世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ジャカルタ首都圏の日本語教育 -学習者急増の中で-

国際交流基金ジャカルタ日本文化センター(ジャカルタ首都圏中等教育機関)
栗原明美

 2006年の日本語教育機関調査の結果【PDF:283KB】をご覧になりましたか。何とインドネシアの日本語学習者は3年間で3.2倍となり、計272,719名で世界4位になりました。これは、現場で日本語を教えている私たちにとっても、驚くべき結果でした。増加した学習者の多くは中等教育(高校)で学ぶ生徒たちです。その中等教育支援のために、今インドネシアには5人のジュニア専門家が派遣されており、私はジャカルタ首都圏の全高校を担当しています。今回は、私の現場での経験をもとに、学習者が急増したインドネシアの中等教育で、どのようなことが起きているのかについてご紹介したいと思います。

1.学習者急増の理由

選択必修科目で学ぶ生徒の様子の写真
選択必修科目で学ぶ生徒の様子

 どうして日本語学習者が増えたのでしょうか。それは、高校でのカリキュラムが2006年に変更され、選択必須科目として日本語が勉強できることになったからです。今まで、主に日本語を勉強するのは、語学系という語学を専攻する生徒でしたが、2006年からは、第二外国語が高校生全員履修の選択必須科目に入ったので、語学系以外の生徒も日本語を学ぶようになりました。例えば、1クラス30名、1学年5クラス、全校生徒450名の学校があるとします。2003年の時点では、語学系クラス3年生の一クラス、つまり30名しか日本語を学ばなかったところ、2006年からは選択必修科目で日本語を選んだので、全校生徒450名が日本語を学ぶことになったというわけです。今、このような学校が各地で増え、学習者が増え続けています。

2.現場での課題

 このような制度の変革による学習者急増で新たな課題が出てきました。1つは、語学系とは異なる目標を持つ選択必修科目の生徒に対する教え方です。今までの語学系の生徒と比べて、選択必修科目で学ぶ生徒には、必ずしも自分の意思で選択したわけではないという点、卒業試験がないという点の2つで大きく異なります。まず、選択必修科目は自分の意思で選ぶことができません。選択必修科目の第二外国語は日本語、中国語、フランス語、ドイツ語、アラビア語の中から選ぶことができるのですが、それを決めるのは学校長です。ある学校が「選択必修科目の外国語は日本語を学ぶこととする」と決めれば、その学校の生徒は全員、好むと好まざるとに関わらず、日本語を学ぶことになります。中には生徒からの要望が高いという理由で日本語を選ぶ学校もありますが、生徒の中には日本語にまったく興味がない人もいるのです。また、卒業試験の科目に入っていないので、どうしても英語や数学などの卒業試験科目と比べて生徒にとっての重要性が低くなってしまいます。こういったことから、選択必修科目では、日本語にどうやって興味を持たせるかということが大きな課題となっています。その他にも、学習時間も鼕w系の約半分と少ないので、その短い時間でひらがなやカタカナを教えると1学期かかってしまい、生徒が日本語嫌いになってしまうという話も聞きました。このように、動機、学習時間、文字の扱い方など教え方に関する問題が出てきています。

 もう一つは、この変革で採用された教師が多いため、経験が浅い教師が増えているということです。ベテランの先生方でも今の状況への対応に困っているわけですから、経験の浅い先生はなおさらです。また、選択必須科目用に使える教科書もなく、自分で教える内容を考えなければならないので、経験の浅い先生方にとっては難しい状況になっています。

3.課題に対する取り組み

小研修の様子の写真
小研修の様子

 これらの課題に対して、今次のような取り組みをしています。まず、経験の浅い先生たちへは小研修を行って教授能力向上の手助けをしています。小研修はインドネシア人のインストラクターの先生が主体となって行う地域の研修です。ジャカルタ首都圏で小研修を行ってすでに3年になりますので、インストラクターの先生の指導もしっかりしたものになってきました。今後もこの小研修を行うことで、経験の浅い先生方の手助けをしていきたいと思っています。

 しかし、小研修が行える回数には限りがあり、参加してもらえる先生の数もそう多くはありません。そのため、なるべく多くの先生方の手助けとなるよう、現在、選択科目用教科書を作成中です。この教科書は2008年7月から約1年の試用期間を経て、2009年7月には完成する予定です。私たちはこの教科書を通して、選択必修科目での教え方に対する一つの提案を行いたいと考えています。

 以上のように、日本語を勉強する人が増えるのはうれしいことですが、その人たちが日本語を勉強して楽しかった、面白かったと思ってもらえるようにするには、課題も多いというのが現状です。しかし、日本語に接する人が増えたというせっかくのこの機会を逃さないよう、適切な支援の方法を模索し、実行し続けていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
2008年5月現在、ジャカルタ首都圏の高校では、241校で日本語が学ばれ(うち普通/宗教高校175校)、198名の教師が日本語を教えている。ジュニア専門家は、ジャカルタ首都圏全域を担当し、インドネシア人高校日本語教師の日本語教授力及び日本語力向上の支援を目的とした業務を行っている。具体的な業務としては、配属校勤務、高校日本語教師会・地域勉強会への協力、教師研修、教材作成等を行っている。また、ジャカルタ首都圏の業務だけではなく、国際交流基金ジャカルタ日本文化センターの業務(ニュースレターの発行、教師研修等)も一部担当している。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation,Jakarta
ハ.所在地 Summitmas I, Lantai2-3, Jl. Jend Sudirman Kav.61-61, Jakarta
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
ホ.アドバイザー派遣開始年 1995年
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