世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 西ジャワ州における日本語教育支援

インドネシア教育大学
衣笠 秀子

 インドネシアのバンドンといっても、地図上でどの辺にあるかわからない方も多いでしょう。「第1回アジア・アフリカ会議が開かれた町」というと、ああ、世界史で習ったことがあるようなと思い出されるかもしれません。バンドンはジャワ島西部にある西ジャワ州の州都で、標高700メートルという高地にあるため、とても涼しく、緑の多い、きれいな町です。市内には9つの高等教育機関で日本語が教えられており、民間学校の学習者も加えると、3千人余りが日本語を学んでいます。

派遣先UPIでの業務

陽気な院生たちの写真
陽気な院生たち

 その中で、私が派遣されている機関は西ジャワ州で唯一、日本語教育専攻学科のあるインドネシア教育大学(以下、UPI)の大学院修士課程です。UPIには1979年から30年にわたり、日本語学科(学士課程)に専門家が派遣されてきましたが、2009年からは担当が大学院修士課程に変わりました。インドネシアでは大学教員に修士号取得が義務付けられているため、院生の多くは現役の大学教員、および教員志望者です。

 専門家の役割は論文講読や日本語教育概論、教育教材論などの専門科目をインドネシア人教員とティームティーチングで行い、シラバスを強化、整備していくことです。院生は修了後すぐに日本語を教える「教員候補」なので、大学院で得る知識、経験は即、インドネシアの日本語教育の向上につながっていくことになります。それゆえ、授業では多くのことを伝えたくて、つい力が入ってしまいます。

 修士課程では院生が発表を行うゼミ形式の授業が多いため、学生たちは発表前、課題の資料や論文を読む段階でいろいろな相談にやってきます。インドネシア人の学生にとって日本語の専門論文を読むのはかなり大変なことですが、事前によく読みこんでいて、鋭い質問をしてきます。そのまじめさ、がんばりでいい教師になってほしいと期待する一方、実は私自身がこの時間をとても楽しんでいます。

 大学院の授業に加えて、日本語学科の教員を対象としたコンサルティングや、学科の自主教材を改訂する作業にも関わり、UPI学士課程への教育支援にも関わっています。

派遣地域での業務

 専門家の業務は派遣機関での授業に加え、西ジャワ州全体における日本語教育支援があり、インドネシア日本語教育学会(以下、学会)西ジャワ支部への協力を中心に行っています。支部活動は、勉強会の実施、機関誌発行、支部セミナー開催です。

-インドネシア日本語教育学会活動支援-

学会セミナーの写真
学会セミナー

 学会勉強会は日本語教授法勉強会、論文研究会、日本語能力向上勉強会の3種を毎月1回、教師対象に開いています。参加者は6~9名程度ですが、教師として意識の高い人が多く、毎回活発な意見交換が行われます。これまで発表の中心は専門家でしたが、最近は現地教員が前向きに取り組むようになり、自立的な運営ができる体制が整いつつあります。

 次は機関誌ですが、学会西ジャワ支部は2009年から「MEDIA KOMUNIKASI「わ」」を年2回発行しており、大学教員らの執筆した研究論文を毎回5,6本掲載しています。専門家は掲載論文の査読などに関わりますが、今は編集から発行までの作業がほとんど現地化しており、優秀な人材が育ってきたことをとても頼もしく感じています。

 最後に、支部セミナーですが、これは年1回開催され、「実践研究」、「観光日本語」などのテーマで研究発表が行われています。専門家はセミナー実施のため、準備段階から運営に関わり、セミナーを成功裏に終えられるよう実行委員会に協力しています。研究発表の内容にはまだ望むべきところも多いですが、大学教員、高校教師、大学生・院生など毎回百数十名を超える参加者があり、活発なディスカッションが交わされます。このような様子を見ると、西ジャワ州の日本語教育関係者の層の厚さを実感させられます。

-中等教育支援-

 インドネシアの日本語学習者数は2010年の調査で約72万人と世界で第3位となっています。この学習者の急増は高校での日本語履修者が大幅に増えたことがその要因です。西ジャワ州でも275もの高校で日本語教育が実施されています。その現場で日本語を教える先生たちの教師会組織「MGMP」は盛んな活動を自立的に行っています。このMGMPへの支援にも携わっています。年5回行われる定例会には西ジャワ州各地の先生がバスで3~5時間かけ、バンドンにやってきます。100名を超える高校教師が集まるこの時、日本文化や教室活動について話をするセッションを担当しています。

 また、毎月1回、バンドンで開かれる地区日本語勉強会で講師も務めます。先生たちはふだん、初級の日本語を教えるだけに留まりがちで、新たな知識を得たり、日本語で何かのテーマについて話したりという機会があまりありません。ですから、この勉強会は日本語力を維持するために刺激的な時間のようで、生きいきと、楽しげに勉強しています。同じ教師として、学ぶ楽しさを分かち合える時間は本当に貴重です。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Indonesia University of Education
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
 日本語教育専攻修士課程は2001年に開設された。インドネシアの大学院の中で唯一、日本語教育で修士号を取得できる機関である。学士課程が高校の日本語教師養成を目標に掲げており、西ジャワ州の高校の日本語教師の大半が当講座の出身者であるように、修士課程も主要国立大学、多数の私立大学などインドネシア国内の高等教育機関にも多くの人材を輩出しており、インドネシアにおける日本語教育の中心的・指導的存在の一つであるといえる。
 専門家は修士課程での授業のほか、学会活動の支援、教師対象勉強会、学士課程教師へのコンサルティング等を行う。
所在地 Jl.Dr.Setiabudhi No.229 Bandung 40154 Jawa Barat Indonesia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
修士課程日本語教育専攻
Program Magister、Pendidikan Bahasa Jepang
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   1965年
国際交流基金からの派遣開始年 1979年
コース種別
日本語教育専攻(学部) 日本語教育専攻(修士課程)
現地教授スタッフ
常勤18名 (内留学中 2名)、非常勤1名
学生の履修状況
履修者の内訳  
学生総数  (学部) 約500名
(修士課程) 約46名
学習の主な動機 日本語教師希望、日系企業への就職
卒業後の主な進路 日本語教師、一般企業
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定2級を受験可能な程度
日本への留学人数 2名程度

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