世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ジャカルタ日本文化センターの日本語教育支援(2010)

国際交流基金ジャカルタ日本文化センター
木谷直之 益山智惠

 ジャカルタ日本文化センター(以下、センター)には、日本語上級専門家1名、日本語専門家1名、日本語指導助手2名、そしてインドネシア人講師2名が勤務し、日本語教育支援業務に携わっています。センターの主な業務は、インドネシアの中等教育支援、ジャカルタを中心とする首都圏特別地区(以下、ジャボデタベック)に対する教師支援、学習者に対する直接支援の3つに分かれています。

中等教育支援:普通高校および宗教高校日本語講師中級研修に焦点を当てて

 インドネシアでは、国家教育省が初中等教育機関の教師のための教員研修制度を設けています。中等教育レベルの教員研修は、(1)普通高校および宗教高校の教員対象のものと、(2)職業高校の教員対象のものに大別されます。≪基礎研修→継続研修→中級研修→上級研修≫というように段階化されており、下位研修での成績優秀者が上位研修に進むという仕組みになっています。

 2010年4月、普通高校および宗教高校の日本語教師を対象にした中級研修(以下、「中級研修」)が初めて行われました。インドネシアの主要8州(北スマトラ、西スマトラ、ジャボデタベック、西ジャワ、中部ジャワ、東ジャワ、バリ、北スラウェシ)の教師会でリーダー的な役割を果たしている日本語教師20名が教育省語学教員研修所(ジャカルタ)で2週間の研修に参加しました。今回の「中級研修」の主要目標は、①教育省語学教員研修所が主催する下位研修(上掲の基礎研修や継続研修)にインストラクター(「教師の教師」)として出講できる教師を育成することと、②各地域で種々の教師会活動(小研修や勉強会など)を企画・準備・運営できるリーダー的教師を育成することの2点でした。①の目標を達成するために、研修では下位研修で行われる研修生一人ひとりの模擬授業をどう評価すればいいかについて議論したり、インストラクターとして下位研修で研修生に見せる「モデル模擬授業」を一人ひとりの研修参加者が行い、その内容や方法について議論したりしました。また、②の目標を達成するために、リーダーとしてどのように地域の多様なニーズや意見をくみ上げればいいか、その具体的な方略として、ファシリテーターとしてどのようにディスカッションを進行すればいいかを、実際にワークショップでブレーンストーミングやディスカッションを体験して考えました。また、それぞれの地域の教師会としてどのような活動が必要なのか、地域の教師や学校のニーズや期待に応えるためにどのような教師会活動を行えばいいのか、活動企画案を作成し発表・議論したりしました。

グループでブレーンストーミングの写真
クラスコントロールについてグループでブレーンストーミング
アイデアが書かれた付箋紙をグルーピング

 インドネシアでは、スハルト体制崩壊後、2001年1月より政治改革の一つとして、地方分権化・地方自治化(Otonomi Daerah)が始められています。教育行政における権限は、中央政府から第二級地方自治体である県(Kabupaten)と市(Kota)に移管され、第一級地方自治体である州(Provinsi)は、県や市を監督指導する立場から調整・協力する立場へと大きく役割が変わりました(百瀬2001)。このような地域分権化・地域自立化の大きな流れの中、地域教師会の果たす役割は以前にも増して重要になってきています。

 教師会活動にはいろいろ難しい課題や制約があります。上述したように、地方分権化・地方自立化政策によって、地方の教育行政の中心は県や市に移っています。第一級地方自治体である州には、教師や教師会の活動を支援する予算も具体的な方略もありません。県や市には手続き上いろいろな問題があって、迅速な支援を期待することはできません。現状では州レベル、県・市レベル、ともに、教師会は予算面、物質面、人材面で公の支援を受けにくい情況が続いています。このような情況だからこそ、地域教師会の活動にはさまざま工夫が求められます。州レベルの教師会活動推進のために、地域内の学校に教師会支援の寄付をお願いする、教師会会員から年会費を徴収する、教師会の活動への参加費を徴収するなど、資金集めに工夫している教師会もあります。今後の教師会活動発展のために、「中級研修」修了者が地域の枠を超えて知恵を出し合い、助け合い、共に進んでいけるような環境作りがますます重要になっています。

学習者に対する直接支援:一般成人対象の講座

 センターでは2009年8月から2010年6月までの10ヶ月間、ジャカルタ首都圏在住の上級レベルの学習者のために一般講座を開いています。学習者は社会人、学生、主婦と幅広く、日本留学経験のある者もたくさん在籍しています。インドネシアにおける日本語クラスとしては一番レベルの高いコースで、現在1級程度レベルの「上級2」と2級程度レベルの「上級1」の二つのコースが開講中です。各クラスの開講曜日が違うため違うクラスの学習者同士は普段顔を合わせることはありません。そこで学習者同士の親睦を深めながら、日頃の勉強の成果を日本人に披露する場として、前期最後の授業時に「合同発表会」を行いました。この「合同発表会」は3年前からスタートし、3回目になります。これから、今年度の「合同発表会」の様子について、簡単にご紹介いたします。

 開会の挨拶後、各クラス代表のグループの発表の時間です。「上級2」の代表グループは「副業/アルバイト」について、「上級1」は「ことわざ」についての発表をしました。「上級2」の発表はさすがです。視角に訴える効果的なグラフと流暢な日本語で優等生的な発表でした。見学にきてくださった在インドネシア大使館の方、センターの所長、副所長をはじめとした職員の方々、講師の皆さんの質問にも上手な日本語で答えてくれました。引き続き、「上級1」の発表ですが、このクラスはいつも工夫した発表に挑戦します。今回もありきたりのプレゼン形式ではなく、「ことわざバトル(戦闘)」という寸劇を披露してくれました。学習者がヤクザやホステス、化粧品会社のセールスレディ、ラッパー(rapper)に扮し上手な演技でユーモア溢れる楽しい会話を繰り広げます。その会話には授業で勉強した「ことわざ」だけでなく、自分たちで調べたものが会話の随所にたくさん使われています。使われた「ことわざ」が観客の方にも分かるように、タイミングよく「ことわざ」とその意味がスクリーンに映し出されます。ドラマのアイデアもさることながら、迫真の演技には脱帽です。発表の後には、日本語や日本事情に関するクイズ(グループ対抗、賞品あり)をし、最後に学習者全員で日本の歌を歌い、集合写真を撮影し、閉幕となりました。

一般講座 合同発表会での学習者の発表の写真
一般講座 合同発表会での学習者の発表
(2009年12月)

 このように、一般講座では学習者に受身的な姿勢で学んでもらうのではなく、授業の中で積極的に使う機会を与えています。それは上級レベルの語彙、文型・表現は彼らの日常生活ではほとんど使う機会がないので、せっかく習った日本語もなかなか定着しないからです。ですから、学習者の定着を図るために、月に1回は個人、またはグループ発表を課しています。開講当初はクラスメイ トの前で日本語を話すことに躊躇していた学習者も勉強が進むにつれ、だんだん度胸もついてきて、今では皆の前で堂々と日本語で発表できるようになってきました。センターの業務は多岐にわたり、常に忙しさを極めておりますが、学習者の成長を目の当たりにすることができるのが、この仕事をしていて得られる最高の喜びです。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Jakarta
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金ジャカルタ日本文化センターは、インドネシア各地に派遣されている日本語上級専門家、日本語専門家、及びインドネシアの各機関と連携をとりながら、インドネシアの日本語教育支援をおこなっている。中等教育においては、国家教育省と協力し、カリキュラム・シラバスの開発、教材開発、教師研修を実施している。高等教育機関、民間の日本語教育に対しては、教師研修やセミナーを実施する他、定期的に主要大学を訪問し、コンサルティング、勉強会等を行っている。また、一般成人対象に日本語講座の上級クラスを開設している。 さらに、四半期に一度、ニューズレター『EGAO』の発行も行っている。
所在地 Lantai 2-3, Summitmas I, Jl.Jend.Sudirman Kav. 61-62, Jakarta 12190, Indonesia
http://www.jpf.or.id/id/index.php
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名 専門家:1名 指導助手:2名

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