世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 高校の選択科目としての日本語教育 —『さくら』作成を通じて感じたこと—

国際交流基金ジャカルタ日本文化センター(ジャカルタ首都圏中等教育機関)
栗原明美

高校文化祭での盆踊りの様子の写真
高校文化祭での盆踊りの様子

 ジャカルタ首都圏では現在約230の高校で日本語が学ばれていますが、実は、2004年には約70校でした。この5年で3倍以上に増えているのです。日本語学習が盛んになるにつれて、いろいろな地域で教師会や文化祭が活発に行なわれるようになり、日本語を教える私としては、うれしい状況なのですが、実際の日本語教育現場はどうなっているのでしょうか。今回は、選択科目用日本語教科書『さくら』作成を通じて感じたインドネシアの高校における日本語教育の現状と課題についてご紹介したいと思います。

『さくら』作成の経緯

選択科目用日本語教科書『さくら』の写真
選択科目用日本語教科書『さくら』

 2008年のこのコーナーでご紹介したように、インドネシアでは選択科目で日本語を学習する高校生が急増しました。しかし、それと同時に多くの先生から、どう対応すればよいかわからない、選択科目用の教科書がほしいという声が出てきました。その悩みの多くは、①学習時間の少なさ、②文字の扱い、③生徒の学習動機の3つに関係するものでした。①については、選択科目の授業は1週間に1回90分で、日本語が必須の語学系の約半分と少ないので、語学系用教科書『にほんご』では量が多すぎて合わないという問題が出てきました。②は、学習時間が少ないために、ひらがなやカタカナを覚えきれない、文字を覚えるためだけに1学期すべての時間を使ってしまうので、生徒が日本語嫌いになってしまうという悩みでした。③は、選択科目で学ぶ生徒は、自分の意思で日本語を学ぶ生徒だけではなく、学校の決定で学ばざるを得ない生徒もいますので、そういった生徒の学習動機をどう高めるかという問題です。このような問題を解決するための手段の一つとして、選択科目用の教科書を新しく作ることになりました。新しい教科書は先生たちになじみの?る『にほんご』を編集したものにし、更にこれらの問題の対応策になるように、①学習時間に合わせて内容を調節する、②ローマ字表記を取り入れる、③日本の文化の紹介を入れる、の3点を工夫しました。

 さて、『さくら』の試用版を2008年7月から実際に学校で試用してみました。その結果はどうだったのでしょうか。

課題1:レベル差の拡大

 文字は、1冊目をローマ字表記、2冊目をローマ字とひらがなカタカナの併記、3冊目をひらがなカタカナ表記としました。これに関して、3冊ともローマ字表記にしてほしいといったものから、日本語を学ぶのだからローマ字表記はいらないという声まで、いろいろな意見がでました。これは学校によるレベル差が反映されたのではないかと思います。選択科目と一口に言っても、進学校もあれば就職を目指す専門高校もありますし、理科系の生徒もいれば文科系の生徒もいます。いろいろな生徒がいますので、レベル差もあり、必要とされる教科書も違うのだと思います。必須科目での日本語は高校卒業試験という同じ目標があったのですが、選択科目が広まるにつれて、レベル、目標、環境などが多様化してくることでしょう。そうなると、一つの教科書や教え方ですべての学校に対応させることは難しく、それぞれの学校がしっかりと目標を定め、それに合う教科書や教え方を選んでいく必要があります。そのためにも、今後、『さくら』だけでなく、いろいろな教科書ができて、選択の幅が広がることを望みます。

課題2:文化の教え方

 日本を身近に感じ、生徒に楽しく勉強してもらうために、日本の文化紹介を取り入れました。これは『エリンが挑戦!にほんごできます。』(国際交流基金)から日本の高校生の生活を中心に選んで、インドネシア語で紹介しているものです。しかし、試用では、教え方がわからない、日本の文化に関する知識がないから教えられない、日本に行ったことがないから教えられないという意見がありました。確かに、先生たちの悩みもよくわかります。そこで、文化の授業例と文化に関するQ&A集を作ることにしました。Q&A集では、「日本の高校ではどんな科目を勉強するのか」「おみこしが神社の周りを回るのはどんな意味があるのか」などの生徒や先生からの質問に、ジュニア専門家が回答しました。しかし、実際に学校でどう教えるかは今後の課題になると思います。インドネシアでは、情報を集めるにも参考となる本も少ないですし、インターネットもまだまだ気軽に使えるものではありません。日本人も身近にいませんし、もちろん日本にも簡単には行けません。このような状況でインドネシアの先生たちがどうやって日本の文化を扱い、生徒に興味を持ってもらうか、これから考えるべき課題だと思います。

 このように学習者が増えるにつれて新たに取り組むべき課題も出てきました。しかし、ジャカルタ首都圏では教師会の活動が活発になり、いろいろな課題を一緒に考えていく形が整ってきていますので、今後、教師会の場でこのような課題に取り組んでいってもらえると思います。そして、日本語を学んで楽しかったと思う生徒が一人でも増えることを願っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
2009年5月現在、ジャカルタ首都圏の高校では、226校で日本語が学ばれ(うち普通/宗教高校173校)、198名の教師が日本語を教えている。日本語教育ジュニア専門家は、ジャカルタ首都圏全域を担当し、インドネシア人高校日本語教師の日本語教授力及び日本語力向上の支援を目的とした業務を行っている。具体的な業務としては、配属校勤務、高校日本語教師会・地域勉強会への協力、教師研修、教材作成等を行っている。また、ジャカルタ首都圏の業務だけではなく、ジャカルタ日本文化センターの業務(ニュースレターの発行、教師研修等)も一部担当している。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, Jakarta
ハ.所在地 Lantai 2-3, Summitmas I, Jl.Jend.Sudirman Kav. 61-62, Jakarta 12190, Indonesia
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
アドバイザー派遣開始年 1995年

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