世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「日本語の先生になります!」という学生たちとともに

スマラン国立大学/中部ジャワ州地域
久松 美立

 「ホワイトボードの前に立った時は、すごくドキドキして手足が急に冷たくなりました。でも、やっているうちに落ち着いてきて、終わった今は、失敗もあったと思うけど、先生になるのが、とっても楽しみになってきました。教えるのって楽しい!!」これは、初めて模擬授業をした3年生のことば(インドネシア語)です。

 スマラン国立大学は、中部ジャワの州都スマランにある旧教育大学として、中部ジャワ地区の高校の先生を育ててきました。2005年からは日本語教育専攻コースが始まり、去年初めての卒業生を送り出しました。大学での日本語上級専門家の主な仕事は、インドネシア人の先生と協働でシラバスをたて、毎回の授業を組み立てるなど、教員に対する支援です。直接学生に教えることはせず、カウンターパートの先生の授業を見学します。

初めての模擬授業、ドキドキ!の3年生の写真
初めての模擬授業、ドキドキ!の3年生

 在校生の将来の夢は日本語教師になることですから、2年生からはじまる日本語教授法関係の授業では、みんな真剣です。そのひとつの3年後期「模擬授業」の講座は2009年に日本語上級専門家が着任してから始まりました。教材分析、教授項目分析、教案を書くなどをしてから、3人1グループで1時間の模擬授業をします。使うテキストは、インドネシア教育省と国際交流基金が作成し2007年から全国の高校で実際に使用されている日本語の教科書です。またインドネシアは「先生らしく」ということに非常に厳しいので、担当の先生の発案で模擬授業でも服装は白いシャツに黒いスカートかズボンということになりました。先週まで長髪もじゃもじゃ頭だった男子学生も突然、短髪で現れ、友だちを驚かせました。

 模擬授業に先立って、学生の意見も入れていくつかのルールを作りましたが、その中に「担当教員のコメントは学期の最後にまとめてする」というのがありました。理由は、模擬授業が直接学生の成績になるので、初めにする人とあとの方の人とに不公平がないように、ということでした。内心、学生からのコメントだけで大丈夫だろうか、と心配でしたが、持ち回りでするコメンテイタ―役の学生たちは真剣そのもので、授業の流れ、練習の順序や内容、立ち位置から声の大きさ、板書の仕方や教具の良し悪しまで、毎回、担当教員が言いたかったコメントはほぼ出つくします。中には「絵カードを見せたとき、手がぶるぶる震えていたね。それでは学生も緊張してしまうよ。」などと、先生役の学生を苦笑させるものもあります。でもみんな「明日は我が身」ですから、「批判ではなく助言を」というルールを守って、きびしくも温かいコメントが続きます。このあと、4年前期にある高校での教育実習に、この経験を大いに活かしてほしいと思います。

 また、4年制コースのほかに、現職の高校の先生で教員資格が足りない人のための2年制のコースがあり、36人の高校の先生たちが学んでいます。これは金曜、土曜の週末だけですが、片道5時間かけて通ってくる人もいて、欠席はほとんどありません。頭が下がります。

 日本語上級専門家の業務は、配属大学ではこのような現地の先生との協働での授業担当のほかに、教材や授業、研究、日本語の使い方についての相談を受ける、各種行事への参加、などがあります。

  スマラン国立大学の日本語教育プログラムは5年目ですから、去年やっと4年生までのカリキュラムを実際に実施したところです。毎年カリキュラムが異なる、学生数に比して教員数が少なく先生たちが忙しすぎる、教材や参考図書が足りない、などの困難な問題もありますが、先生方が若く(40代、30代)これからプログラムを作っていこうという熱意があるので、まさに発展途上で、一歩一歩前進しているところです。また、学生数も年々増えていて、4年生35名に対して1年生は77名と倍になりました。学生の目的意識がはっきりしているので、教える側としてはとても授業がしやすい環境です。

「優勝すれば日本へ」スピーチコンテストでの写真
「優勝すれば日本へ」スピーチコンテストで

配属先大学外での地域業務としては、中部ジャワ地区の他の大学への支援があります。個々の大学の先生方から授業や教材についての相談を受ける、大学主催のセミナーや文化祭などの行事に協力する、ときには日本人ネイティブとして日本事情のクラスで学生と話す、などの活動があります。中部ジャワ地区のスピーチコンテストの審査員をすることも毎年の仕事ですが、全国大会に優勝すれば日本へ行ける、と夢見る出場者たちはみんな一生懸命で、甲乙をつけるのは本当にむずかしい仕事です。

インドネシア日本語教育学会中部ジャワ支部への協力活動としては、各地区の教師勉強会があります。スマラン地区、ソロ地区では月1回、先生たちの研究発表や教授法についての勉強会が行われています。また年一回の支部セミナーもあります。

外国語である日本語を教えることを仕事に選んだ先生たち、これから教師になりたい学生たちの真剣さに、こちらが励まされつつ、少しでも役に立てるようにと活動を続けています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 スマラン国立大学
Semarang State University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
スマラン国立大学は旧教育大学で、2005年に中部ジャワ・ジョグジャカルタ特別州地区で唯一の日本語教育専攻プログラムを開講した。日本語教師を目指す学生の意欲は非常に高く、2010年現在卒業生は14名だが、ほぼ全員が日本語教師の職に就いている。2009年からは資格不足の高校日本語教師のための2年制日本語教育プログラムを開始し、36名の現職教師が学んでいる。専門家は当大学教員と協働して、教授法関係授業を行っている。地域活動では、域内の大学の教員のコンサルティングなどの支援を行っている。
所在地 Kampus Sekaran Gunungpati Semarang 50229, Indonesia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
言語芸術学部外国語外国文学科日本語教育プログラム
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   2005年9月4年制日本語教育プログラム開始
国際交流基金からの派遣開始年 2009年
コース種別
4年制日本語教育専攻 2年制現職高校教師対象日本語教育専攻
現地教授スタッフ
常勤10名(留学中3名 実働7名) 非常勤邦人1名
学生の履修状況
履修者の内訳   4年制1年生77名 2年生67名 3年生58名 4年生35名
学習の主な動機 ほぼ全員が高校の日本語教師を志望
卒業後の主な進路 高校日本語教師
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験3級以上2級未満程度
日本への留学人数 去年5名今年1名

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