世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 教育省語学教員研修所の日本語講師の養成 ―教師研修の自立化に向けて―

国際交流基金ジャカルタ日本文化センター(ジャカルタ首都圏地区中等教育機関)
秋山佳世

 2009年の日本語教育機関調査によれば、インドネシアの日本語学習者は約71万人。そのうち約68万人が主に高校で第2外国語として日本語を学んでいる生徒たちで、高校で日本語を教えている先生方は約2,600人に上ります。多くの人が日本語を勉強したり教えたりしてくださるのは本当に嬉しいことです。でも、ただ数が多ければ良いというものではありません。大切なのはその期待にどのように応えていくかです。インドネシアの中等教育支援を担当する日本語専門家(以下、専門家)は、日々その方法を模索しています。今回は、その一例として、国際交流基金(以下、JF)がインドネシア教育省の語学教員研修所の日本語講師を対象として2011年に実施した教授法研修をご紹介します。

1.先生方の学びの場、高校日本語教師研修

 “高校の日本語の先生”というと、どのような先生をイメージしますか。インドネシアの高校の日本語の先生方には、大学で日本語教育を専攻した先生もいますし、日本語を専攻したけれど教授法は勉強したことがないという先生もいます。技術研修生として日本へ行き、帰国後に日本語を教え始めたという先生もいます。そのようななか、現職の先生方が教授法や日本語を学ぶ機会として重要な役割を果たしているのが、各地域の高校日本語教師会が実施する勉強会や、JFと語学教員研修所が毎年共催している“高校日本語教師研修(以下、教師研修)”です。

 インドネシアの教師研修は、<基礎研修⇒継続研修⇒中級研修>という3段階からなっています。いずれも日本語と教授法を学びます。参加者は全国から各地域の代表として選ばれた先生方で、成績優秀者が次の研修に進みます。中級研修まで修了した先生は、各地域のリーダーとして基礎研修や勉強会などでインストラクターを務めます。このような仕組みにより、インドネシア人のインストラクターが育ち、若手の先生を指導できるようになってきています。一方、教師研修の講師は、各地域のインストラクターとJFの専任講師や上級専門家、専門家が務めてきました。

2.語学教員研修所の方針転換

 ところが、2010年6月、教師研修をJFと共催している語学教員研修所の方針が変わりました。「来月の基礎研修からは、語学教員研修所の日本語講師にもっと授業を担当させてほしい!」というのです。語学教員研修所には、日本語講師3名と日本語講師候補7名がいます(2011年5月現在)が、日本語を教えた経験も少なく、基礎研修の内容もわかっていない先生がほとんどです。地域のインストラクターが基礎研修に出講できなくなるのではないかという心配もありました。

 とはいえ、これは大きなチャンス!今後、語学教員研修所の先生が積極的に教師研修に関わり、地域のインストラクターやJFと協力して研修ができるようになれば、それはインドネシアの中等教育における日本語教育にとって自立化への大きな一歩になるからです。

3.“先生の先生”になるために・・・

“良い授業”ってどんな授業?!の写真
“良い授業”ってどんな授業?!
教師役と生徒役になって模擬授業の写真
教師役と生徒役になって模擬授業

 そこで、まず2010年6月から7月にかけて、語学教員研修所の先生4名に対して教授法勉強会を実施し、7月の基礎研修に出講してもらいました。ここでの最大の収穫は、先生方の「もっと勉強したい!」という気持ちが確認できたことでした。

 このタイミングを逃すことなく先生方の能力を引き出すことができたら…!と、次の教授法研修を企画・提案し、翌2011年の1月から4月にかけて、計17日間のワークショップと5日間の模擬研修の実施が認められました。目標は、今後の基礎研修において現職の日本語教師である研修生を指導するのに必要な知識と技能を身につけること。“先生の先生”を目指すのは8名です。

 教授法研修では、まず、教師研修の枠組みや各研修の目標と概要、地域のインストラクターとの協力が大切であることなどを共有。それから、教材分析、年間計画とセメスター計画の作成、教授項目分析、授業の流れ、基本練習や応用練習の目的や方法、教具・教材作成、試験問題の分析と作成など、基礎研修で現職の先生方が学ぶ内容をワークショップ形式で学びました。さらに、インストラクターとしてモデル授業を行う際のポイントや研修生の模擬授業の評価などについても実践とディスカッションを繰り返しました。このような3ヶ月間を経て、4月には、ジャボデタベック地域の現職の高校の先生6名を対象に、実際の基礎研修の教授法演習と同内容の“模擬研修”を実施し、語学教員研修所の先生方がインストラクターを務めました。

4.課題と展望

 この3ヶ月以上にわたる教授法研修を通じて、語学教員研修所の先生方が基礎研修のインストラクターを務めるのに必要な知識や技能は大きく向上しました。研修を終えたとき、先生方からは「これからも勉強を続けていきたい!」「前に高校で教えていた頃の自分の授業を思い出すと足りない部分が多かった…」「これから私も高校で教えてみたい!」などの声が聞かれました。それぞれが自分の課題を見つけ、学び続けようという意欲も高まったようです。今後の教師研修では、各地域のインストラクターやJFと協力しながら、学びの成果を発揮してくれることを願っています。また、高校日本語教師会と共にインドネシアの中等教育における日本語教育を引っ張っていく頼もしい存在としても、心から期待しています。私たちも、引き続き、先生方の良きパートナーとして協力していきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Jakarta
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
2011年5月現在、ジャカルタ首都圏の高校では、465校で日本語が学ばれ(普通/宗教高校291校、職業高校174校)、476名の教師が日本語を教えている。日本語専門家は、ジャカルタ首都圏全域を担当し、インドネシア人高校日本語教師の日本語教授力および日本語力向上の支援を目的とした業務を行っている。具体的な業務としては、配属校勤務、高校日本語教師会の運営や勉強会への協力、教師研修、教材の改訂等を行っている。また、ジャカルタ首都圏の業務だけではなく、ジャカルタ日本文化センターの業務(ニュースレターの発行、教師研修等)も一部担当している。
所在地 Lantai 2-3, Summitmas I, Jl.Jend.Sudirman Kav. 61-62, Jakarta 12190, Indonesia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1995年

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