世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ジャカルタ日本文化センターの日本語教育支援(2011)

国際交流基金ジャカルタ日本文化センター
尾崎裕子 益山智惠

 ジャカルタ日本文化センター(以下、センターと略す)には、日本語上級専門家1名、日本語専門家1名、日本語指導助手2名、そしてインドネシア人講師2名が勤務し、日本語教育支援業務に携わっています。センターの主な業務は、インドネシアの中等教育支援・ジャカルタを中心とする首都圏特別地区(以下、ジャボデタベックと略す)に対する教師支援・学習者に対する直接支援の3つに分かれています。

中等教育支援:地域の日本語教師会の支援

 インドネシアには現在71万6000人の日本語学習者がおり、その95%が中等教育段階の学習者です(2009年国際交流基金日本語教育機関調査)。拡大し続けるインドネシアの中等教育段階の日本語教育を支援するために、センターは教育省と共催で高校の日本語教諭のための教師研修を実施するほか、北スマトラ州、西スマトラ州、バリ州、北スラウェシ州などインドネシアの主要な地域の日本語教師会が主催する研修会にセンター講師を派遣して、地域の日本語教育の活性化と人材育成を支援しています。

西スマトラ州日本語教師会小研修の写真
西スマトラ州日本語教師会小研修
(2011年2月6日)

 今回は2011年2月6日(日)に西スマトラ州パダン市で行われた西スマトラ州日本語教師会主催の小研修についてリポートし、基金派遣専門家のインドネシアの地域の日本語教育支援活動の一端をご紹介したいと思います。

 この日のパダンの小研修はテーマが「基本練習」。西スマトラ州の高校で日本語を教えている教授歴の浅い教諭28名が参加しました。中にはバスで何時間もかかる遠方から参加した人もいます。センターから出講した筆者と指導助手は、現地の教師会会長を含む2名のインストラクターの先生といっしょに講師を務めます。

 午前中は、まず筆者が「授業の流れ」についての講義をしました。良い授業をするために「授業の導入→(語彙/文型の)導入→(語彙/文型の)基本練習→(語彙/文型の)応用練習」という流れが重要であり、その流れが生徒の「わかる→覚える→使える」という学習プロセスにつながるという説明に皆熱心に耳を傾けてくれます。

 その後、インストラクターによる「授業の流れと基本練習」についてのインドネシア語の講義があり、続いてモデル授業です。モデル授業では参加者が生徒になり、インストラクターがテンポよく文型の基本練習をさせます。参加者は現役の高校教諭だけあって生徒役を演じるのがうまく、できる生徒やできない生徒になって、生徒がしそうな質問をしたりしながら、なごやかな雰囲気で授業が進みます。

 午後は参加者が4つのグループに分かれての模擬授業です。この日は1時間で教案や教具を準備した後、各グループ25分で、語彙の導入と基本練習、文型の導入と基本練習の模擬授業をしました。それぞれ自作の絵カードや文字カードを使い、「朝礼月曜日です」や「数学難しいです」など自分達の高校の生徒にあった例文を出して生徒役の参加者に練習させていました。各グループの模擬授業の後には短いフィードバックの時間があり、参加者やインストラクターから自由にコメントを述べます。筆者も模擬授業の間メモを取り、良かったところ、改善の必要なところについてアドバイスやコメントをします。特に、模擬授業では、表面上練習しているようで実は本当に有意味な練習になっていないような場面がよくあり、参加者に注意を促します。この日も、導入や基本練習の際の不必要なインドネシア語の説明を避け、シンプルな説明と十分かつ効果的な練習で、生徒の頭の中の日本語の音と意味の一致を心がけるようアドバイスしました。

 模擬授業の後は全体の総括をして、一日の研修は終わりです。丸一日の研修の疲れも見せず、「また、会いましょう。私もがんばります」と元気にそれぞれの場所に帰ってゆく西スマトラの先生方の笑顔は、パダンの真っ青な空のように明るく陽気でした。そんな先生方の笑顔を見ると、「来てよかった」と心から思います。普段はジャカルタにいて、広いインドネシアの各地に散らばる日本語教諭とお会いする機会は限られていますが、これからも、各地の日本語教師会の研修を通して、できるだけたくさんのインドネシアの先生方と出会い、先生方のスキルアップのお手伝いができることを願っています。

高等教育支援:地域の日本語教師会の支援

文法1日セミナーでの発表の様子の写真
文法1日セミナーでの発表の様子
(2010年12月11日)

 ジャカルタセンターが毎年行っている高等教育支援の一つに「文法一日セミナー」があります。参加者からも「勉強になった」と好評で2010年で13回目になります。ジャカルタセンター主催の文法セミナーは、専門家が文法知識についてレクチャーやワークショップをするのではありません。専門家はあくまでも「お手伝い」で、研究や発表についての指導をするだけで、実際に文献購読し知識を深め、データ収集、分析、研究内容をまとめ、プレゼンテーション資料を作成するという一連の作業は、すべて、インドネシアの現役大学教員です。今年は有能な2名の大学教員が、自ら、研究や発表のスキルを学びたいと立候補してくれました。

 今年の研究テーマは「初級と中級における、助詞「『に』『で』『を』の機能」です。毎年、セミナーの後で参加者に行っているアンケートで次のセミナーテーマとして、最もリクエストが多いのが「助詞」についてです。インドネシア語には日本語のような助詞がないので、インドネシア人にとって、助詞の機能を習得するのは困難であり、助詞について知識を深めたいという人が大勢います。そのためか、セミナー当日も会場に溢れ出すほどの方が聞きに来てくださいました。

 さて、発表者に決まってから、セミナー当日までの3ヶ月間は、どのような準備をするのでしょうか。8月下旬から、12月上旬のセミナーまで、毎月2~3回、合計11回の事前勉強会をしました。11回といっても、大学教員として働き、家族の世話もしながら、参加するのは、大変です。大都市ジャカルタは年々交通渋滞がひどく、ジャカルタの中心地にあるセンターまで電車やバスを乗り継いでくるのに片道2時間ほどかかるのも普通です。それに、毎回の勉強会も長時間に渡ります。次の勉強会までに文献購読や資料分析の課題も山ほど出ます。それでも、有能で真面目な2人の先生は、必ず、次回の勉強会までに課題をきちんとやり、事前にメールで送ってくれます。セミナーまでの約3ヶ月間、二人の先生は、ゆっくり休む暇もなかったのではないかと思います。どんなに大変でも疲れも見せず弱音を吐かず、決められたことをきちんとやるというプロ意識も素晴らしいものだと思いました。

 セミナー前日の晩、夜9時まで準備やリハーサルをしていたのにも関わらず、当日の朝は二人とも元気一杯で、最高の発表(パフォーマンス)を見せてくれました。また、会場から出た多くの質問にも大変上手に分かりやすく答えました。

 筆者は2009年度、2010年度の2年に渡り、文法1日セミナーに、センターのインドネシア人専任講師と共にアドバイザーとして関わりましたが、年々研究のレベルは上がってきていることを感じます。13年前に「専門家」が「文法」について発表し、現地教員は専門家から学ぶ場としてスタートしたものが、今では現地大学教員が自ら研究し、その研究の成果を発表する場となった点は、インドネシアの高等教育機関の日本語教育のレベルも大変評価できるのではないでしょうか。また、研究の成果は、セミナーでの発表にとどまらず、ジャーナルへの投稿という形でも行っています。

 毎年12月、同じ時期に、同じ会場で行うセミナーは、ジャボデタベック地域の日本語教員にとって待ち遠しいイベントになっているようです。研究内容を聞くのはもちろん、日ごろなかなか会えない他機関の日本語教員との交流、ネットワーク作りとして欠かせない場になっています。センターは、今後もこのようなアドバイザー型支援を続けていきたいと考えております。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Jakarta
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金ジャカルタ日本文化センターは、インドネシア各地に派遣されている日本語上級専門家、日本語専門家、及びインドネシアの各機関と連携をとりながら、インドネシアの日本語教育支援をおこなっている。中等教育においては、国家教育省と協力し、カリキュラム・シラバスの開発、教材開発、教師研修を実施している。高等教育機関、民間の日本語教育に対しては、教師研修やセミナーを実施する他、定期的に主要大学を訪問し、コンサルティング、勉強会等を行っている。また、一般成人対象に日本語講座の上級クラスを開設している。 さらに、四半期に一度、ニューズレター『EGAO』の発行も行っている。
所在地 Lantai 2-3, Summitmas I, Jl.Jend.Sudirman Kav. 61-62, Jakarta 12190, Indonesia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名、指導助手:2名
国際交流基金からの派遣開始年 1980年

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