世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語のひろがりと教師のつながり

ジャカルタ日本文化センター 北スラウェシ州中等教育機関
三浦雄一郎

西洋の町並み

 北スラウェシ州はインドネシアにありながら、人口のほとんどをキリスト教徒が占めていて、町中にはモスクを遙かに上回る数の教会が林立しており、他地域とは少し異なった生活習慣を持っている。港町である州都マナドは交通の要衝として発展し、中国系やオランダ系のほか日本人の血を引く住民も多い。戦前、戦中から日本人の影響を受け、親日的なインドネシアの中でも、特に日本に対して友好的な土地柄である。

 この地を端的に表すものとして「五つのB」ということばが用いられる。五つのBとは、ブナケン(ダイビングスポットとして世界的に有名なブナケン島)、ブキットカシ(山岳部の観光地)、ブブル・マナド(郷土料理の雑炊)、ボルファルト(海に面した繁華街のある目抜き通り)、そしてビビル・マナド(ビビルは唇。すなわちマナド美人と称される魅力的な女性たち)である。

日本語のひろがり

日本語弁論大会の写真
日本語弁論大会

 高校において日本語は、普通高校、宗教高校、専門高校で、必修科目、選択必修科目、課外科目として教えられ、近年では中学校でも授業で扱うところが増えている。当地の高校では第二外国語として扱われる諸外国語の中で、日本語が圧倒的な支持を得ている。しかし、日本語科目と学習者数が増加する一方、学んだ日本語を活用できる環境が十分であるとはいえない。何が日本語科目の地位を高めているのか。

 北スラウェシにはマナド国立大学(旧マナド教育大学)という教員養成大学があり、その中でも歴史ある日本語教員養成コースの存在が中等教育機関での日本語科目の立場を向上させている。そして、国際交流基金(以下JF)や国際協力機構の支援の効果も少なくない。青年日本語教師(現ジュニア専門家)として始まったJFの北スラウェシ州の中等教育に対する支援は今年で10年目を迎える。

高校で行う業務

 ジュニア専門家が学校に赴き、現地の教師に対して日本語の指導や教授法の技術移転を図る業務は2通りある。1つは毎週決められた時間に1年を通して勤務する配属校。昨年はトンダノ国立第一普通高校とフラテル・ドン・ボスコ・マナド普通高校を配属校として、インドネシア人教師とお互いの授業を見せ合ったり、意見交換をしたりしながら授業の改善を図った。定期的に通うため、生徒の名前も覚えられて日本語能力の向上も直に目にすることが出来るので、日本語教師のやりがいを最も実感できる業務である。

 もう1つは州内に点在する高校を巡回する学校訪問である。目指すところは、配属校の業務と変わらないが、特に遠隔地では日本語を母語として話す教師に会うのが初めてであったり、日本人に会うのが初めてであったりする生徒も珍しくないので、日本語を教える以外にも日本文化を紹介するなど、学習者の学習動機を高める活動も大きな訪問目的となる。

教師のつながり

高校日本語教師会の写真
高校日本語教師会

 教師間のネットワークとしては高校日本語教師会(以下MGMP)があり、毎月開催されている。そこでは情報伝達の場としての他に、参加者が持ち回りでスピーチや模擬授業を行いながら、技能の向上に努めている。また、JFと国家教育省が行う各種プログラムや教員研修などを円滑に実施するために機能している。北スラウェシのMGMPの歴史は、青年日本語教師の派遣とともに始まり、その活動は定着している。

 これまでの支援の効果もあり、定着した業務は滞りなく行われている。しかし、新しいものを企画したり、自主的に何かを立ち上げたりしようとするまでにMGMPは成熟していない。そうなるためには、教員同士が今以上に親睦を深めることが欠かせない。たしかに担当地域は広く、教員が定期的に集まることは容易なことではない。

 そこで、日本語の使用環境に恵まれない当地で、もっと日本語を話す場を提供したいという思いと、MGMPの自立化を促すために、定期的な日本語勉強会や食事会などを実施することにした。いずれは現地の先生方から企画が持ち上がるようになり、MGMP内外で日本語教員が技能向上のために自律的に活動できるようになるよう支援している。

ジュニア専門家の役割

 日本から派遣され、日本の立場で業務を行うジュニア専門家と現地教師の理念は一致することはない。ジュニア専門家は日本の利益のために、現地の教師はインドネシアのため、あるいは自分自身のために、それぞれの業務を遂行しているから当然である。だが、具体的に目指すところは変わらない。現地教師の日本語教師としての能力の向上、日本語科目、日本語学習者数の増加、学習者と地域の日本に対する理解。互いの立場を理解し合い、先生方の信頼を得て、目標に近づけるよう知恵を絞っている。

 ジュニア専門家の業務を通して、現地の先生方、未来のインドネシアを背負う生徒たち、そして北スラウェシの方々の心の中に日本が残り、日本とインドネシア両国に良い影響を与えることが出来るように努めていきたい。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1997年、北スラウェシ州に初めてジュニア専門家(旧青年日本語教師)が派遣された。ジュニア専門家はジャカルタ日本文化センターの業務方針に従い、主に以下の業務を行う。(1)配属校において日本語教育に関する指導を行う。(2)派遣地域の現地教師に対する支援を行う。高校日本語教師会(MGMP等)の活動を支援する。(3)高校日本語教師研修の実施に協力する。(4)高校日本語教材の作成に協力する。(5)派遣地域の日本語教育に関する情報を収集する。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, Jakarta
ハ.所在地 Summitmas I, Lantai2-3, Jl. Jend Sudirman Kav.61-61, Jakarta
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名

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