世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 北緯一度の日本語教育事情

国際交流基金ジャカルタ日本文化センター 北スラウェシ州中等教育機関
三浦雄一郎

北スラウェシにとっての日本

 私の任地である北スラウェシ州の州都マナドは赤道直下北緯1度にある。ダイビングで世界に名が知られる以外は、日本にはあまり馴染みのない土地である。一方、当地では日系人が暮らしていたり、日本へ技術研修で訪れたりする人がいるなど、日本に対する興味や認識は日本人が思っている以上に深い。しかし、主な日本語学習者である高校生や大学生にとっての日本に対する印象は、ポップカルチャーなどへの文化的興味や日本企業などへの一部の経済的認識などに止まっており、他の土地と比べても格別な理解があるわけではない。であるのに、総学生数に対する比率を見ると、日本語を学んでいる割合が非常に高い。将来的に日本語の使用機会はほとんどなく、日本企業もほとんどないために就職などでも日本語の需要があるとは言えないが、そのような状況の中でなぜ日本語が学ばれるのか。

北スラウェシの日本語教育

高校の授業風景の写真
高校の授業風景

 北スラウェシには古くからマナド国立大学(旧マナド教育大学)という教員養成大学の中に日本語教員養成コースがあって、日本語教師を輩出し続けたことが、外国語科目の中でも日本語の地位を相対的に押し上げてきたと言える。

 そして、ジュニア専門家や日本語教育専門家(現在派遣終了)の派遣、各種プログラムへの助成といった国際交流基金(以下、JF)の支援の効果が大きい。

 現在、インドネシアでの学習者数の大部分を高校生が占めている。インドネシアの高校では通常2年次より、理系と文系、そして外国語を学ぶ語学系にクラスが分かれる。これまでは語学系の中の日本語選択クラスが高校での日本語科目を支えていたが、近年、語学系に縛られず、入学から卒業までの3年間、全ての生徒が英語以外の第2外国語に力を注ぐように制度が改変された。その結果、北スラウェシでは教員免許を持つ日本語教員の存在とJFの働きかけが功を奏して、年々学習者の総数と第2外国語内での日本語科目の占有率を高めている。

ジュニア専門家の役割

 当地でのジュニア専門家の役割は、州内全域の高校で日本語科目の地位を向上させることである。先生方と勉強会をしたり、学校訪問をして授業に対する助言を行ったり、研修を行ったりする。州を巡回して学校を調査したりする中で校長先生に会って日本語科目に対する理解と支援をお願いしたりすることもある。

 北スラウェシでは、ほぼ全ての日本語教師が日本語を専攻して教員免許を取得した教員なので、正規雇用の割合が高い。正規雇用者が増えれば日本語科目も増えるという相乗効果もあり、安定した地位を享受できるのは先生方にとっては喜ばしいことであるが、安定しているが故に向上心を妨げている弊害もあり、教員同士の関わりに関心が低い先生もいるのは残念なことである。勉強熱心な先生がいたとしても、年に10回の高校日本語教師会(以下、MGMP)でしか顔を合わせる機会がない、という現状を補うために、定期的な勉強会や不定期の食事会を可能な限り行っている。日本語に触れる機会を増やすとともに、互いの情報交換や日本語教師の結束を強めるように努力している。

ジュニア専門家の業務

日本語弁論大会の写真
日本語弁論大会

 業務には、各地に派遣されたジュニア専門家が担当地域に対して行う、配属校訪問や学校訪問、MGMP等地域の教師への支援、勉強会などの地域業務と、JFジャカルタ日本文化センターの要請に応じて行う研修への出講や教材作成など他地域のジュニア専門家などと連携して行う業務とがある。地域業務では、毎週1回の勤務日が指定された配属校が2校と月1回のMGMP、その他の恒例の行事以外には決められたスケジュールがないので、時間を上手に管理して学校訪問や勉強会の予定を立てていく必要がある。

 赴任1年目は、語学系向けの教材作成プロジェクトの最終年であり、2007年夏に刊行された。2年目からは、語学系以外の学生向けの教材作成プロジェクトが始まって、3年目になる次の新学期から試用が開始される予定になっている。1年間の使用を経て来年の夏に完成する。

 私が赴任してから、地域で業務を行う上で最も気を配ってきたことは、教師間のネットワークの構築である。初めは思うように人が集まらずに寂しい思いもしたが、徐々に存在も認知されてきて、今では先生方の方から声がかかることもある。

 ジュニア専門家の立場で言えば、さらに日本語を取り扱う学校数が増えて、日本語科目の授業時間数も学習者数も増えることを望んでいる。だが、国家教育省の制度改変などの外的要因による増加ではなく、先生方の団結と協力の成果として、個々の教師による働きかけと努力によってそれが成し遂げられることを期待したい。北スラウェシの先生方は、恵まれた環境に安穏とせず、技術の研鑽に努めながらも、日本語教師を存分に楽しんで、日本語と日本の魅力を生徒たちに伝えていってもらいたいと思う。そのためには、ジュニア専門家としてできる限りの協力をしたい。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
1997年、北スラウェシ州に初めてジュニア専門家(旧青年日本語教師)が派遣された。ジュニア専門家はJFジャカルタ日本文化センターの業務方針に従い、主に以下の業務を行う。(1)配属校において日本語教育に関する指導を行う。(2)派遣地域の現地教師に対する支援を行う。高校日本語教師会(MGMP等)の活動を支援する。(3)高校日本語教師研修の実施に協力する。(4)高校日本語教材の作成に協力する。(5)派遣地域の日本語教育に関する情報を収集する。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, Jakarta
ハ.所在地 Summitmas I, Lantai2-3, Jl. Jend Sudirman Kav.61-61, Jakarta
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名

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