しが見えてきた。

  • ガジャマダ大学では2004年に学年・科目間に一貫性のあるカリキュラムを目指して見直しが行われた。2005年前期から新しいカリキュラムが実施されている。
  • 州内で大学のある4地域が離れているので全体でネットワーク形成をすることが難しいが、2地域ずつ合同で行っている教師の勉強会は定着した。特にスマラン・サラティガ地区では教師が意欲的で専門家主導型から地域の教師の自主的な活動に変わりつつある。勉強会では教授法、日本語能力向上を目的とし教師の研究発表や基金の教師研修参加者の発表などが行われている。
  • 日本語教育学会中部ジャワ支部の活動は発足当時セミナーが行われたが、その後しばらく活動がなかった。しかし2005年7月に基金との共催で教授法の研修会がスマランで実施された。2006年7月にも州全体の研修会を予定している。どちらも担当校の教師たちが中心となり他の教師の協力を得て企画運営している。現在学会支部の事務局はスマランのディアン ヌスワントロ大学にある。専門家が派遣されているジョグジャカルタからは遠いのが難点であるがメールや電話で連絡を取り合っている。
  • シラバスや教授内容を整備・改善できる人材がまだ少ない。また、教師の日本語能力向上と教授法のレベルアップが必要である。これからも勉強会・研修会を継続し、基金の研修への参加を呼びかけより多くの教師が研修の場を持てるようにしたい。

 何か仕事を終えた時、問題が解決できた時、感謝された時、教師や学生の成長した姿を見た時、それまでの苦労も吹き飛んでしまう。地域派遣専門家は一つの大学だけでなく地域全体の教師や学生と仕事ができるので喜びはより大きい。専門家が先に立って導くのではなく教師や学生が自立できるように、また明日へ向かって努力する人々の夢が実現するようこれからも支援したい。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ガジャマダ大学は中部ジャワ地域においてS1(4年制)の日本語専攻プログラムを持つ大学として当地域の日本語教育の中心的な存在である。専門家は同日本語講座で学生に対する初~上級レベルの科目を指導、現地若手教師の育成、日本語教授法、カリキュラム・教材作成に対する助言などを行う。また、中部ジャワ地域の派遣専門家として、各地域の教師に対する勉強会や研修会の企画と出講、大学・日本語教師へのコンサルティング業務を行う。インドネシア日本語教育学会中部ジャワ支部事務局はスマランのディアン ヌスワントロ大学にあり、勉強会や研修会を専門家と企画運営している。
ロ.派遣先機関名称 国立ガジャマダ大学
Gadjah Mada University
ハ.所在地 Bulaksumur Yogyakarta, Indonesia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
文化研究学部 日本語日本文学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1989年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1989年
(ロ)コース種別
専攻 S1(4年制)コース、D3(3年制)コース
(ハ)現地教授スタッフ
常勤8名(うち1名留学中) 非常勤3名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   各学年S1約35名、D3約45名
(2) 学習の主な動機 留学、日系企業・日本語教育機関への就職、日本文化への興味、日本研究
(3) 卒業後の主な進路 日本語に関連のある企業、一般の企業、日本語教師など
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2~3級程度、1級に合格する者2~3名
(5) 日本への留学人数 5~6名

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