世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) インドネシア北スマトラ州における派遣専門家の業務

北スマトラ大学
飯尾幸司

 みなさんこんにちは。インドネシアの北スマトラ州で日本語教育派遣専門家として仕事をさせていただいている飯尾幸司と申します。

 北スマトラでの派遣専門家の仕事は、派遣先機関である北スマトラ大学(以下「USU」と略します)支援、北スマトラの高等教育支援、北スマトラの中等教育支援の三本柱からなっていますが、業務の中心はUSU支援です。

 先ずは、USUの教師支援についてご報告いたします。

 平日はほぼ毎日USUに行き、漢字の読み方から人間関係のもつれまで幅広い分野においてコンサルティングやカウンセリングを行いつつ、カウンターパートの教案指導や各種勉強会を行ったりしています。

 そういった活動を通して、先生方の日本語力や教授力を高めることはもちろんですが、この3年間私が目指してきた第一の目標は、先生方に学生のことを第一に考えるようになってもらい、学科を良くするためにみんなで協力していこうという姿勢になってもらうことでした。

 最初はそういった問題にどこから手をつけたものかと悩んだり、いくら頑張っても無駄に終わるのではないか、或いは、ある程度改善されたとしてもそれは目に見える成果として現れないのではないかと考えたりもしましたが、最近ではその効果が至るところで見られるようになり、本当に嬉しく思っています。

 現在先生方と一緒に行っている「初級日本語類義語小辞典作成プロジェクト」もその一環としてスタートしました。

 インドネシア語を少しでもかじったことがある人ならすぐにわかると思いますが、インドネシア語は日本語と比べて語彙が少なく、そのことがインドネシア人日本語学習者にとって大きなハンディキャップとなっています。例えば、「痛い」と「病気」、「エンジン」と「機械」、「少し」と「少ない」、「次に」と「次の」などを使い分けることはインドネシア語母語話者にとっては難しいようです。

類義語小辞典作成メンバーの写真
類義語小辞典作成メンバー

 私は先生方に、こういった言葉の違いを詳しく説明するインドネシア人のための教材はないので、みんなで類義語の小辞典を作ってみませんかと持ちかけたのですが、その本当の狙いは、協同することによって先生方が気軽に相談できる環境を作り、一人ではできないこともみんなで協力したらできるということを分かってもらうことでした。

 このプロジェクトには6名の先生が参加し、プロジェクト開始から現在までの2年間、自主的な話し合いの場が多く持たれ、先生方が積極的に意見を交わすようになり、それが学科全体にいい影響を与えていると感じています。

 次に、USUの学生支援について簡単にご報告します。

 前回もUSUの日本文化祭についてご報告しましたが、今年度も何とか無事に日本文化祭を開催することができました。今年度の文化祭は、予算的には前年度よりかなり少なかったのですが、前年度を100名程度上回る約250名の学生が実行委員として参加し、その実行委員一人一人が責任感を持ち、知恵を出し合ってみんなで協力できたいい文化祭だったと思います。

文化祭閉会式後の写真
文化祭閉会式後

 お化け屋敷や浴衣を着ての撮影などの行事は整理券が間に合わないほどの人気でしたし、コスプレや剣道などはステージが見えないぐらいたくさんのお客さんが集まっていました。

 今年度の文化祭を開催するに当たり、私は学生の自立ということを第一の目標にしていました。ですから、今年度の文化祭は前年度の文化祭と違って、ほとんど全ての行事に計画段階から細かい指示やアドバイスをするということはせず、できるだけ裏方役に徹し、私の仕事は専ら学生や教師と日本人との懸け橋役となることでした。例えば、日本企業へ金銭的支援をお願いするときの根回しや、各行事の審査員や協力者への協力依頼や調整などです。

 学生の自主性に任せた分、文化祭が終わったときに私としては物足りなさを感じましたが、学生や教師と日本人との交流が前年度より遥かに多かったことをとても嬉しく思っています。特にペナンから無償で来てくださった生け花師範の中山真知子先生とご主人は、学生たちと一緒に多くの時間を過ごしてくださいました。

 ただ楽しいだけの文化祭でも十分に意味があるものだと思いますが、日本文化祭を行う本当の意義はそういった日本人とインドネシア人の触れ合いにあると私は思います。

 来年度は今年度以上に予算的に厳しいことが予想されますが、教師と学生みんなで力を合わせ、何とかこの文化祭を継続させてもらいたいと思います。

 最後になりますが、北スマトラ大学への専門家派遣は2009年6月末で一旦終了ということになってしまいました。個人的には、これからという時に残念だという気持ちでいっぱいなのですが、専門家がいなくなっても先生方には、自分の目標を持ち、みんなで協力して問題を一つずつ解決していこうという気持ちを忘れないで欲しいと思います。忘れかけた時には、そういえば飯尾がこんなことを言っていたなあと思い出してもらえることを願っています。

 これまで私にお付き合いくださった先生方、本当にありがとうございました。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
北スマトラ大学日本文学科は日本語教育学会北スマトラ支部の事務局を担当し、日本語能力試験の実施機関に指定されている。日本語教育専門家は同大学において日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師の育成を行う。また、地域派遣専門家として教師支援を中心とした域内の日本語教育支援を行う。具体的には域内の日本語教育ネットワーク形成・強化への支援、勉強会・セミナーでの講師役、セミナー開催の企画・実施への協力、高校日本語教師会およびメダン日本語学校教師会への支援などの業務がある。
ロ.派遣先機関名称 北スマトラ大学
North Sumatera University
ハ.所在地 Jl. Universitas No.19, Kampus USU Medan 20155, Sumatera Utara
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
JENESYS若手日本語教師:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
文学部日本文学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2000年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1988年
(ロ)コース種別
日本文学科
(ハ)現地教授スタッフ
常勤11名、非常勤7名(うちアシスタント2名、在留邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   各学年定員が40名
(2) 学習の主な動機 (1)就職 (2)日本文化 (3)日本語でコミュニケーション
(3) 卒業後の主な進路 実際には日本(語)に関わる職につくものは少ない。
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定3級程度
(5) 日本への留学人数 私費留学で数名

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